【完結】最弱チーム連れて魔王を倒す気になれないんですが?

日向ナツ

第1話 異世界行って勇者だって

 あー、もーあり得ない。何だってんだよ、この展開は、急に『お前は勇者じゃあ! 魔王を倒しこの世に平和をもたらすのじゃあ! 』ってなんだよ。やっと平和な毎日で幸せに過ごしてたのに。村一番の占い師って、ただの言い伝えを言っただけのくせに上から言いやがって。

 だいたいこんなつるぎで魔王って倒せるわけないでしょ? 魔王だよ、魔王。ゲームじゃあるまいし。魔法使いじゃないのにどうやって対抗するんだって! 魔、だよ魔! 魔王! 近づく前にやられるって。俺が魔王ならつるぎにやられる気がしない。しきりに俺に剣術教えて体も鍛えさせようとしてたけど、どうせ鍛えるなら魔法がよかったよ。魔法使いがよかったよー! 魔法使い。

『昔から村に伝わる勇者のつるぎを渡そう』って渡してもらっても。重いし、大きいし。いや、そりゃあ、魔王だからね。これでも小さいイメージだよ。でも、重い。そのつるぎは背中に背負ってるけど、他に軽いいつも使ってた剣をいつでも出せるようにして腰から下げて持ってる。

 一応魔王がはびこる世の中だからね。危ないけど背中のつるぎをいちいち取り出すのは大変だからね。この大きなつるぎは魔王用だしな。

 でもこの世に平和をって言われてもな。俺の住んでいた世界じゃないのに……。



 ***



 俺がいた世界には魔王もいないし魔法もなかった。俺は普通の高校生だった。いや、普通じゃないか。弱気で軟弱な高校生だった。毎日、学校が嫌だった。小突かれたり、嫌味言われたり、パシラされたり。

 そんなある日、俺はトラックにひかれた。本当に一瞬の出来事だった。学校からの帰り道、今日も最悪な日だったと交差点を歩いていたら、どうやら赤信号だったみたいだ。鳴り響くクラクションの音に振り向くとトラックが目の前にいた。何もできないまま、凄い衝撃の後暗闇に落ちて行った。



 ***



 目を開くと木の下で寝ていた。起き上がって気づいた。あれ? 俺小さくないか? もともと背が低く小さく細かったけどそんなレベルの目線じゃない。

 自分の手を見る。

「おわあ!」

 声も違う甲高い声。

「俺小学生に戻った?」

 やっぱり声が違うよ。

 足から順に体を見る。両手を顔にあててみる。やっぱり小さい。何なんなのこれは? 俺って高校生だったよね? っていうか、ここどこだよ!

 見渡す限り……村? どうやらここは、ど田舎にいるみたいだ。林なのか森なのか……背後に広がっている。なんだよここ、どうすりゃいいんだあ!

 頭を抱えて座り込んだ。そんなことしても無駄なのに。そうやって、いつも逃げてた。嫌な奴から嫌な事から。



どれくらいそうしていたんだろう。

「おい。どうした? 迷子か?」

 頭の上から声が降ってきた。俺は見上げた。頬を伝っていた涙を拭って。

「坊主。家、どこだ?」

 知らないよ。わからないんだ。指し示す方角もわからない。ここがどこだかわからない。言葉を出すと言葉と一緒に涙が出て止まらなくなりそうだ。だから俺は黙って首を振る。わからないって伝える為に。

「お前、ん? まさか……」

 男は俺に近づいてきて俺の髪をつまんだ。なんだ? そして俺の後ろを見る。

 俺も振り返って見ると岩がある。なにか紋様のようなものが岩に彫られている。石碑か墓石? なんだろう?

「行くとこないのか? うちに来るか?」

 男の問いに仕方なくうんと頷き、男と一緒に男の村に帰った。場所もわからないし、体は子どもだし選択肢はない。

 男はそのまま俺を男の家に連れて帰ったようだった。夫婦で住んでいるようで家には女性が待っていた。男は女性になにかささやいてる。

「じゃあ、俺は少し用があるから。坊主! お腹減ったろ、すぐにご飯にしてもらえよ」

 と、言い残して再び出かけた。そういえばお腹減った。ぐー、とお腹も鳴る。

「ご飯すぐできるから上がって。さあ、そこに座って」

 あまりのお腹の空きようで何も考えずに食べた。食べ終わって冷静に、周りを見てその女性を見て、男の服装を思い出す。ここは今の日本じゃない。中世のヨーロッパの田舎って感じだろうか。男の言葉の悪さとその格好から中流か下流の家だろう。家の中もレトロなヨーロッパ風だ。そして自分の着ている服装も見る。上も下も真っ白。これで赤白帽かぶってたら運動会の小学生じゃないか! でも、体操服ってわけじゃあない。洋服ではあるけど、見たことない服装だ。いつの時代の西洋? って感じだけど。なんで服着替えてるんだ俺、いや、前の服のままだと困るんだけど。高校生の制服はどう考えてみても今の体にはブカブカだから。

 どう考えてもここは日本じゃない、なのに言葉は通じる。どこなんだよ! そして俺はなんで小さくなったんだ!



  *



 と、それからその夫婦に育てられる事になったんだけど。結局ここがどうやら異世界で、つまり今まで住んでいた地球上のどこでもないことはわかったが、なぜ小さくなったかはわからないままだった。

 だけど、そういうことか! 伝説だったんだな! あの岩、不思議な紋様が書かれてある岩の前にいる少年が勇者ということか。だから俺は子どもの姿になってたんだ。白い服を着て。そして、勇者になるべく育てられたんだ。

 それと、この髪だ。前髪の一筋だけ白くなっている。もちろん向こうの世界では髪は真っ黒だった。

 そうそれと、外見もすっかり変わっていた。小さくなっただけじゃなかった。今ではたくましい体に成長した。あ、それは魔王を倒すべく育てられてたからか。でも、顔つきまで精悍な顔つきに変わった。日頃の訓練の成果だろうか。自信がみなぎっていて、以前の俺とは別人のようだった。

 育ての親は可愛がる割に体力作りから剣術までやたらと厳しかったのは、こういう訳だったんだ。そう考えると結構ショックだ。

 本当の両親より俺を可愛がってくれてたのに。すべては勇者伝説のせいだったなんて。送り出す時には育ての親の二人は相当浮かれてた。どうせ、『勇者を育てた者には神のご加護がある!』とかなんとかあるんだろうな。

 そうして、やたらに大きいつるぎといくら入っているのかわからない財布を持たされて俺は村から放りだされた。



  *



 あーつるぎは重いし孤独だー。しかも何? この地図。大雑把だよ! 川とか山とかしか書いてないし。村や街も近くに目印になるものもないじゃないか。

 っていうか、魔王の城とやらは地図の右端でここはその反対側だし。この世界の大きさ全くわかんないけど、これは無理でしょ? 遠いし徒歩だよ徒歩。なんで勇者はこんなに遠いとこにいるって伝説なんだよ。

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