15多勢に無勢


 赤色灯とサイレンは、警官たちを十分おびえさせたらしい。覆面パトカーが突っ込むと、どいつもこいつもぎょっとした顔で動きを止めた。


 制服に私服、合わせてざっと二十人近い。


 本来なら自分たちが犯罪者に浴びせる光を恐れるとは。もう、悪事を認めたようなものだな。


 ドリフト気味に車を停めると、エンジンとランプを切って外へ飛び出す。


 M97を構え、警官達に向かって叫んだ。


「全員動くな! 断罪者、丹沢騎士の名において。ポート・ノゾミ断罪法5条にもとづき、禁制品の製造、取り引きを行った者を断罪する。抵抗すれば殺傷権を行使させてもらう、邪魔立てしても同じだ!」


 この中に必ず、ドラッグをばらまいた売人がいる。

 そう踏んだのだが。


「……警察ばっかりかよ」


 見回したところ、たたずんでいるのは警官ばかりだった。確かに不当逮捕だが、そのこと自体は断罪事件ではない。警官がドラッグを製造しているかどうかは不明だ。


 同じく車から出てきて銃を構えたユエがたずねる。


「……先生は、ねえ、稲村先生はどうしたの!」


「あ、そういえば……」


 IUの生徒があたりを見回したときだった。

 嫌な寒気がして、俺はユエに飛びついた。


 ドウン、という重たい銃声。


 ハイエースのちょうつがいが吹き飛ぶ。開けっ放しのフロントドアが自重で傾いた。


 車の部品を破壊した。大口径の銃だ。俺が何か言うよりも前に、ユエはコンテナの影へと隠れている。俺もとりあえず落ちたドアの逆側に逃げた。


 射撃位置は恐らく倉庫の二階あたり。マズルフラッシュというのか、火薬の炸裂が見えた。


 警官達は事態が分からないらしい。俺とユエが逃げたのを幸いに、配電盤を操作して倉庫の電気を点灯させたらしい。


 倉庫の二階。光の中に現れたのは、スーツのまま銃を構えるIU同好会の顧問、女教師の稲村だった。


 手にでかい銀色のオートマチックを持っている。

 あれはデザートイーグルだ。

 強力な50口径のアクションエクスプレス弾薬を放つ、化け物のような拳銃だ。


 稲村は女の細腕で平然と俺たちめがけて撃ってくる。あの銃は威力が高いぶん、発射時の反動も強い。マズルブレーキが効くとはいえ、相当うまく扱わなければ、とても連射などできないというのに。


 俺狙いの弾丸がハイエースの側面を貫く。この車両は銃撃戦仕様じゃない。ノーマルのボディなど、紙くずのように破られてしまう。銃弾は足元のアスファルトも砕いた。


 6発、7発、降り注ぐ弾丸に怯えながら、俺はなんとかコンテナの陰まで逃げた。ようやく防げたらしい。


「ぼさっとしてないで、とっとと殺しなさい! こいつらを生かしたら、あなたたちは終わりでしょう!」


 稲村が警官を煽る。現代社会を教える若い先生の面影などない。


 言ったもの勝ちの雰囲気か。警官たちは断罪者を敵と見定めたようだ。いよいよ捜査もなにもない。


 だがこれで事態は読めた。稲村は生徒の逮捕という幕引きを演出すべく、IUに潜り込んで、裕也達を煽っていたのだ。そして恐らく、あいつこそが、俺達の追っていた売人に違いない。


 稲村がカートリッジを捨て、ポケットから2つ目を装填した。デザートイーグルは大型のオートマチックだが、弾がでかいぶん幅を取る。マガジンに7発しか入らない。


 ユエもそのことを知っている。リロードの隙を突き、一直線に倉庫の下の階段を目指す。


 そんなユエを、警官たちは見逃さない。5、6人が一斉に銃を構えた。


 テンガロンハットの下で、ユエの目が冷たく光る。


 六発の銃声。水銀灯の光を反射し、SAAが銀色に輝く。ポンチョの隙間の銃身から、黒色火薬の煙が立ち上っている。


 腕、胸、足、肩、手。頭でないのは、せめてもの慈悲か。コンテナやパトカーを盾に射撃を試みていた警官たちが、ことごとくうめきながら倒れた。


「あっは! 腕落ちてないんだ。怖い怖い、硝煙の末姫は健在ね」


 愉快そうに、スライドを引いたデザートイーグルを構える稲村。


 照明の下でも、マズルフラッシュがはっきりと見える。フォークリフトの陰に飛び込むユエの足元で、アスファルトが砕け散った。


 さっきの早撃ちで、SAAの弾を使い果たしたらしい。ユエはP220を抜いたが、稲村は容赦なく銃弾を浴びせる。フォークリフトが火花を上げ、隠れたはずのユエの脇で、火花が散った。弾丸が車体を貫通している。


「この子は私が始末するわ! あんたたちはショットガンの坊やを。M97は6発しか撃てないから、囲んで蜂の巣にすればいい! 人間じゃないけど、頭を撃てば殺せるわ」


 こいつ、俺の銃を知ってるのか。デザートイーグルを自在に使えることといい、銃器に慣れてやがるな。


 となると、アグロス人なら、正体は傭兵か軍人。しかも島に相当詳しい奴だ。GSUMあたりが雇ったのだろうか。


 だがもしバンギア人で、人間だったら。ここまで銃器の適性を持つのは――。


 ユエが叫んだ。


「ヴィレ団長、なぜこんなことに協力するんです! 日ノ本とつるんで、島にドラッグをばら撒くなんて、あなたは私達と違って、正式な王国騎士に取り立てられたのでしょう!」


 こいつを知っているのか。口ぶりからすれば、紛争中の事が関係するらしい。


 そういえば、ユエ以外にも銃を取って自衛軍と戦った魔力不能者はいたらしい。紛争まで軽んじられていた彼らは、ユエを除く全員が平民階級だったという。


 七夕紛争において、大陸に攻め込んできた自衛軍に手を焼いた崖の上の王国は、それまで犬畜生と蔑んでいた魔力不能者の彼らを一時的に騎士身分とした。


 その名も特務騎士団。ユエも所属したその騎士団は東奔西走し、自衛軍に多大な損害を与えた。崖の上の王国は、そうやって王国の騎士が攻め込んできたアグロス人に勝ったという事実を作り、威厳を保ったという。


 ユエの言う通りなら、稲村の本当の名はヴィレ。その特務騎士の団長を務めていたってことになる。騎士団長が現れたのだから、バンギア唯一の人間の国、『崖の上の王国』が、今回の事件に一枚噛んでいるのだ。


 ユエはフォークリフトを飛び出し、倉庫の角へ身を隠す。さすがに分厚い倉庫の壁は、デザートイーグルでも崩せない。


 ヴィレがまた弾を撃ち尽くし、換えのマガジンを取り出す。

 相当な腕だが、狙いはユエに向いている。


 少し遠いが狙ってみるか。

 スラッグ弾を込めて立ち上がった瞬間、警官隊の銃撃が降り注いだ。

 くちばしを挟める雰囲気じゃない。


 デザートイーグルを撃ちながら、ヴィレがユエに向かって叫ぶ。


「騎士身分といってもね、銃で成り上がった魔力不能者なんて、宮廷の奴らは捨て駒扱いよ。娼婦じゃないだけ、ましというだけ! 賤しい私は、お姫様のあなたと違って生きていくのに手柄が要るのよ、汚いことをやってでもね!」


「そんなの間違ってます、団長だったらきっと」


「甘いわ、お姫様。そうやって、島でも私を殺せなかったでしょう。魔力不能者は犬畜生にも劣るのよ。何があってもそれは変わらない、畜生らしく、獰猛に殺さなければ生き残れない」


「団長……」


 沈痛な面持ちで、SAAのリロードを中断したユエ。


 あのヴィレという女、恐らくユエの師匠のような存在だ。俺にとってのザベルみたいなものなのだろう。


 そしてユエは気づいていたのだ。ホテルノゾミで、奴と対峙したときに。それが恐らく、あんな距離で最も得意なSAAを外してしまった理由なのだ。


 思えば、チョーク投げを見たときも妙だった。あれはナイフの投擲術に近い。ユエはあの技で稲村がヴィレだという確信を深めていたのだ。だから様子が変わっていた。


「ユエのやつ……!」


 俺にもギニョルにも伝えなかったのか。そんな重要なことを。


 確証がなかったからか。いや、それは考えにくい。

 身内を断罪したくないから、黙っていたのだろう。


 断罪者失格だ。


 稲村改めヴィレは、スーツの胸ポケットから、何か丸いものを取り出した。

 手榴弾だ。ユエへの言葉は、動揺させて隙を作るためか。


 自分で言った通り、畜生らしいやり方だ。

 まずいぞ、今のユエはまともに戦えない。


「ユエ! 油断するな、手榴弾が来る!」


「黙れ、化け物め!」


「……ぐっ」


 ヴィレが撃った3発のうち、1発が命中した。右肩、鎖骨の下だ。コンテナの陰に引っ込む。


 幸いにも傷が浅い。デザートイーグルじゃない。三呂で撃ってきたのと同じ、小さなオートマチック拳銃、コルトのベストポケットの方だ。俺との距離は警官隊からさらに離れているというのに、大した腕だ。


 手榴弾が投げつけられたらしい。爆音と共に、倉庫の方で煙があがった。


「遊佐、とっととそいつを始末なさい!」


「言われなくてもだ。回り込め、追い詰めろ」


 警官が俺を包囲にかかる。再び銃撃が始まった。


 ユエが6人減らしたが、それでも相手の数は10人を超えている。


「くっそ……」


 M37エアウェイトの、38スペシャル弾がコンテナを叩く。

 まるで火花の雨だ。弾も結構持ってきたのか、ぜいたくに撃ってきやがる。


 ユエが心配だがあいつだって断罪者。2年一緒にやってきて、この程度で死ぬような奴じゃないことは分かってる。


 自分に言い聞かせつつ、ネクタイをほどくと傷口を覆い、わきの下で縛る。


「いってぇな……」


 ぬるついて熱い。背中に穴が空いていないから、貫通してないな。弾頭はニッケル製だったか、島に戻ったら、フリスベルに取り出してもらわなければ。


「多いな……」


 警官隊が近づいてくる。当たり前だが、俺は不死じゃない。治りが早いだけで、撃たれれば死ぬ。しかも今日はボディアーマーもないのだ。


 一人で全員倒すのは無理。が、せいぜい暴れまわってやる。


 コンテナを飛び出すと、正面に二人の警官。右から回り込んできた奴らだ。


 面食らった相手に向かって、M97の引き金を引く。


 飛び出たスラッグ弾。防弾チョッキをぶち抜く。警官が崩れ落ちた。

 フォアエンドを引いて排莢、装填。続けてもう1発。バックショットがもう一人の全身に散弾の穴を開けた。


 倒れ込んだ2人を飛び越え、別のコンテナに駆け込む。同僚をやられた恨みか、エアウェイトの銃声がひときわ激しくなるが俺には届かない。


 変な位置で撃ってきやがる。弾の無駄だ。


「撃たれるのは、初めてなのかね……」


 ショットシェルを補充しながらつぶやく。


 あの2人は死んだだろう。俺は警官を、日ノ本の人間を撃った。売人の言いなりになって、断罪者に向かってきた奴らではあるが。


 もういい。断罪の最中だ。


 とがめる様な銃声のさなか、考えを巡らせる。


 連中はどうやら銃撃戦に慣れていない、俺がどう動くが予想がついていない。

 ヴィレの言う通り、取り囲めば勝てると思っているのか。それを聞いた俺が素直に囲まれるはずがないだろうに。


 銃弾の雨の中で、警官たちの動きをうかがう。明かりの中、俺を包囲しようと動いている。影までは気が回らないのだろう。


 これなら、いけるか。塹壕に乗り込んできた敵兵を、昔の兵士がこの銃で殺した様に。コンテナの迷路の中、出会い頭に散弾をぶち込んで倒してやる。


 手始め、左、こちらに近づいてくる2つの影。


 再びコンテナを飛び出し、M97を腰だめに構える。


「騎士、お前……」


「裕也……!」


 銃口の目の前にいたのは、手錠をかけられた裕也。なぜ出てきた、逃げるためか、銃撃戦が危険なことは、映像で見て知ってるはず――。


「逃げろ、罠だ!」


「黙れ」


 冷たい囁きと、エアウェイトの乾いた銃声。裕也のカッターシャツが、赤く染まった。


「うっ……」


 崩れ落ちる裕也の向こうに、銃を構えた遊佐の姿。こいつ、俺の隙を誘うために裕也を。


「死ね、死ねっ! 島の化け物め!」


 釣りあがった目、震えた唇。

 恐怖をにじませながら、遊佐は執拗に撃ってくる。


 だが腕が悪い。1発も俺に当てられないまま、6連発を使い尽くし、シリンダーを空回りさせている。


「待ってろ、今、いま、撃ち殺してやる……」


 シリンダーを開放し、空薬莢を落とした。だが震える手じゃ弾を込めるのも一苦労だ。ポケットから出した弾薬を足元にこぼしてる。


 クソ野郎の顔面に、散弾を叩きこんでやる絶好の機会だが。

 俺は倒れた裕也に駆け寄る。引きずり起こしてコンテナの陰に逃げ込んだ。


「……初めて、撃たれたな。痛い、ってか、熱いんだな」


 妙にハイになってる裕也のシャツを引き裂く。弾丸は脇腹のあたりをかすめ、肉をえぐっていた。内臓にダメージは行ってなさそうだが、出血量が心配だ。


 俺はコートを脱ぐと、内ポケットから包帯を取り出した。とにかく止血。すぐ治る俺と違って、ただの人間についた銃創は、ネクタイや服の切れ端でどうこうというわけにいかん。


 日ノ本じゃ滅多にない銃創を、的確に手当てする俺。裕也が目を見張っている。


「慣れてる……な」


「ポート・ノゾミじゃ、知らないと生き残れねえんだよ。はおってじっとしてろ、体を冷やすとろくな事がねえ」


 ブレザーを裕也に押し付け、再びコートに袖を通す。シェルチューブにショットシェルを補充する。遊佐は取れなかったが、人質は一人確保。しかも俺はほとんど無記事だ。この調子で数を減らせればいいのだが。


 警官隊が接近をやめた。遊佐を守り、距離を取ったまま散発的に銃撃してくる。


「くそっ、急にびびりやがって。おら、畜生!」


 トリガーを引きっぱなし、フォアエンドを引いて排莢と装填を繰り返し、ショットシェルを撃ち尽くす。距離を取られているせいで、一人倒すのがやっとだった。これじゃあ全員倒す前にこっちの弾が切れる。


 もう、出ていく戦法は使えない。遊佐の奴は臆病だが頭が回るのだ。さっきは俺のやり方を読み、裕也を囮にして誘い出した。3人減らして、後8人とはいえ。こちらの不利は確実、ユエとヴィレの方の戦況もつかめん。銃声が続いているから、二人とも生きてはいるらしいが。


 思案する俺に、裕也がまた声をかける。


「お前……何者なんだ」


 知らないのか。まあ、GSUMの奴らも、仕事を脅かす断罪者についてわざわざネットに書いたりするまい。


「断罪者だよ。日ノ本政府と、向こうの種族の代表が、紛争を終わらせるために作った、キレた警察みたいなもんだ」


 警察って言葉は使いたくなかった。なにせ、裕也はついさっき、当の警察、親代わりの男に撃たれたところだ。


 裕也が倉庫の方を見やる。ヴィレとユエが撃ち合ってこっちとは別の銃声が響いている。


「由恵さんも、なのか」


「ああ。あいつはバンギア人、向こうの世界の人間さ。ポート・ノゾミでやばいドラッグ、人を化け物に変えるのが出回る事件があってな。それを追って日ノ本まで来たんだが、まさかこの始末とはな!」


 散弾は警官にかわされた。うまいことクレーンを盾にしている。さすがに銃撃戦に慣れてきやがったか。相手も訓練は積んでいる。ド素人というわけではないのだ。


「ネットの誰も、お前たちなんて知らないぜ。たぶん、この国の誰も」


「そうだろうな。日ノ本はむしろ、自衛軍に肩入れしてるし、お前がよく見るGSUMってのも、あの島で幅を利かしてる、悪魔と吸血鬼の組織なんだ。ほかにもマフィアやら暗殺ギルドやら、うじゃうじゃとキリがないぜ」


 キズアトとマロホシが率いる巨大な闇組織『GSUM』。

 ホープレス・ストリートに巣食う武闘派マフィアの『バルゴ・ブルヌス』。

 エルフの暗殺ギルドといわれる『シクル・クナイブ』。

 ここについさっき、バンギア唯一の人間の国『崖の上の王国』が加わった。


 対する俺たち断罪者は七人。しかも今この場では俺とユエだけときた。


「親父は、遊佐はなんでこんな……」


「珍しくねえんだよ。島の存在が秘密になってることに乗じて、利益をむさぼる奴らなんて。あの島なら、何をやってても、日ノ本じゃ存在しない事になるんだからな! ちくしょう、なんだ、奴ら」


 銃撃がやんだ。かと思うと、両手を上げて出てきたのは、一人の生徒。

 あいつはIU同好会のメンバーだ。裕也と一緒に捕まったのだろう。


「あ、あぁ、あ、の、撃たない、で……」


 可哀想に、歯の根がなくなったかのように震えている。手錠をかけられ、殴られたのか、口元から血を流している。


「木山!」


「動くな、裕也」


 俺は必死で引き留めた。IUでプログラミングをやってた木山は、ゆっくりとこちらに向かって歩かされている。警官隊の銃が狙うのは、俺達でなく木山の方だ。


 一体なにが狙いだ。それは遊佐の叫び声で明らかになった。


「断罪者、丹沢騎士! この少年の命はこちらの手にある。我々の抗争とは無関係な彼を、無残に撃ち殺されなくなかったら、捜査への妨害を止めて、武装を解除しろ」


 常軌を逸している。警察が人質を取るのか。大したことのない罪の少年たちを、麻薬の犯人にするだけじゃ飽き足らず。


 俺は唇を噛み締めた。言葉が出てこない。負傷をおして、裕也が叫んだ。


「ふざけんなよ! どこまで腐ってやがるんだ! 親父、お前本当に警官かよ、こんなもん海姉ちゃんが見たらどう思うか分かってるのか!」


 裕也は遊佐を信じていた。実の海の弟として育てられることに子供じみた反発はしていたが、慕っていた。あの車内のやりとりで分かる。


 そんな雄也に父は最低の言葉を投げつける。


「貴様に言われずとも、あの子には隠すさ。島に銃が蔓延しているのは、我々の間の常識だ。貴様らガキどもは、インターネットを通じて、島と麻薬の取引をしていた。ショットガンを持っていたとしても不自然ではなかろう。捜索中、銃で抵抗されたため、やむなく射殺したまでのこと。すでに三名殉職した、我々の勇敢さを誰も疑いやせん!」


 説得力の高い筋書きだ。少なくとも、警察を信じる日ノ本の国民は、それで納得するだろう。

 遊佐の言葉を追認するように、警官隊は木山から射線と視線を外さない。


「くそったれ……!」


 つぶやき、うなだれる裕也。

 俺も同じ思いだ。裕也の前だとか考えずに、遊佐を撃ち殺しとくべきだった。


 正直この作戦、はまってやがる。


 無制限の発砲や魔法が許可されるとはいえ、断罪に関係ないものは巻き込めない。奴らを追い詰めれば、木山だけじゃなく、連中の手にあるほかのIUの生徒まで射殺されるかもしれない。


 そうでなくても、この5日、IUの活動で微妙に距離が縮んだ仲だ。


 1人だって、死なせたくはない。今しがた、警官を撃ち殺した俺が言えたことじゃないかも知れんが。


 とはいえ、武器を手放せば、あっという間にハチの巣だろう。

いくらユエでもあのヴィレと戦っているところに、さらに警官隊の援護がつくとなれば厳しい。そして俺達断罪者が、日ノ本の警官に敗北して殉職するようなことになれば、送り込んだギニョルの責任だって問われる。


「騎士、なんとかならねえのか。こんな、こんなことってねえよ」


 傷を押えながら、無念さに震える裕也。

 嵐のような心の中は察するに余りあるが、これ以上は手が浮かばない。


 相手の数に加えて、警察という組織の力、日ノ本の政治の力。


 俺とユエ。たった二人で相手にするには、でかすぎる敵だったのか。

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