第3話 オモイ

私は大急ぎでビルの最上階に向かう。このビルは色んな習い事の教室があって、私達ダンススクールの教室は3階。ちなみに最上階は7階。そこは全面ガラス張りの窓で休憩所になっていて、夕方そこからの眺めは最高だ。

ていうか、さっきの声…

「もしかして、美奈…?」

もしかしたらまた美奈に会えるかもしれないという期待を込めてがむしゃらに走った。

そして7階に到着。そこでは私と同じくらいの年齢の1人の少女が窓ガラスから夕日を眺めていた。その容姿は、私が昔見た美奈のものとそっくりだった。

「美奈………?」

私がその少女にそっと声を掛けると、彼女は振り返ってこう言った。

「また会えたね、楓香ちゃん。来てくれてありがとう」


その少女は紛れもなく美奈だった。クリクリとした大きな目、高い鼻、薔薇の蕾のような唇。

「美奈っ…!!…でも」

私は1つ気になることがあった。

「美奈はどうして私の脳内に話しかけられたの?」

「え…?えっと、それは…私が楓香ちゃん来てくれないかなぁって、強く願ったからだと思うなぁ」

「へぇ!!そんなことほんとにできるんだね!!」

「『思い』だけに重いってね!」

「何それww」

「思いが強ければ願いは叶うって言うじゃない」

美奈は昔のままのふわっとした笑顔で笑った。ああ、懐かしい。美奈、私も、会いたかったよ─

「ところで美奈、どこに住んでるの?」

「えっ、うんと…ここから、ずっと遠いところだよ」

「そうなの!?じゃあ今日は遊びに来た感じ?」

「そう…だね、許可、貰ったから」

許可かぁ…美奈のお母さんって、そんな厳しかったっけ?まぁいいや。それよりも、美奈といられる限られた時間の方が大切だ。

「美奈!今からどっか行かない?」

「えっ……あ、ごめん、私もう帰らなきゃ。また明日ここに来て。それでもっといろいろなこと話そう?」

えぇ〜…折角会えたと思ったのに…

「…うん、分かった。じゃあまた明日ここに同じ時間に来るから!美奈も待ってて!!」

「……うん、ありがとう楓香ちゃん」

「じゃあ、バイバイね、美奈!!」


「あ、遅いよぉ〜!楓香ぁ〜」

「ごめんごめん!」

「はい、楓香の分」

ちょっと遅れていつものコンビニへ行くと、有紗が私の分のコロッケを買っておいてくれた(莉子のお金で)。

「うわぁ、ありがとう!!莉子ご馳走様ー♡」

「うぅ…次は私がが2人に奢らせてやる…」

「んで?何があったの、楓香」

有紗が莉子をスルーして私に話をふる。

「んとね!昔このスクールに通ってた友達と久しぶりに会えたの!」

「あ、そっか。楓香は私たちが入るずっと前からこのスクールにいたもんね!」

「うん!その子、足の怪我でやめちゃったんだけどね…」

自分で言ってて辛くなった。美奈がやめた本当の理由を知っているから─

「ふえぇ〜、私も会いたかったなぁ」

「そうね、私も会いたいわ」

おお〜!2人が美奈に会いたいって言ってくれた!!

「いいよ!じゃあ明日連れていってあげる!!2人も一緒に話そうよ!!」

すると莉子が飛び上がって喜んだ。

「やったぁ〜!お友達ができるぞぉ〜!」

「ありがとう楓香。楽しみにしてるから」

「うん!!」

「てゆーか楓香、コロッケ冷めちゃうよ〜」

「そうね、温かいうちに食べたらどう?」

「あ…ホントだ…」

2人の言葉が嬉しすぎて私はコロッケの存在をすっかり忘れていた。

「いただきます!」

私はコロッケにかぶりついた。


その日の夜、見知らぬアドレスからメールが届いていた。

「誰だろ…って美奈!?」

どうして美奈が私のアドレスを知っているのだろう。まあそれは後で考えよう。今はメール見なきゃ。

『楓香ちゃん、メール送ってごめんね。私と一つだけ約束して欲しいの。私に会いに来る時、誰も連れてこないで欲しいな。私は楓香ちゃんと2人だけの時間を過ごしたいの。だから、お願いね?

美奈』

…まるでさっきの会話の内容を聞いていたかのような内容だった。そしてさっき一旦置いといたけど、どうして美奈は私のメールアドレス知ってるんだろう。


「おはよう莉子!ちゃんと課題やってきた??」

「むぅ…今日はやってきたもん」

ふくれっ面で莉子が昨日提出の筈の数学の課題を見せてきた。てかさ…

「莉子、間違いすぎ」

「えぇ!?どこどこ!?」

「ほらここ。何でこんな答えになるの…」

莉子の答えはめちゃくちゃだった。まず単位が全然違う。

「莉子、cmとkmの違いわかんないの?」

「さっ、さすがに分かるしっ!!」

「じゃあ何で庭が30cmしかないの!?」

「それは…単位の書き間違いというか…」

いくらなんでもこれは酷すぎる。やっぱ莉子はもう1回先生に怒られてくるべきだよ…

あ、そういえば。

「莉子ごめん、今日莉子達に会わせるはずだった私の友達がね、2人だけで会いたいって言うから連れていけなくなっちゃった!本当ごめん!!」

「えぇ〜ん!楽しみにしてたのにぃ!でもしょうがないよね。その子の意志なんでしょ?」

莉子…

「ありがとう!絶対会わせる機会作るから!!」


昼休み。有紗にも同じことを話したら「気にすることないわ」って言ってくれた。

「まあその子もきっと一時期帰ってきてるだけなんでしょうし、楓香と沢山話したいんでしょ」

うんうん、と莉子が大きく頷く。

「だから楓香、たくさんその子とお話してあげてね?」

「うん!!有紗、ありがとう!!」

あぁ〜…本当良い親友持ったなぁ…私。

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