第13話 サヨナラと元通り

今日も美奈の所へ行く。でも今日はただ単におしゃべりに行くわけじゃない。─お別れを言いに行くんだ。

「楓香ちゃん!!」

美奈のいつもの元気な声が響く。

「……美奈」

「ねぇ楓香ちゃん、今日は」

「あのね、美奈」

「どうしたの?」

……言いたくない、でも言わなきゃ。けじめをつけなきゃ。

「知っちゃったの、美奈のこと…美奈がスクールをやめた本当の理由とか、美奈が…この世にもういない事とか…」

「……」

「それで、今日はお別れを言いに来たの」

「……私のこと、やっぱり嫌いになったんだね」

「そうじゃないの!!……違うの…美奈のいろんな気持ちに気づいてあげられなかった私は…美奈の友達でいる資格なんてないのかなって…ごめんね、美奈。気づかなくて、ごめん」

「楓香ちゃん…何でそんなこと言うの?」

…え?

「楓香ちゃんは私にとって大切な親友だよ…でも楓香ちゃんにとっては、有紗ちゃんと莉子ちゃんが親友なんだよね…まぁそんなことは置いといて!私がいじめられていたとき、ずっと隣にいてくれた。味方になってくれた…楓香ちゃんだけが、心の支えだった…でも楓香ちゃんにこれ以上迷惑はかけられなかった…かけたくなかった…だから私はスクールをやめて、もういっそのこといなくなっちゃおうって。そうしたら晴香だって多少は反省するかなって。嫌がらせ、やめるかなって…」

「……っ!」

「あと、私なんていない方が社会のため─」

「美奈っ!!!」

私は自分でもびっくりするぐらいの大声を上げていた。

「美奈だって大切な社会の一員だよ!私の心の支えだったよ!!…ずっと美奈の隣に居たかったよ…あのね、私が有紗や莉子と仲が良いのは、あの2人が美奈に似てるとこがあるからなんじゃないかなって。だから話しやすいのかなって…結局私、美奈に会いたくてしょうがなかったのかも…私も美奈を『親友』として見てたから…美奈と似てるあの2人のことを『親友』って呼んでるのかも…ごめんね、いきなりこんな事言って…」

へへっ、と照れ隠しに笑う。

「楓香、ちゃん…」

「美奈」

優しく美奈の名前を呼ぶ。

「ありがとう、楓香ちゃん…これで私、成仏できる」

「えっ…美奈、消えちゃうの!?」

美奈の体は既に消えかかっている。美奈は優しく微笑む。

「楓香ちゃん、サヨナラ」

──美奈が消えた後に見た夕日は、美奈と再会したときと同じように輝いていた。


「おっはよー!楓香!! 」

「おはよう莉子!!課題やったの〜?」

「うっ…と、ところで楓香!今日も可愛いね!」

「褒めたって何も出ませんー課題もどうせ私に見せてもらおうと思ってたんでしょ?自分でやりなさーい!」

「うぅ…楓香、何でもお見通しなんだね…わかったよ、自分でやるよぉ…」

と言って莉子は数学のプリントを始めた。

「それ、朝提出なんだけど間に合うの〜?莉子数学苦手じゃん」

私は莉子をちょっとだけからかう。

「だって!忘れてたんだもん!!今日課題提出すること!!」

「莉子ってちょっと抜けてるよね〜」

『美奈ってちょっと抜けてるよね〜』

昔の私の声と今の私の声が脳内で重なった。そう、莉子のちょっとだけ抜けてるところが美奈とそっくり。

「楓香ー!莉子ー!!今日は斉藤先生に手伝い頼まれてたから早くレッスン行くわね!」

「えぇ〜!そんなのいいじゃーん!!オカマ先生の手伝いなんて!」

「莉子は喋ってないで手を動かしなさい!」

莉子は喋ってると作業が遅いので一喝してやる。

「うぅ〜……」

「でも本当に有紗は真面目だよねぇ〜」

『でも本当に美奈は真面目だよねぇ〜』

そう。有紗の真面目な所も美奈とそっくりだ。

「何よ楓香。真面目だなんて…べっ、別に嬉しくないけどね!?」

有紗ったら照れちゃって。ツンデレなんだから〜!…本人に言うと怒られるからやめておこう…。

「でもでも、帰りは一緒に帰れるの?」

「えぇ、帰れるわ…それより莉子、早く課題やっちゃいなさい」

「!?何で私が課題やってないことしってるの!?」

「だって机の上にプリント出てるじゃないの」

「あああ!!有紗にはバレないようにしようと思ったのにぃ!!」

いつまでも2人の茶番が続きそうなので…

「そんなことより!じゃあ今日もあのコンビニで待ち合わせね!!今日はコロッケ安いんだから!!」

「おっけー!」

「分かったわ」

また私の平穏な日常が始まる。



END

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