自意識の境界線
俺はいつだってヒーローだった。目の前の悪を、恐怖に泣く弱者を、倒し、守ってきた。そんな自分の行いに疑問なんて抱かなかったし、気持ちの悪い言い方になるが、そんな風に正義を行使ができる自分が好きだった。
あの時までは。
その日、俺はいつものように目を覚まし、いつものように、ごく自然に悪に向かっていった。その日俺の前に立ちふさがったのは、いつか俺に守られていた存在、それに脅かされていたのは、いつか俺が倒した存在。しかし何かがおかしい。違和感の原因にはすぐに気がついた。まだ何も起こっていないのだ。誰だって傷ついていないのに俺は善悪の構図を既に打ち出している。さらに言えば俺は、かつて倒した者と守った者を同時に前にして、その善悪をその時の逆として認識している。おかしい、そう考える頭とは裏腹に体だけはいつものように悪と認識した存在を打ち倒していく。やめろ、頼む、こいつが悪なはずがない。最後に残ったのは、勝利と、圧倒的な虚しさと疑問だった。その日の意識はそこで途切れたが、その後数日間、自分の意思を無視して体だけが動く感覚が拭えされずにいた。まるで何か大きな意思が自分の中に介在しているような、どうしようもない、それでいて気持ちの悪い感覚。
そんなある夜、いつもならとうに意識を失っているような時間、俺の体は動かなくなり、かわりに思考は冴え渡っていた。今は誰も敵や味方として認識していない、体も動かない。つまり俺は、何か大きなもの(仮に主とでもしておこう)の意志で行動を制限され、認識を行っている。その主の目的は掴めないが、おそらく今まで敵と捉えていた存在も同様だったのだろう。とするとやはり目的は快楽か?そこまで考えたかどうかというところで俺の意識は途切れた。
…………
「パパー!!お人形さんの電池切れちゃったぁ!」
「あっさてはお前スイッチ入れっぱなしで寝たなぁ〜、じゃあ一緒に買いに行くか!」
「うん!!」
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