2-2

恐怖が抑えきれず声をあげそうになるが、琴子は必死でそれを堪えた。

『それ』の中で何かが蠢く。

目を逸らしたいと願うが、彼女の頭は誰かが押さえつけているかのように動いてくれなかった。

黒い板からにゅるりと何かが這い出てきた。

人の手のように見えた。


我慢出来ず、小さな叫びをあげる琴子。


「どうした? 酷いようだったら保健室に行って寝てきてもいいぞ?」


心配そうに声をかける担任に、彼女は震える手で窓の外を指差した。

もう既に頭が覗いていた。


「ん?なんだあれ……?」


永谷が不審気に眉をひそめ、『それ』のある場所を見る。

のぞいている身体は彼にも見えるらしく、琴子は場違いだとわかりながらも少しほっとした。


ついに、その『人の形をしたなにか』が校庭に全身を現した。

永谷の様子に、亮や一眞たちも窓から外を覗く。


「誰だろう……不審者かな」


「まじで? やばいじゃん」


「さっきまで誰もいなくなかった?」


永谷だけでなくその姿は全員に見えているようで、他の教室からもざわめきが聞こえてきた。

這い出たそれがのそりと立ち上がった。

かなり大柄な、男のようだ。

しかしその存在は、そこはかとなく異質であった。



***


男が巨体を思いっきり空へと伸ばす。

そしてゴキゴキと太い首と、岩のように盛り上がった肩を鳴らした。


「あー。狭すぎだろ、ったくよぉ」


ふーっと息を吐き、満足気に辺りを見渡す男。


「じゃ、ウォーミングアップといきますか」


口周りを覆う真っ黒な髭から大きな歯をぞろっとのぞかせ、男は嬉しそうに笑った。

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