2-3

***


校庭に佇む男が、ぐりんと首を回したようにみえた。

普通に考えればただの不審者だろう。それでも充分に問題はあるが。

しかし、琴子はそれ以上に彼から滲み出ている異質さから目を背けることが出来なかった。

なぜなら男は、のだ。


「¡Hey, tu! ¡Fuiste a donde!(おい、お前! どこから入った!)」


体育教諭の 藤壽一ふじじゅいちが、スペイン語で怒鳴りながら男に近づいていく。

小学部2年の担任であり、強面だが常に生徒の目線に立って向き合ってくれる、あたたかな心根をもった教師だ。

だが今はその厳つい顔を般若のように歪め、大の大人でも震えあがるような恐ろしい形相でその不審な男を恫喝していた。


「¡Salir de aqui pronto! ¡No condonamos desfigura los estudiantes!(早くここから出て行け! 生徒に手を出したら容赦せんぞ!)」


男がゆっくりと首を傾げた。

言葉が通じないのかもしれない。

藤もそれを察し、今度は英語で何かを言おうと口を開いた。

その時。




―――――ザシュッ!



何が起こったのかわからないという顔で、藤は呆然と男を見つめる。

ぼとっ、という鈍い音が彼の左側で響いた。

鮮血が、彼だけでなく目の前の男の顔にもふりかかる。

ゆっくりと、藤は視線を左の肩口に向けた。



「あ……」



左腕が、ない。



「わかる言葉でしゃべってくれや、おっさん。つい手が出ちまったじゃねえか」


男はにたりと笑い、顔に撥ねた藤の血液をべろりと舐めた。

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