第5話 天敵の怯え

「──か…楓香!!」

お母さんの声ではっと我に返った。私…寝てた?

「あんたの部屋から叫び声が聞こえたからびっくりしたよ」

私寝言でも言ったのかな……それにしても暗い過去を夢で見ちゃうなんて…気分悪いなぁ…

「ちょっと楓香?」

「え、何?ごめん、聞いてなかった」

「もう…人の話ぐらいちゃんと聞きなさい」

「はーい」

さて…確かまだ課題が残ってたはずだ。莉子、明日はちゃんとやって来なさいよ…


「おっはよぉ〜楓香!!さて問題でーす!私は宿題を……やってきたでしょーか!それともやってこなかったでしょーか!!」

莉子…朝からテンション高すぎ。

「後者で」

莉子がオーバーに崩れ落ちる。

「ちゃんとやってきたし!!!」

「へぇ…珍しい…で、何の宿題やってきたの?」

「んとねー、化学ぅー!」

「何で化学やってきたの?」

「だってぇー、本田先生イケメンじゃ〜〜ん!!!♡」

やっぱりそこか…まあ本田先生がイケメンなのは認めるけど…ってそこじゃなくて!!!

「国語は?」

「あのセンセー嫌いだからやってなーい」

「日本史」

「……え?課題あったっけ?」

「数学」

「…………また忘れたァ〜!!!!!」

はぁ…やっぱりマトモにやってない。莉子に真面目に課題やれっていう方が無理なのかもね…

「見せて♡」

「………」

「あ、ちょっと!何で無視するのぉ〜!!!」


「で、莉子はバカなの?…いや、友達を疑っちゃダメね…うん、莉子はバカ」

有紗……それどっかで……

「ちょっと!!どっかで聞いたことあるネタ!!!」

「でも否定はしないじゃない」

「うっ……」

結局莉子は今日もまた放課後掃除を与えられた。

「莉子ってさぁ、家帰ってから何やってんの?」

「ん?乙ゲー♡」

「「そんなことやってるから課題終わんないんでしょ!!!」」

また有紗とは息ピッタリだ。

「うわあああああん!!!2人とも扱い酷すぎぃ〜!!」

「てゆーか有紗、今日の化学の時の莉子は酷かった」

「はぁ…このバカ、何やらかしたの?」


「じゃあこれわかる人?手挙げて?」

うぅ…こんなん分かるわけないよ……ああー!!理系選択するんじゃなかった!!

「はいはーい!!私、わかりまーす!!」

「おお!じゃあ赤崎さん!!」

「はい!!えっとぉ、その式はぁ…ごっ、ごめんなさい!!やっぱり私、わかんないですぅ……」

「そっかぁ。でも手を挙げてくれたことは嬉しかったな」

「う、うわあああああああ!!!!」

「ちょ、莉子!!倒れないで!?」


「……ぶっ飛びすぎじゃない?」

「だよね…莉子の世話大変だよもぉ〜…有紗代わって……」

「無理な話ね。私文系選択だし」

「有紗ぁ…」

「べっ、別にいいじゃん!!私が何しようと2人は恥かかないんだし!!!」

「「莉子から正論が出たぞ」」

「フフン、私だってたまには…」

「あ、そういえば私、今日委員会あるから遅れる。ごめんね楓香。今日はひとりでレッスンに行ってもらうけど…コロッケなら莉子に奢らせるわ」

「あ、ああ…うん!分かった!!莉子、またまたご馳走様〜♡」

「うぅっ!!!」


授業が終わって1人教室への道を歩く。やっぱり1人だと寂しいなぁ…

教室に着くと既に晴香とその子分がいた。そして私を見つけると晴香は、

「ねぇ、あんたが星野美奈を呼んだんでしょ!」

「呼んでないし!!」

来るなりこれかよ……正直晴香が私のことを良く思っていないのは知っていた。晴香のグループと私達は対立している。

「じゃあ聞くけど、最近レッスンが終わってからビルの7階に行ってるのは何で?」

「っ…美奈に、会うため」

「ほら!!あんたが!!星野美奈を呼び寄せたんじゃない!!」

何よ、美奈が化物みたいな言い方…

「美奈は自ら来てくれたの!!昔のあんた達のこともあって辛いだろうに…」

「星野美奈は…もう居ないのにっ…」

私の頭でプツッと何かが切れる音がした。

「美奈が居ないなんて言わないでよ!!美奈はちゃんと生きてる!!私に温もりをくれた!!!なのに…なのにっっ!!!」

晴香は馬鹿にしたように鼻で笑うとこう言い放った。

「お馬鹿さんは知らないのね」

何を……私が何を知らないって言うの!!!

「じゃあいいよ…今日…美奈に会わせてあげるから…レッスン終わったら…私と一緒に来て…」


今日も美奈に会いに行く。晴香を連れて。晴香の子分達は嫌だと言って帰って行った。

「ったく、何なのよ…唯も亜美も意気地無しなんだから…」

「罪悪感から美奈に顔合わせられないんじゃないのー?」

「うるっさいわね!!お馬鹿さんは黙ってなさい!!」

「馬鹿馬鹿ってうるさいわ!!」

フンっと晴香は顔を背けた。

「美奈!会いに来たよ!!」

「楓香ちゃん!…と、晴香ちゃん?」

「………っ!!」

すると晴香がガタガタ震えだした。彼女の白い顔は真っ青で、いつもより血色が悪く見える。

「ちょ〜っとぉ〜?何びびってんのよ晴香ぁ〜??」

「星野……美奈……星野が…居る………」

晴香はそのまま走り去った。

「ほんっとに、意気地無しはどっちよ…」

「ううん…無理もないわ……」

「えっ?何か言った?」

「ううん!!何でもない!!それより!!今日のお話、聞かせて?」

「ああ…うん!」

こうして今日も私は美奈とお喋りをするのだった。

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