2『ー承ー』

姉は数日前…3日前に事故で死んだ。

いつも通り、学校から家に帰ってきた姉はギターを持って家を出た。

目指す場所は小さいライブハウス。

その途中…目的地の目の前で姉は、死んだ。

居眠り運転のトラックに撥ねられたのだった。

運転手はそのまま永遠の眠りについた。

私たち遺族は、犯人を責めるということで姉を失った悲しみを紛らわす事も出来なかった。


―私たちの日常は崩れた。


母はずっと寝たままだ。

買い物に行っても冷凍食品やレトルト食品を買って帰ってくるだけ。

家事は一切しなくなった。

娘を失って、もう家族の事なんてどうでもよくなっているようだった。


父は仕事に行かなくなった。

毎日リビングで酒を飲んでテレビを見て、寝ている。

しかし荒れてはいない。

残った私たちに何をするか分からない…そう言って、大量の水で薄めた、味のするか分からないような酒を飲んでいる。

娘を失って、でもやっぱ家族を第一にしている父は凄いと思った。


私は学校に行かなくなった。

毎日昼くらいまで寝て、起きたらあの高台で姉と一緒に過ごす。

そして陽が沈んだら家に帰り、寝る。

それだけだった。

腹も減らない…喪失感でお腹がいっぱいだから。

姉を失って…いや、姉は失っていない。


だってさっきも隣で笑っていたじゃないか。


どうして、リビングから姉の名前が聞こえるんだろう。


あの感情がこもっていない声のアナウンサーは誰なんだろう。


いやだ。


激しい頭痛と吐き気に襲われた私は隠れるように布団にもぐった。

そして、窒息するくらいの勢いで顔を枕に押し付けた。

まもなく、私は死んだように眠りについた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る