2-2 さっきから止まない後頭部の鈍痛

「――ゆきちゃん、ボサッとしない!」

 明日香先輩の怒鳴り声で、目を覚ます。

「はいっ」

 大きな声で答えつつ、僕は手にした虫取り網を振るった。

 我ながら、測ったような正確さで、光の行く先を捕らえる。蝶を捕らえたときのような、微かな手応え。

(やった)

 手首を返し、網を地面に押さえつけて。小瓶を取り出そうと、ポケットに手を差し入れる――

「危ないっ」

 誰かの声。

 ――重いものが断ち切れる音がした。

 咄嗟に身体を起こしたのが、幸いだったのかもしれない。

 ほんの鼻先を、デュラハンの鉄拳――文字通り鋼鉄の拳がかすめていった。

「――うわぁっ」

 風圧に煽られて、そのまま尻餅をつく。

「じっとしてろっつの! こいつっ」

 大きく広がったオリーヴ色のコートが、デュラハンに覆いかぶさった。コートで奴を引き倒しながら、飛びかかった明日香先輩が甲冑を押さえ込む。更に走り込んできた妙さんが、ダメ押しとばかりにダイビングエルボーを決める。

「早くしろ、ゆきちゃん!」

「急いで、浅野君!」

 二人に言われるまでもなく、手の中の小瓶を指で探る。コルクの蓋を外しながら、僕は、“妖精”を捕らえた網に空いた方の手を伸ばした。

 勝負は一瞬。

 この緊張感はどこかで味わったことがある――そう、まさに、蝶々を虫取り網で捕らえた時のそれだ。

 微かに浮かせた網と地面の隙間から手首を差し込む。

 輝きを、小瓶に誘い込み。

 一息に蓋をする。

 瓶を摘んだ指先の血管が、光で透かされた。

「……やった」

 のか?

「――ゆきちゃんっ、ゆきちゃんっ、すっごぉぉぉぉぉぃっ!」

 泉があげる歓声。振り向くと、もうそこに彼女がいて。飛び込んでくる身体の柔らかさを堪能する間もなく、僕はその体重に耐えかねて、砂利に叩きつけられていた。

「ぐぴぇ」

 さっきから止まない後頭部の鈍痛は、多分、それが原因だったのだと思う――

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