第9話 無知な勇者

 ああ、そうそう。もう出発している。なにせ怖がりな勇者一行。褒めながら歩いたよ。とにかく今度は会いたくない。魔物に!





 それと気になるのは、指輪の数。あと一人増えるのか? ってか、ジュジュもニタも参加? それとももっと増えるのか。嫌な予感しかしない。この最弱チーム。



 *




 おお、いい感じで見渡す限りの平原。これは安心だな。なにせ見えてる。おう! 見える次の村。遠いが魔物の影はない。




 ビュウー!




 え? 嘘でしょう? 俺の予想をどんどん裏切る魔物達。

 また来た!




 ビュウー!




 鷹だね。原型鷹だね。しかも二足歩行しそうな体に羽ついて飛べるんですか。どうやって倒すんだよ。狙われ放題だよ、こんな平原! 隠れる場所なし。また紫色の煙が湧き立っていますが、飛んでるので煙が飛行機雲のよう。って楽しめる状況じゃない。こちらにくるたびに鋭い爪で狙ってくる。一度目に外れて良かったよ。爪が当たってたら今頃空に連れていかれてるな。




 後ろで呪文の声。あ、もう、リン、効果ないから今度は本当。

 うわー。

 ボヨーンってなるのわかっててもついよけちゃうだろ。岩だね。今回はシンプルにきたね。

「Gyaaaa!」

 って、え!? 魔物が岩に当たって落ちて来た。岩の落下音もボヨーンじゃなく。ガン、ゴン、ドン、だ。リン何をしたんだ?

 とりあえずせっかく落ちてきたんだ、行かないと。岩がゴロゴロしてて歩きづらいと思ってたら岩が消えた。リン、サンキュー!

 つるぎを背中から抜き出し、さっきの鷹みたいな魔物を切る。うわー。近くで見るとデカイ! 思い切り頭の上からつるぎを振り下ろす。

 ふう。何とかなった。魔物は真っ二つ。このつるぎの切れ味よすぎだ。





 また魔物が来るかもしれない。またまたみんな無言で速足だ。リンにさっきのこと聞きたいが今はそれどころじゃない。村めがけて大急ぎだ。みんなどうしてるんだ? 剣士ってそんなに強いの?

 ただ魔王を倒してくれと頼まれた理由はわかった。こんなことが当たり前にあるなんて危険過ぎるだろう。魔王が魔物の大将なら倒して欲しいだろうな。ただ俺に頼むなよ!



 *



 無事に村に着いた。こんなに逃げてていいんだろうか?

 今度の村は村だね。まあ、育った村のが田舎だけど。

 あの平原、曲者だった。次の村が見えてるのになかなか着かない。焦ってるからか遠い道のりだった。もう上見て前見て後ろ見て。何がくるかビクビクだった。全く勇者っぽくないな。勇者の選別完全に間違ってるよ。誰だか知らないけど。




 やっと一息ついたのでリンに聞く。

「なあ、さっきの。なんでボヨーンってならなかったんだよ?」

 責めてないよ。むしろ感謝してるんだけど、こんな口調になってしまう。

「浮かんだの! 呪文が!」

 ああ、気にしてないね、俺の口調。嬉しそうに俺の服の裾つかんで、飛んでるよリン。よっぽど嬉しかったんだ、リン。





 それよりも、なんか異常に疲れた。警戒し過ぎ疲れだろうか?

 あれ? よく見るとツバキしょげてるよ。ああ、ジュジュも。なんだよ。勇者って慰め係り? 俺がこういう事態にした訳じゃないのに!

 まずは慰めやすいジュジュから行く。

「ジュジュ、ジュジュが力を使わないってことが一番いいんだよ。ジュジュが出てくるのは俺たちの誰かが怪我したって事だろ?」

「うーん。うん。そうだよね! そうかー。うん」

 立ち直り早くて助かるよ。あのでも、ジュジュ俺に絡みついてこなくていいんだけど。


 ジュジュのご機嫌とりが終わった頃ツバキに挑戦! 難しいなあ。

 先にニタに情報を仕入れてみる。さすがこの世界の住人だ。田舎にこもって修行三昧な俺とは違う。その修行も自発的にしてた訳じゃないんだけどな。村全体にはめられたんだが。

「なあ。ツバキ。あの刀なんだけどさ」

「え? 刀?」

 俺の意外な切り込みにツバキが食いついて来た! よし!

「魔物にさ、歯が立たないだろ? 俺の持ってた剣もそうだったけど」

 もう邪魔なんで腰から下げてた剣はツバキに預けてある。

「うん。そうなの。加勢しても邪魔になる」

 ああ、ツバキがどんどんしぼんで行く。

「次は街みたいだからさ、探してみようよ、魔物にも太刀打ちできる刀を」

 さっきニタに聞いたのは次が街か村かだった。地図がすでに解読不可な俺では話にならないのでニタに聞いてみた。ニタはあっさり、ここの村と次の街を地図で指してくれた。あんなざっくり世界地図どうやって見てるのか気になるがまずはツバキだった。

「え? いいの! トオル、ありがとう!」

 って、首に巻きついてくる。ツバキには珍しい動きだが。今の言葉……俺のおごりってことだよね? 刀は俺からのプレゼントって解釈されたみたいだ。ああ、この懐さみしい旅なのに。ええい! もう! 仕方ない、経費だ。経費。

 ツバキの戦闘力が上がるんだ、仕方ない。

 ツバキ、もう離れてくれ。ニタの視線が痛いよ。





 ふう、何とか機嫌がおさまった。そんないい刀があるかはわからないが、こうして行き来している商人達がいるんだ魔法使いもついているが剣士もいる。きっと魔物用に作られてるのもあるはずだ。じゃなきゃ魔物に敵わない。




 *



 宿屋につき、ふと疑問に思い部屋で休んでいる時にニタに聞いてみる。

「なあ、ツバキのあの異次元魔法さあ。魔物をまるごと入れてやっつけるって訳にはいかないのか?」

 ふと思ったんだよ。お! それ便利って。

「ああ、それは危険だね。ツバキは異次元に荷物をなおしてるけど、ツバキはそこを固定しているんだと思う。魔物をそこと同じとこには送れないから、別の異次元に送るとなると別世界、つまり異世界に送ってしまうかもしれない。平和な異世界に魔物が次々と送られたらその世界は……」

「あー。それはまずいね。かなりヤバイね」

 俺の住んでいた世界にあの魔物が来るところ想像して、すぐに却下した。平和ボケしていて魔法も剣士もいない世界だ。あっという間に破滅だろう。俺は異世界をよく知ってるだけに実感がある。ありすぎる。




 ああ、残念。いい案だと思ったのに。まあ、それが出来るんならツバキがすでにやってるか。

 次の街にいい刀あるといいんだけど。

 地図で教えられた場所は何と元いた村からグッと下に下がって海の近くまで来てたみたいだ。おいおい! 遠回りじゃないか。ニタなんで言わないんだ。ただでさえ遠いのに! まあ、知らずについて回っていた俺も俺なんだけど。

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