第10話 妖刀如月

 さあ、今日は港街っぽいとこまで出発だ。海のキワキワにある街だし、いい刀あるといいな。ツバキ! もちろん俺にとっても。戦力増加は嬉しい限りだ。

 それに、結構キツイんだよ戦闘後に慰めてまわるの。




 少し歩くとあっという間に海岸沿いの道に出た。うわー。海。懐かしいなあ。潮風の匂いまで変わらないんだなこっちの海も。

 ずっと村で育ったから、なんか感動だな。自然と足が遅くなる。海いいなあー。

 皆もそうなのか歩みが同じになる。皆それぞれの村や里で育ち、それぞれの事情で旅をしてる。きっと海を見たのは初めてなんだろう。俺だけか海を見たことあるのは。あ、でもあれはこの世界の海じゃない!




 そうこの海はこの世界の、異世界の海だった!




 忘れてたよ魔物の存在。しかも海からって。あー、やっぱ一匹じゃないよね。あ、あれ? 魚人風なのを想像してたんだけど、ことごとく俺の予想を裏切る異世界魔物。

 貝だなー。貝。でも怖いカッタカッタ開いて閉じて怖いよ。この海岸登って来たんだよね? 人間探知機がついているのか? 匂いか? あ、貝だけど匂いとかわかるのか?

 とにかく今上がってきた二匹で終わりかわからない。

「リン海岸沿いに岩を落として!」

「うん」

 ちょっと不服げなリン。もっと複雑なのが描きたいんだろうけど、そこのクオリティーは求めてない!

 リンの呪文が聞こえバラバラと岩が落ちる。

「ギャーギャー」

 何匹いたんだろうかなりの声が落ちてった。ヤバかった。

 とにかく上に上がって来ていた残った四匹に集中だ。

「ニタ、行くぞ!」

 あ、しまった命令間違い。あーあ、焼いてる。あれ? 意外に効果あるのか貝が倒れてる。あ、貝だもんな。そこか?

 なんて横目で見ながら一匹を縦切り、そのまま二匹目を横に切る。

 ニタも二匹目を焼いている。明らかに頭の貝の部分を狙ってるね、ニタ。

 とりあえず、俺はニタに焼かれて倒れてる中身がすっかり見えてる貝じゃない、魔物を切る。そのあと、もう一匹も。必要あったのかな? すでに倒れてたけど。なんか中身の貝の部分が出てたし。まあ、いいか。またあの紫色の液体をみるのは気分がよくないけど。海岸沿いに沸き立つ紫色の煙の方がもう見たくない。

 さっきまでの足取りが嘘のように皆速足だ。あれって待ってたらすごい数だったのか? 想像するだけで嫌だよ。紫色の貝。しばらく貝食べたくないな。



 *



 貝の襲撃はその後はなくて、なんとか街に到着。あの海岸沿いに魔物を攻撃したのが効いていたのか? 下を覗き込んだ訳ではないがすごい数っぽかったしな。

 さて、ツバキのキラキラした眼差しを向けられている。忘れてないって!

「じゃあ、武器屋を見よう」

 武器を売ってそうな店を見て回る。時々服屋に入ろうとするリンとジュジュを引っ張ってなんとか探す。リンとジュジュはわかるがツバキも一緒に服屋へ行こうとするのはどうなんだ! お前の刀探しだぞ!


 お! ここいいんじゃない? なんか、いかにも老舗な武器屋って感じだ。

「ここ、見よう。ツバキ」

 ツバキの手を引き店の中へ。おお! なんかいいじゃないか! あ、店主がこっちを見てる……店主の俺たちの観察は終わったようだ。店主は俺たちに興味がなくなったのかまた武器の手入れをはじめた。

 と、ツバキが俺の手を引きそのまま奥に行く。なんか見つけたのか? そこは、えー! ツバキもっといいのが壁とかに飾ってるよ。ほら、あの台とか。

 ツバキは一本いくら的な傘立てみたいにいっぱい立ててる刀の中から一本の刀を迷いなく抜き出した。

「つ、ツバキ。もっといいの、選んでいいんだぞ!」

 俺の懐の心配か? 安物だったら今の刀と変わらないじゃないか。ツバキ、魔物を相手にできる刀を選んでくれ。

「おお! 若いのそれを選んだとは!」

 え? さっきの店主、席を立ってこちらに向かってきた。

「ツバキ! ここで刀を抜くなって!」

 ツバキは刀を抜こうとする。ああ、もう店内なのに。って! なんだこの刀。鞘に入ってる時にはあんなにも普通な刀だったのに、鞘を抜いた刀は尋常じゃない覇気を放っている。

「す、すごい。なんだこの刀?」

「おお、これは勇者伝説のつるぎ。お主が勇者とは」

 ここの店主も知ってるんだな、勇者伝説。勇者伝説って広まり過ぎな感じなんだけど。ってか、俺が勇者で不満かよ。まあ、俺もそう思うんだけどな。

「トオル、これ! これがいい!!」

 ツバキは取り憑かれたように刀を見ている。

「ほう、勇者一行に妖刀とは」

「妖刀?」

「世界に十二本しかないとされる妖刀じゃ。これは如月という。妖刀の中でも一番の妖気をもっていると言われている」

 世界に十二本ってなんか多い気がするのは俺だけ?

「そんな凄いのにここに入ってたけど?」

 そんな刀がなんでこんな扱いなんだよ?

「妖刀は持ち主を選ぶ。この中に入っていても、妖刀が選んだ者しかこれを手にはしない」

 だからツバキはまっすぐにここに来て、この中から迷わずこの一本取り出したってことか。

「あの、これで魔物を切れますか?」

 大事なことなんで聞いとかないとな。凄そうだけど魔物を相手にできる刀じゃないと意味がない。

「ああ、もう腕の一本スパッと切れるぞ! ただし、持ち主がそれなりに力を持たないとな」

 ああ、また修行なんだな。刀がいくらすごくても。

 うわー。でも、エライの選んでくれたよツバキ。懐のさみしさに拍車をかけるぞ。

「あの、おいくらですか?」

 ついつい下から聞いてしまう。その間もツバキは刀を見てる。ニタもジュジュもリンも魔法専門なのでその辺の刀や剣をチラチラ見てる。完全に暇してるな三人。

「持っていけ!」

「え?」

「妖刀は売り物じゃなく、持ち主を待っておるんじゃ。ワシはただそこに置いておいただけ。持ち主が妖刀を持って行くのは必然じゃからな」

「あの、じゃあただで、いいってことで?」

 確認してしまう。そんな凄い刀がただって。

「ああ。持って行ってくれ」

 あれ? なんか邪魔だったのか? この刀?

 まあ、いいか。魔物が切れる刀がただで手に入ったし。

 ツバキに渋々刀を鞘にいれさせて、俺たちは武器屋を後にした。

 何度も街中で刀を抜こうとするツバキを止めたり、ジュジュやリンが服屋に入ろうとするのを止める。なんか俺全く勇者感ないんだけど。

 とにかく宿屋へ。疲れた。なんだかいろいろ疲れた。



 *




 はあー。疲れた。もう寝ようとするとニタが真剣な顔で地図を広げて、こっちに見せてくる。

「トオル、明日この街から船に乗るからね」

「え? そうなの?」

「まさか、歩いて行く気だったの? 魔王の城まで?」

 ああ。そうだね。行く気でした。田舎者は俺だけか。だから、ニタは海に向かってたんだな。船に乗る為に。

「いや。うん。この世界の広さの程度がわかんなくて。あはは」

 もう笑うしかない、俺のバカさ加減。が、そうか! 船に乗るのかもしかして魔王の城の近くまで行けるのか?

「トオルって……」

 おい! 後の言葉はなんだよ!

 まあいい。だいたいわかるから。傷口をこれ以上広げるのはやめよう。

「なあ、どこまで行けるんだ?」

 俺の希望は魔王の城の真下の街! あ、でもこのまま魔王戦になるってことだよな……無理だ。今まで散々魔物から逃げ回っていたのに。

「ええと。多分この辺りだよ。さっきみたいに魔物が海にウジャウジャいるようになるから、ここまでが限界だと思うよ。何せ魔王の城が近くなるからね」

 海に魔物がウジャウジャって……ああ、思い出した……あの貝を!

 ニタの指差した場所は地図の中間地点を少し過ぎた辺り。ああ、また道のりが遠くなった気がする。俺の希望が大き過ぎたみたいだな。

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