第9話 斉藤先生

「楓香!!!」

莉子の声で目が覚めた。

「大丈夫…?すっごい顔色悪いよ…?」

「あ、ああ…大丈夫。ありがと莉子」

「うん…辛かったら無理せず言ってよね…」

…莉子に心配かけちゃったな。

それにしても今の夢は本当なんだろうか。…なわけないよ!美奈はいつもすっごく優しくて、私のこと一生懸命考えてくれるし…何より私の大切な「友達」だから。

そう、友達、ともだち、トモダチ──。


「楓香、最近無理してるんじゃない?」

いつものダンススクールへの道中、有紗に聞かれた。

「えっ、そ、そんなことないよ…」

「嘘だぁ〜!だって最近の楓香、顔色悪いし」

「レッスンの最中も上の空だし」

「あのオカマ怒ってたよ〜『楓香は最近やる気がない』って!」

「そんなこと…」

言われても困る。別に無理はしていない。

ただ─美奈のことが頭から離れないだけで…。


「ありがとうございましたー!」

「OK!解散よ!あ、楓香はこっちに来てちょうだい。話があるの」

……何よオカマ。私のやる気がないって説教したいわけ?そんなことより早く美奈に会いたい。真実を確かめたい。美奈に笑顔で「そんな噂信じないで」って言って欲しい。

「…何でしょうか、斉藤先生」

「楓香。貴方、レッスン中に他事考えてるでしょ」

「…はい」

「何考えてるのよ?」

「何だっていいじゃないですか」

「……このビルの最上階にいる女の子のことかしら?」

「───!」

何で知ってるの……?

「やっぱりね。その女の子──美奈のことね」

「先生…美奈を…知ってるんですか」

「ええ、知ってるわ。だって私、貴方達と一緒にスクールに生徒として居たもの」

「………え?」

どういうこと………?え?え??

「………あ!斉藤先輩………」

そうだった。そういえば居た。すごく大人しくて目立たなくて、でもダンスの技術はずば抜けていて……だから先生がいつも「斉藤くん、この中では一番上の学年なんだし、センターやってみない?」って言っても「僕は…バックダンサーでいいです…」なんて言って断ってた先輩。何でオカマになったのよ。てか、そんなことはどうでもいいとして!!

「美奈は…私に相談してくれたの。『このまま楓香が私と居たら楓香まで晴香のターゲットになっちゃうから私はいない方がいいのかな』って…。」

「美奈…」

「それであたしはいつも『逆に美奈が居なくなったら楓香も悲しむし、美奈も寂しいでしょ』って。」

目の前かぼやける。何も見えない。

「でもそんなある日…彼女、居なくなっちゃったのよね…私に一言だけ残して…」

「美奈は…何て言ってたんですか!?」

「『私は今日、ここからも、そして皆の記憶からも居なくなります、楓香には秘密にしておいてください』って…」

美奈───…じゃあ、今まで私が聞いた噂は本当なの…?

「今日あたしも貴方と一緒に美奈のところまで行くわ」

「…先生、いや、斉藤先輩…よろしくお願いします」

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