第8話 美奈

今日も美奈に会いに行く。だけどいつもみたいにワクワクはしていなかった。私が感じているのは──恐怖。

「…ねぇ、楓香ちゃん、どうしたの?体調悪いの?」

「…え?あ、あぁ、何でもないよ!!」

どうやら美奈の前でその態度を出してしまっていたようだ。

「本当に?辛かったら言ってね?」

「…ありがとう」

友達に恐怖の感情なんて抱きたくない。ましてや元親友の美奈には──。

でも今私は美奈がとてつもなく怖い。

もし美奈が幽霊だったら?

もし美奈が私を連れて行こうとしていたら?

「…ん、うかちゃん、楓香ちゃん!」

「!」

「今日の楓香ちゃん、何か変だよ?今日はもう帰りな?明日も私、ここで待ってるから」

「うん、そうする…ごめんね、美奈」

「ばいばい楓香ちゃん!明日も私、楽しみにしてるね!!」


──ねぇ、さっき美奈、「帰ろう?」じゃなくて「帰りな?」って言ったよね…

美奈は帰らないの…?美奈はどうするの…?何をするの…?

ごめん美奈、私、美奈に恐怖の感情しか抱けないや。

でも心のどこかでそれを認めない私が居た。美奈は生きている。幽霊なんかじゃないって。

お願い、まだ私に…希望を持たせて…。


「楓香!ご飯よ!!」

お母さんに呼ばれた。私は生返事をする。今は美奈のことで頭がいっぱいだ。

「楓香、またコロッケ食べてきたの?」

─今日は食べてない。あの2人に体調悪くなったって言ってそのまま帰ってきた。携帯を見ると2人から心配してますメールが届いていた。簡単に「ありがとう、大分良くなったよ」と返してベッドに寝転ぶ。

「姉ちゃん飯。早く来て」

竜二が呼びに来たけど「先に食べてて」と言って追い返した。今はご飯なんて食べている暇はないの。


「楓香ちゃん!」

「どうしたの、美奈」

「一緒に来て欲しいところがあるの」

「え、どこ?」

「そのまま目をつぶってて。すぐ着くから」

「え、うん…」

「じゃあ行くよ…はい、着いた!!」

目を開けるとそこは─物凄く美しい楽園だった。

純白のシルクのような艶を持った噴水に、それを護るように咲いている真紅のチューリップ。そして床には雲のような絨毯が敷かれている。

「綺麗…ここどこ?」

「ここは私達が暮らしている場所─そう、天国」

………え?天国?てんごく?テンゴク?

「み、美奈…?」

「フフッ、今頃地上では楓香ちゃんのお葬式が行われてるんだろうなぁ…」

「……!!」

美奈…酷いよ…

「こんなのって…美奈、あんまりだよ!!」

「…何でそんなこと言うの?楓香ちゃん」

美奈が今まで聞いたことのないような低い声で私に言った。

「楓香ちゃん、昔は私のことを親友だって言ってくれてた…でも今は!!……新しい親友が出来て、私のことは『元』親友なんでしょ…」

「美奈…」

「そんなの絶対嫌だったの。楓香ちゃんはいつでも私の1番の親友でいてくれなきゃ」

「美奈!!!」

「もうこれでずーっと一緒だね、楓香ちゃん」

「美…………奈………」

「あー!地上で莉子ちゃんって子が大泣きしてる!有紗ちゃんだっけ?も泣いてるねー!…あ、あの糞女の晴香も泣いてるじゃーん!……超いい気味……」

「莉子、有紗……晴香まで……?」

「うふふ、ふふあはははははははははははははは!!!!楓香ちゃんは誰にも渡さないんだからね!!!!!」

怖い…怖いよ……莉子、有紗……助けて…助けてよ───!

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