第2話 旅は道づれ

 伝説に毒を吐いてる俺に、突然何かが飛び込んで来た。慌ててよける。見るといかにもひ弱そうな俺と同じ年ぐらいのグレーの髪の男の子が小刀持っていた。

 そう言えば、さっき『父の敵』って言ってたような。俺、誰も切ってないですけど。さっき村からはじめて出たのに。

「父の敵!」

 また来たよ。サッとよけるドンと体が当たるが体格差があるからたいして痛くないし。そろそろ本気だすか!

 と、目に入ったのはそいつが逃げて行く姿。おいおい、あいつの本当の父の敵じゃないけど、そんなあっさり引くの? って、あ! ああ! 村長が渡してくれた財布がない! 財布は結構重かったからなくなったらすぐにわかる。あのヤロー!

 俺は奴を追いかけた。運動が苦手で足も遅かった元の俺とは違いこの世界の俺は足も早い! すぐに奴の姿を捉えた。

 何やら人相のよくない連中の元に走って行ってる。俺もすぐに追いつく。あいつがそこのリーダーなんだろうそいつに俺の財布を渡してる。

「おい! 返せ!」

 俺の声にニヤついて俺の財布を調べようとしていたリーダーは手を止めてこちらを見る。

「おい! お前、ニタだったか、失敗すんなよ」

 さっきの奴はニタっていうのか。リーダーを怯えたような顔で伺っているニタを見るとなんか向こうの世界の俺を思い出させる。

 俺はどんどん近づいて行く。ただでさえ、無茶な旅なんだ。この上お金もないなんて最悪だ。

「おい! やれ!」

 リーダーの周りにいた3人が動く。いつもの事なんだろうこちらに向かってくる。一人はみぞおち、一人は手をねじりあげ、最後の奴は蹴りとばす。だてに魔王戦の為に鍛えてないからな、俺。

「お、おい。やるぞ!」

 リーダーは慌てて号令をかける。今度は総がかり戦となる。仕方ない腰から下げていた剣を抜く。

 ニタ以外全員をあっという間に倒した。あ、峰打ちだよ。さすがに切れないよ、人間相手にね。

 倒れてるリーダーから財布を返してもらう。

 あー、もう! また元の道に戻らないと、日が暮れるだろうが!

 さっさとその場を去ろうとした時、俺を誰かが引っ張る。振り返って殴ろうとしたら、ニタが目をつぶって手で防ごうとしている。なのに俺の服をもう片方の手が離さない。

「なんだよ。俺、急いでるんだけど」

「あ、ありがとう」

「はっ?」

 俺、今お前の仲間お前以外全員倒したとこだよ。

「あ、あいつらに脅されて。やらないと返さないって。これを」

 それは水晶っぽいもので紐を通している。魔法使いが身につけとかないといけない物だ。俺もそれが欲しかったよ。憧れの、魔法使い!

「盗んできた財布と引き換えだって言われてたのか」

「うん。この道を通ってたら絡まれて、この石取られたんだ」

 俺は急いでいるんで歩きながら元の道目指して歩いているが、話てるからかニタはずっとついてくる。

「だからって、あれはヤバイよ。俺が避けてなかったら」

 ニタの持っていたのは小刀だけど体ごと突っ込まれたら……ああ想像して腹痛い。

「ああ、これは護身用なんだ。だから、ほら!」

 って、ニタが刀の先を指で押す。おい! って思ったら、刀がさっと引っ込む。いや、護身できてないよ、それじゃあ。だから、絡まれるんだって。

「ああ、わかったよ。良かったな。それ戻ってきて」

 さっき倒れてるリーダーから隙をみて水晶取り戻したんだろうな。あ、水晶じゃなくて、魔石って言われてたか。端っこの小さな村だからか、村に魔法使いは二人だけだった。そして、占い師と。ああ、あいつ、何が村一番だよ。村に一人しかいないくせに。

「あ、あの。何してたの? あんなところで」

 あの道は次の村に続く道で、俺のいた村の村人と村に何か売りに来る奴しか通らない道らしい。『一本道だから大丈夫じゃよ』って村長に高笑いされた。いや、その先が問題なんだけど。

「あ、ああ。魔王倒しに行くんだよ。なんか伝説だとか言われて」

「あ、あの僕も! 僕も連れてってもらっていいですか?」

「え? なんで? お前も魔王倒しに行くの?」

 勇者はあちこちにいるのか?

「いえ。あの、僕、魔法使いの修行の為に弟子になりに行くんです。街の方がより高度な魔術を使えるんで、街を目指してて」

 で、その途中であいつらに捕まったんだね。って、俺を護衛役にするつもりか?

 まあ、いいや。一人だと暇だし。旅は道連れとか言うしな。

「まあ、いいよ。あ! ただし、今度財布を狙ったら……」

「もう、もうしません。お財布も取り戻して自分の分もちゃんとありますから」

 お前財布も没収されてたのかよ。なんかニタの姿が前の自分とかぶってくる。長めのグレーの髪にほとんど筋肉のないヒョロイ体、年は十六、七ぐらい、赤茶けた瞳には気の弱そうな表情を浮かべている割にはどこか憎めない。

「わかった。いい。行こう。って、あれ? こっちだったっけ?」

「あっちですよ」

元の道に戻ったはいいけれど、特に目印もないから目指す次の村がどっちだったのかわからなくなった俺にニタはサラッと訂正する。

「なあ。年、同じくらいなんだから敬語やめてくれよ。しゃべり辛い」

「あ、うん。わかった」



 *




 こうしてニタとの旅がはじまった。

「あ! 名前なんていうの?」

「俺、透」

「ふーん。トオルかあ。変わった名前だね」

「まあな」

 あっちの世界での名前だからな。こっちで最初に名前を聞かれてそう答えた。後から変えれば良かったと思った。変えれば前の自分から変われそうな気がして。でも、名前変えなくても変われた。そう、変われるんだ。変わればよかった向こうでも。



 *



 ヤバイよ。日が暮れる。どうやら魔物ってのが村の外では出るらしい。魔王のせいで出てきたらしい。魔物はまだ夜しか活動してないし、村の魔術のおかげで村には入って来ない。でも、この道は守られてない。いくら魔王対策してても、夜通し魔物と戦うのは無理だ! 次の村まで日没までにはなんとかつかないと!

「おい、もっと早く歩けよ」

「う、うん」

 ニタの息が切れてるけど、甘やかせてる場合じゃない。

 お! 見えて来た! 次の村だ!

「おい! ニタ、村だぞ! 頑張れ!」

「ハアハア、うん」



 *



 さて村になんとか日暮れ前に着いた。宿探しの前に俺っていくら持ってるの? と財布を覗く。小学生ぐらいからここに来てもう十年経っているが、はじまった年がわからないけど多分高校生ぐらいの年になってる。こっちの世界にもいい加減慣れてるがお金を使う機会があまり村の生活でなかったんだよな。うーん。十万ぐらいか。わからないけど。そして旅の日数もなにもわからない。ここは出費は控えめに旅をした方が良さそうだ。

 ってか、世界救うのに十万って安い給料。いや、給料じゃないね。経費だよ。



 *



 とりあえず安宿にニタと割り勘で泊まる。ニタってどこの街まで行くんだろう。今いるところも村にくらべればずっと街だ。だいたいこの世界の街の繁栄度がわからない。それに、向こうにいけば行くほど魔王の世界だし、魔物も増えて活動も夜だけにじゃなく昼にも出るらしい。考えただけでうんざりする。

「お前どこまでいく気?」

 と例の大雑把な地図を広げてニタに聞いてみた。

「えっと」

 と、今度はニタは自分の地図を広げる。おいおいたいしてこの地図と変わらないじゃないか。と、思ったら自分がいく街に印をいれていただけだった。見比べてここと俺の地図を指差す。

 それは魔王の城の直前の街だ。こいつわかってるのか魔王がいる今の事態を。

「おい! 魔王はここだぞ! こんなに近くの街にまで行く必要あるのか?」

「村の魔法使いの知っている魔法使いを紹介されたんです。そこしかないし、行きたいんです!」

 ニタの決意は硬いようだ。意外に頑固な奴だ。

 まあ、いいかそこまで旅の道連れがいると思えば。



 始めての旅の疲れですぐに眠ってしまったようだ。気づけば朝だった。

「おはようございます」

「おはよう」

 だから敬語はいいって。



 旅支度を整えいざ出発。このまま俺、魔王の前に出ても勝てる気がしないんだけど。いいのかな、このままで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る