第8話 一仕事
翌朝は昨日を教訓に早くに村を出る。が、もうこの辺は昼間もバンバン魔物が出るらしく。護衛のため魔法使いや剣士が商人や旅人についているらしい。村の魔術師や薬師も大忙しだとか。そうだろうな、あれに会って無事ではいられないだろう。
魔物がウヨウヨいるという話を聞いて自然と足が早くなる。昨日の魔物の戦いの時のツバキを見て少し安心したし、ニタの攻撃も効いていた。少しだけど。戦闘能力も上がったのか?
*
ああ! 視界に魔物。やっぱり会うよな。
今度は一つ目。あ、これも予想通りだな。想像とは違うけど。岩の頭? いや、岩が二足歩行している。それに一つ目がついていると言った方がいいかも。また紫の煙が身体から湧き上がってる。もう一目で魔物だね。
これ、この
なんて心の叫びと共に背中の
と後ろで呪文。え!?
頭からボヨーンとヘビが大量に降ってくる。リン気持ちわかるが意味ないぞ。
とまた、呪文がおいおい後ろから怖いってニタ! あ、たくさんのへびが魔物の足元で凍っている。どうやら昨日話を打ち切ったんで聞きそびれていたみたいだ。ニタは新しい呪文が浮かんでたようだ。魔物は足元が凍って動けない。これで切りやすくなった。
「おりゃー!」
思っていたよりもずっと硬さを感じなかった。この
「やるな! 二人!」
「え? あ、うん」
「ああ、そうだね」
俺の言葉にリンとニタの答え。どうやら今の攻撃は偶然の産物らしい。二人とも挙動不審だ。特にリンが。
リンの魔法にニタが合わせたというか利用したんだろう。
「ニタ新しい魔法浮かんだらすぐに教えろよ。びっくりするだろ」
「ごめん。昨日言いそびれて」
っていいながらツバキをチラチラ見てるし。
ツバキの話が優先かよ! 全くわかりやすい奴だよ。
リンは役に立ったと少し自信をつけたようだけど、あれ俺の頭にも降ってきたんだけど。まあ、ボヨーンってなるから痛くないんだけど。その後は足場悪くて困ったよ。実は。相手が動かないから助かったんだけど。まあ、努力は認めてあげよう。
あの頃の俺なら絶対に人任せにしていたんだから。
さあ、もう魔物はこりごりだ。ってみんなも思ってるのかさっきよりも速足で進む。こんな魔物回避な勇者一行でいいんだろうか。
*
やっと村だー。ん? 街か。地図を見るがもうどこがどこだかわからない。こんな大雑把な地図。世界地図かよ! あ、世界地図だよ。あー。この世界の地図なんだから。そりゃあ、大雑把だよ。って世界一周するってことか? 端から端までの移動になる。ほぼそうだよな。着くのかはたして着くんだろうか、魔王の城。
街は賑やかだ。やっぱり村とは大違いだ。なんか見たことない果物や野菜、魚も知らないのがいるし、服も靴もなんか垢抜けてるよな。チラリと一同を見てみる。やっぱり田舎者だな。俺含め。まあ、魔王を倒すのに服はいらない……ん? ああ! こういうのって装備とかで強くなるってやつじゃないか? って、それはゲームの世界だよな、所詮。鎧着て魔王倒すのに役に立つとは思えないし。
華やぐ街にジュジュもリンも浮かれている。特に服屋はやはり気になるみたいだ。
「ツバキは見なくていいのか?」
二人から少し距離を置いてるが明らかに見たそうにしてるツバキに声をかける。
「いや、私は別に」
「でも、なんか動きやすい服とかあるか見たら?」
「うん。そうだな。それは言えてる。うん。じゃあ」
と嬉しそうに二人の元へ。動きやすい服持ってるだろ? 忍者の服。ツバキもわかりやすい。
ああ、またそんな目で見て。もう一人のわかりやすい奴、ニタ。さっきも言葉流されてたのに平気みたいだな。ニタは見た目よりタフだな。そう、戦闘も全てニタは参加してる。あっちの俺と同じだと思って申し訳なく思う。俺なんかよりずっとニタは強い。
*
「お前さん達少しお待ちを、勇者様じゃの?」
街を楽しんでいる時に声をかけられた。チッ! 占い師だ。嫌な記憶が蘇る。偉そうな態度、ああムカつく。村の占い師!
「なんだよ!」
ついいろいろ思い出し喧嘩口調になる。
「あ、ああ。勇者様この街に伝わる秘宝です。是非、魔王を倒すのにお使いください。少々お待ちを」
と、何やら奥に走っていく。勇者ってわかったのはこの
と占い師走って戻って来る。魔法とかで取り出すとかはないの? 魔法の世界に矛盾を感じまくるのは俺だけか。
「ハアハア。あ、これ。これをどうぞ。ハアハア」
どうやら全速力だったみたいだ。息、切れ過ぎだ占い師。
「それ何?」
いきなり渡されてもねえ。なんでも受け取れないよ。どうやら腕輪っぽいが。
「体力が、ハアハア体力が大幅に上がると言われている、ハアハア、腕輪です」
体力ねえ。腕輪で? ってか、占い師体力なさすぎ。
「勇者様以外が身につけても何の効果もありません。是非お受け取りを」
まあ、いいか。ただの腕輪なら捨てれば。秘宝って言った割にあっさりくれるあたり胡散臭いが。
「ああ、それからこれは勇者様のお供の為のものです」
今度は指輪だ。なんか詐欺師に偽ものをつかまされてる気分なのは俺だけだろうか。
って! 指輪五個だよ。俺合わせてここにいるのが五人だよ。
リンに確認する。リンは勇者伝説を読んでる。
「なあ、これ受け取っていいんだよな。お供にって指輪五個だけどいいんだよな?」
「えー? うーん。いいんじゃない」
おいおい、なんだその返事。勇者伝説を勇者が読んだらダメだから? でも、軽い、軽いよ、リン。
「勇者様是非!」
占い師なんか必死だし。いいか。リンも微妙な返事だけど、うんと言ってるし。
「じゃあ」
みんなもそれぞれの指輪を取る。残り一個。
「あのこれは」
「是非お持ちください」
ああ、はいはい。全部持っていけと。あ! この指輪の性能じゃない効果は?
「この指輪着けるとどうなるんだ?」
「魔力や力が大幅に上がります」
え? 俺もそっちがよかった。
「ああ、そうそう。これらは一回きりですので。是非とも魔王を倒す時にお使いください」
なんだとお!
「腕輪も?」
「はい」
そんな笑顔で言われてもこっちは引きつるよ、顔。
一回って! 何だよ。みんな着けた指輪を静かに外してるよ。
「では、勇者様ご健闘をお祈りしております」
なんか占い師せいせいしたって顔してるよ。これを持て余してたのか!
もう行けってことだよな。渋々その場を去る俺たち勇者一行。
「人生は甘くないってことですね」
ニタ、前向きな奴だよ。お前は。
これどうしよう。皆それぞれの指輪を見つめている。今度は俺たちが持て余してるよ。
「私が預かっておこうか?」
ツバキの発案にみんな顔をあげる。あれなら安心だしな。
皆の指輪と腕輪をツバキが魔法で異次元へと入れる。
*
さあて、なんだかんだと時間をくった。そろそろ宿屋へ行こう。
やっぱりな。何だよ街め! 物価上がりすぎだ。この分だと有り金で旅が続けられるんだろうか。アルバイトか? 勇者アルバイトする? 世界は甘くなさすぎだろ!
*
とにかく今日も早くに出発って。おい! 何時の間に。浮かれ気分の三人。何か言って欲しそうだよ。ここで突っ込んだら膨れあがるんだろうな。三人も拗ねたら大変な事になる。なんでこんな事と思いながらも言うしかない。
「ああ、おはよう。三人とも可愛いね。ジュジュはフェアリーっぽいし、リンは猫耳がさらに可愛くなってるよ。えーとツバキは……」
ヤバイ忍者っぽいって言いそうになった。それ褒めてるかわからん。
「ツバキ、そ、その服似合ってるよー」
あ、ニタ、シンプルに褒めたな。そうだな。深読みしすぎた。
褒められたのにツバキ不服そうだ。ヤバイ俺が詰まったからだ。
「ツバキ似合ってるよ」
そっとツバキに言う。ああ、恥ずかしい。なんで勇者がこんな訳のわからん苦労を。
「そ、そう」
と、一気に機嫌が直った。良かった。実際はちょっと露出が多い気がするんだが。忍者服もそうだったから、ツバキの発想は露出多いイコール動きやすい服なのか? ああ、ニタが嬉しそうにツバキを見てるよ。
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