そんなセカイも

つかいかた

思い出

息子の着替えを手伝っていると、ふと僕は子供の頃を思い出した。今でこそ科学者として給料をもらい、家族を養ってはいるが当時はとんだ悪ガキだった気がする。僕の住んでいた町は小さな、遊び場なんてのは近所の公園か駄菓子屋しかないような、そんなところだった。その分話が伝わるのも早く、僕が悪さをして家に帰れば既に両親はそれを知っていてこっぴどく怒られたし、白い服を着たユーレイたちを見た、と言った次の日にはクラスのみんなに口々に質問されたり、こいつ頭大丈夫か?という目で見られたものだ。幸い、と言っていいのかどうかは知らないが、そのユーレイたちも少しして消えてしまったから大して面白い話にもならなかったし、元来頭はいい方なので噂は下火になり変人扱いもされずに済んだ。その後僕は中学、高校を経て、大学である装置の研究に没頭し、論文でそこそこ名の知れた賞を貰うことになる。しかしこんな人生でよく結婚出来たものだな。そういえば妻との出会いも確か、

………………

「お父さん?どうしたの?」

「っ、あぁごめんごめんちょっと昔のこと思い出しててな」

「急がないとダメなんでしょ?お母さんは準備終わってるよ?」

息子にそう言われ見てみれば既に妻は着替えを終えて何かを祈っていた。今祈るには祈るべきことと時間が釣り合ってなさすぎる気もする。

「そうだな、急がなくちゃな。」

そう言って息子の着替えを済ませる。

……なんでこんな時に急に思い出したんだろう。そう思いながら僕は自分の着替えを手早く終わらせる。走馬灯か何かだろうか。だとしたらこの準備も徒労なのかと思うと少し寂しく感じる。窓から外を見る。

「じゃあ行こうか。おいで、始めるよ。」

妻と息子を抱き寄せながら装置を起動させ、もう一度窓の外を見る。断続的に巻き起こるキノコ雲、むき出しになってひしゃげた鉄骨。数ヶ月前、様々なアクシデント(主に国家の威信や経済が絡んだ)が起こり世界は第何次目かの世界大戦を迎えた。敬愛するアインシュタインの予言こそ外れたものの、確実にこれで文明は無くなるという規模だ。この世界にいる限り確実に死ぬのだろう。モニターを見ると、起動準備が終わった装置が動き出し、僕らの身体が薄れていく。まさか自分が開発した装置の、タイムマシンの人体実験がぶっつけ本番で、しかも自分が被験体になるとは思ってもいなかったな。理論上は今着ている無地のスーツを身に付けた被験者の記憶の中から適当に算出した場所と時代に行くようになっているが、どうだろう、急ピッチで形にしたから確かめる余裕もなかったな、ここまで考えて視界が光に包まれる。次に見た場所は見慣れた町の中だった。周りを見渡す。そこには見慣れた、いや、この場合はなんと表現すればいいのだろうか、やんちゃ盛りの少年がいた。

……あぁ、やっぱりあれは走馬灯だったんだ。視界が光に包まれた。

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