2-4


「うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」


一瞬の静寂の後、藤の絶叫が学校中に響き渡った。

それを皮切りにパニックの連鎖が始まり、幾多の悲鳴が校内にこだまする。


「なんだよあれ……! なんだよあいつ!」


「腕……腕が……うわあああっ!」


恐怖で腰が抜け、琴子は椅子からずり落ちてしまう。


(人を、人の腕を切っ……うそでしょっ……!)


ずるずると窓からその身を引き離そうとするも、うまく身体が動かない。

必死に身体をひきずりながら、その場にいる唯一の頼れる大人に助けを求めようと彼女は永谷に顔を向けた。


「せんせっ……!」


しかし永谷の様子を見た瞬間、琴子は言葉を失った。

ガチガチと歯を鳴らし全身を震わせながら、信じられないという顔で彼は男を見つめていた。

なんで、なんでここにいるんだよぉ、と今にも泣きだしそうな声で呟いている。

いつだって頼もしくて、優しくて、スポーツも得意で、面白くて。

琴子が知っているは、そんな教師だったのに。

その彼が、子供のように怯え、震えている。


心のどこかで思っていた。

もしどんなに酷い事件や災害が起きても、いつだって自分の担任は冷静で、頼れる存在でいてくれると。

私たちは、それについていけばいいと。


永谷を見ながら、琴子は初めて絶望という感覚を知った。

想像と違いあまりにもあっさり生まれたそのどうしようもない感情に、なすすべもなく沈んでいく。






――――――キイイイィィィィィィィィィイインッ!!



突如、耳が痛くなるほどの高音があたりに響きわたった。

はっと顔をあげた永谷が、驚愕に目を見開いた。

音はどんどん強くなる。

永谷は咄嗟に琴子に覆いかぶさりながら、限界まで声をはり上げた。



「 みんな、伏せろぉぉぉぉっ!!!!!!!」



刹那。


すさまじい音を立てて、窓ガラスが次々と破られていく。

もちろん壁やドアも無事では済まず、一様にガラガラと崩れていった。

粉塵の舞う中、琴子は目を凝らした。

壁一面に突き刺さる、ナイフ、ナイフ、ナイフ。

切れ味の良さそうな刃は、まるで意志を持ったかのように、無慈悲に煌めいている。

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