第3話 猫娘
しばらくニタと歩いていて気づいた。後ろから後をつけられてる。何気なくニタと話ながらこっそりと告げる。あ、ニタのバカ後ろ見やがって。
「何か耳のついたのが後ろにいました」
「は? ん?」
耳はついてるよ。こっちの人も動物も。
何の得にもならない情報だよ。全く。
全速力で走り、道の先で隠れて待つ作戦を立ててニタと実行する。全速力っていってもニタのだけど、いい感じの隠れられそうな場所に来たのでニタに合図をする。ニタはスルッと隠れた。おい、これは得意か!
俺もその辺の木に隠れる。すぐにバタバタと息荒く走っている音がする。おいおいニタより体力ない奴かよ。
影が見えたので素早く捕獲。
あ、耳、耳ねえ。なるほど。こっちでも流行りありますか?
猫耳つけた少女が手の中であがいている。しかもなぜかメイド姿。紺のベースにフリルがたくさんついた、どっからどう見ても猫耳メイドだ。
「離してニャー」
ってお前、絶対本気じゃないだろ。
「お前だれだよ?」
捕まえたのが女の子だったからかニタもすぐに出てきた。いやさっき、お前見ただろこの子!
「私リンニャン。勇者様のお供をする為に旅に出たニャン」
ニャンが入ってて話がわかりづらいが、用するに……ってなんでバレた?
「何で俺が勇者って知ってんだよ?」
いや勇者って今言い切ったけれど、ただの占い師にお前が勇者だって言われただけだけど。
「え! トオル勇者なの?」
ニタおまえが驚くなよ、そこで。魔王倒すのは勇者じゃないわけ? 俺言ったよな魔王倒すって?
「話辛いから離してニャン」
仕方ないから、離すけど、そのニャンも話辛い。
「これを見て来たニャン。勇者の
猫耳娘は俺に分厚い本の1ページを見せる。これは……俺の背負っている
「おいこれって勇者の伝説とかじゃ!」
「勇者様の伝説の中のページのこの勇者の
「その伝説ってどこにあったの?」
いったい勇者伝説は何冊あるんだ。
「村の図書館ニャン」
手軽だ! 俺の村と大違いじゃないか! 俺には見せてくれなかったし!
「俺も見たい! 見れるか?」
「勇者様は見てはいけないニャン。未来が変わるから」
「ってことは、書いてるのかラストまで」
「言えないニャー」
なんだか段々とムカついてきた。
「ニャー、ニャーうるさい! その話し方やめろ! だいたい何で猫耳つけてるんだよ! 流行りか? どっかの街の流行りか!」
ついキレてしまった。
「これは、流行ってない。私のブームで造形魔法で作ったの。可愛いと思ったのに」
あ、猫娘が凹んじゃった。いや、あの、俺、つい女の子には不慣れだったけどあまりの事態にキレちゃった。ああ、どうしよう。
「可愛いよね? これ?」
茶色い大きな瞳に涙を貯めて訴えてくる猫娘。ああ、しゃあない。
「あ、うん。可愛い。けど、話し方はちょっと話しづらいかなあ」
「わかった! じゃあ、ニャンはいれないで話す」
機嫌なおるの早っ。そしてニャンはあっさり放棄! まあ、ごねられるよりいいけど。
「で、何で勇者のお供になりたいの?」
「伝説の中にお供が出てきてそれはそれは素晴らしい猫耳娘っぷりなの! それを目指して!」
あの、勇者も伝説も魔王も全く関係ないよね。ってか、伝説読んでいいのお供。未来が変わるんじゃないの?
「そ、それだけ? あ、あの俺、魔王倒しに行くんだけど?」
「決まってるでしょ勇者なんだから」
ニタはわかってなかったけどね。
一応聞いておこう。
「魔法ってさっき言ったけどなにができるの?」
「造形魔法!」
といってさっき見せた分厚い本のような物に何かをサラサラっと書く。そして呪文をとなえる。
ボンって俺の持っている
す、凄い! だが、触ってまたびっくり。
ボヨーン! って弾かれる。弾く
「これが私の魔法!」
いや、そんな自信満々で言い切られても、これ戦闘の実践でどう使うの?
「というわけで、お供にして!」
どうしよう微妙だけど。いや、微妙ですらないんだけど、猫娘は実は可愛いんだ。ちょっと、いや、かなりタイプだったりする。まあ、いいか。
「わかった。だけど、自分の身ぐらい守れよ」
あれ? 勇者のお供って強いのがいるんじゃないの。勇者を助けてさあ。これじゃあ、ずっと勇者がお供を助けっぱなしになりそうだよ。
*
あーなんだろ。
慣れてないから話出来ないよ。もちろん猫娘ことリンである。猫耳姿が様になる茶色い大きな瞳にすっと嫌味がないぐらいに通った鼻筋、肌は透き通る程白くキメが細かい。暗めなブラウンの髪はツインテールでまとめられて肩のところで動く度に跳ねている。頬は薄っすらとピンク色に色づいていて、唇は化粧の必要もないチェリーピンクの程よい厚さの唇。その唇から茶色い大きな瞳でこちらを覗き込む様にいろんな話が飛び出してくる。猫耳にだけこだわりがあるのかと思いきやメイド姿のスカートの後ろからはこちらも造形魔法で作ったであろう尻尾が付けてあった。何かの弾みに手に尻尾が当たったがやはりこちらもボヨーンと弾かれてしまった。
微妙な勇者一行は微妙な空気の中旅を続ける。
リン、勇者になつき過ぎだよ。そんな体験一度もないので戸惑ってどうしていいかわからない。
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