魔導の性質と師匠の考え

 俺の腕の包帯が取れたのは、前回アルトさんのお宅にお邪魔してから更に二日が過ぎての事だった。

 そしてそのことが何を意味するかといえば言わずもがな、アルトさんを魔導の師匠として、俺が魔導の教習を受けるということに他ならなかった。

 俺としては何故アルトさんが魔導を教えてくれるのかいまいち理解できていなかったのだが、あの後今後について色々と話し合っている時に自ずと理解できた。


 何を隠そう彼女、アルトさんは剣と魔法の世界によく登場するあの種族――エルフだったのだ。


 現在の世界”イリオス”は以前も説明したが剣と魔法の世界だ。

 それ故にというわけではないのかもしれないが、この世界イリオスには前の世界とは違い様々な種族の知的生命体が存在していたりする。

 簡単に説明すると、人間種を初め、獣人種、妖精種、龍人種等の種族が存在しているらしい――因みに俺の種族は前と変わらず人間だ。


 この種族にはそれぞれ、様々な特徴を備えている。

 因みにアルトさんの種族であるエルフは妖精種に分類されており、魔導の運用に長けた種族であるらしい。


 その特徴は当然エルフであるアルトさんにも該当するようで、だからこそ彼女は俺に魔導の師匠をかって出た訳だ。

 まあ、それ以前にその理由があったからこそ、俺の右腕の怪我が魔導の使用に起因していると判断したイリス母さんが、アルトさんに相談を持ち掛けた訳でもあるのだが……



 ――これは全くの余談であるのだが、妖精種に分類される”エルフ”という種族は滅多に人間と関わりを持たない事は割と有名な話。



 俺の住んでいる街”グランセル”はどちらかといえば人間の街といった感じだが、王都であるため、他種族の住人も結構いる。

 

 鍛冶屋を訪れればドワーフのおじさんが大きな金槌で熱された金属を打っているし、靴屋を覗けばレプラコーンのおばさんが靴の採寸をしていたりする。

 街を歩いてみればアルラウネのおねーさんが花に水をやっていたり、もっふもふの毛皮をした獣人のおにーさんが屋台で食べ物を並べていたりもするのだが、この街に五年間も暮らしていて、終ぞアルトさん以外のエルフを見たことがないところを見ると、その話はやはり真実なのだろう。


 彼らがなぜ人間との関わりを持とうとしないのか――恥ずかしながらその理由に関する情報を俺は未だ持ちえていない。


 しかし、ギルドの受付嬢をしているアルトさんが、長く伸ばした翠色の髪の毛と、毛糸で編みこんだ帽子で、常時その特徴的な尖った長耳を隠しているところを見ると、やはり何かしらの理由があるのだろう。


 その辺の知識は追々身に着けていくことにしよう。



 というわけで――閑話休題。



 俺はアルトさんに指定された時間から、少しだけ早くアルトさんの家に到着するように、先日イリス母さんに連れられて歩いた道を今度は一人で歩いていた。

 少しだけ早く行くというのには別段深い意味はない、が……浅い意味は二つ、三つあったりなかったり。

 

 まあ、そのうちの最も大きい理由の一つは、約束を取り付けておいて、約束の時間に遅れるということが嫌だからという単純でいて明快な理由だったりする。


 これは前の世界でもそうであったことなのだが、どうにも俺という存在は、自分に関する時間の使い方はどこまでもルーズになれるという性分があるらしい。

 要は予定が何も決まっていないならば、だらだらと何もせず惰性で過ごしてしまうということで、何もない日曜日などは予定がなければその殆どを寝て過ごすなんてこともよく合ったものだった。


 だが、こと他人とした時間の関わる約束に関しては、破りそうになるものならば、とてつもない罪悪感に見舞われ、何があっても約束を守らなければならないと思う、ある種強迫観念にも似た思考があるらしい。


 時間に関わる約束を果たすためならば、約束の時間の一時間前に目的地に着くなんてことはいつものことで――それがもし朝の早い時間の待ち合わせでもあろうものなら、寝坊して遅刻しない為に前日から徹夜をして約束に備えるなんて選択肢を選択する。

 それが自分でも厄介だと思う性分だった。


 けどまあ、この性分も考えようによっては良くもあり、悪くもありなんだよなぁ――なんてことを歩きながらに考えてみる。


 約束を違えない様に早めに行動する――俺にとっては当たり前のことで、世間一般で見れば恐らく良い性分で――だけど同時にかなり自分本位のあり方だとも思う。

 確かに約束の時間に遅れないというのはマナーであるが、逆に早く行きすぎるのもまた”約束を違えている”事に他ならない。


 あまりには早すぎる到着は時として、約束した相手の予定を狂わせる場合もあるのだから――


 ――っと、そんなことを考えていたら、如何やら目的の場所に到着したらしい。


 一昨日前に訪れたその住居は、一昨日前と装い変わらずそこに鎮座していた。

 まあ、たかが二日で劇的に変化していたら、それはそれで困るというか、戸惑うだけなのだけれど……


 俺は前回訪れた時と同様にドアノッカーを続けて三回打ち鳴らした。

 そういえば、前の世界ではドアのノックは二回だとトイレのノックを連想するだとかで失礼に当たると聞いたことがあるけれど、この世界イリオスではどうなっているのかな? なんてどうでもいい考えが、一瞬の脳裏をよぎった。


 ――本当にどうでもいいことだった。


 ドアノッカーを鳴らして数秒――前回訪れた時よりも若干長い間が空いたかと思ったら、前回同様慌ただしい物音が扉の向こう側から聞こえてきて――




 ――ドゴンッ!!



「ミギャッ!!」


 

「ッ!?」




 ――扉が開く代わりに、戸の内側の方から鈍い衝突音と一緒に猫が潰れた様な悲鳴が聞こえてきた。

 急な物音に思わず身を竦める俺。


 扉の向こうで何があったのかは想像するに容易いが――扉一枚隔てているがために、俺に出来ることはなかった。


 少しだけ離れた大通りから朝の喧騒が聞こえてくるこの場所を、一時の静寂が支配したような気がした。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





「あはは……なんか恥ずかしいところを見られちゃったなぁ――」



 少しだけ赤みが残る鼻の頭を撫でながら、アルトさんは苦い笑みを浮かべていた。

 先日と同様に招き入れられたのは、やっぱり本棚があったあの一室。


 先日との違いといえば、本棚に収められている蔵書の並びが少しばかり乱雑になっていることと、テーブルの上に三冊の本が乗っていることだった。


 

「とりあえず、君にはこれを使って必要なことを教えてようと思ってね――本当はもう少し厳選しようと思ったんだけど、君が来るのが予想より早かったものだから……」



 ……如何やら先ほど、アルトさんが自分の家のドアに鼻っ面をぶち当てたのは、俺に原因があったらしい。

 早めの行動がこの様な弊害を引き起こしたのは、正直今までにない傾向だった。


 ――アルトさんには悪いことをしてしまったなぁ、反省しないと。


 俺が内心でそんなことを考えていたのだが、恐らくその考えが顔に現れていたのだろう。

 アルトさんはしゃがんで、俺の視線に目線の高さを合わせると、宝石のような翠色の瞳を細め、小さな口が優しげに弧を描く。



「っと、これはもっと早い段階で準備を進めておかなかった私の落ち度だからね? 君は気にしなーい、気にしない! それじゃあぼちぼち初めていこっか」



「っ、は、はい! よろしくお願いします!!」



 そのエルフの代名詞とも言える端正な顔立ちが形作る、正直その優しげな笑顔に少しだけドギマギしたのは此処だけの話に留めておきたかった。

 だけど、俺の感情のダムは容易く決壊してしまったらしく――己の顔に血液が集まるのを自覚する。


 俺のそんな様子を見て、アルトさんは再びクスリと笑みを零していた。


 外観こそ五歳児のそれではあるが、精神年齢は数えで二十五に迫ろうとしているというのに、これではまるで年相応で――ガキそれと変わらない。

 俺は気恥ずかしさを誤魔化す為に、あえて少しだけ大きな声でアルトさんに質問を投げかけた。



「アルトさん!! と、ところで今日は一体どんなことをご教授願えるのでしょうか?」



「……前から少し思ってたけど、君はその語彙をどこら仕入れてくるの? 正直五歳児と話してる気がしないんだけど……まぁ、いっか、とりあえず――はいどうぞ」



 テーブルの上に乗せられていた三冊の本、それを手に取って俺の前に差し出してくる。

 重ねて置いてあったため、それらの本がどの様な内容をしているのかは分からないため、とりあえず一番上に重ねられていた本へと目を落としてみた。



 ――魔導百選、一冊目にはそんなタイトルが付けられていた。



「やっぱり初めは魔導についての一般常識を知ってもらおうかなって思ってる。とりあえずそれを渡したけど、それはあくまで参考にしかならないと思うからね」



 ――でも、とりあえず一通り目を通しておくといいよ、と言われた。



 ――言われて改めて手元の本へと視線を落とす。

 百選という名がついているのだから、当然百近い魔導がこの本に記載されていることは、想像するに難しくない。

 それだけの種類の魔導があれば、俺に合う魔導の一つや二つ、この中から見つけられそうなものだけれども、そういうものではないのだろうか?



「えっとねぇ――簡単に説明すると、”魔導”っていうものには重要な要素が三つあるの――まず一つ目は各々が持っている”魔導属性”、君の場合は”火”と”風”と”水”なんだけど、この三種類に関する魔導なら努力次第で大概使えるけど、それ以外の属性はどう頑張っても使うことは出来ない、まぁこれは今も普段から簡単な魔導を使っているわけだから、理解しやすいかもね」



 ――確かに、俺の扱えるのは三種類の属性の魔導、前世では毛ほども扱ったことのない魔導という力はしかし、現状容易く使うことができる。


 これについて、何故その力を使えるのかと問われると、なんと答えたらいいのか上手く説明できない――本当に”使えるから”使っているだけなのだ。

 魔導属性を測定して、魔力という源を自覚してから、この力は本当に違和感なく、それこそ箸でも扱うかのような感覚で使用できた。

 

 なからの感覚で使用しているが故に、詳しく説明するということが出来ない訳だ。


 さらに言えば、俺が持っていない属性については、こちらに関しても何となくの感覚で”使えない”事が解る。

 感覚としては、前世の子供時代に体験した”自転車の乗り方が分からない”って感覚が近いだろうか?


 ……いや、正確にはこの表現の仕方は違うのだろう。自転車あれは乗り方のコツを一度掴んでしまえば容易く乗り回せるのだから。


 つまりは、直感では”違う属性を使う”というイメージが全く湧いてこないのだ。


 属性魔法の使い方をイメージ出来るか、出来ないか――もしかしたら、所持する魔導属性というのは其れの有無とイコールなのかもしれない。



「そして二つ目は”想像力”――これは魔力という力を使ってどんな事象を顕現させるかを正確に思い浮かべられるかってことなんだけど、要は魔導って力で何をしたいかってことを考えられるかってことね――コップ一杯の水が出したいのなら、空のコップが水で満たされる様子を、薪に火をつけたいのなら、薪に火が付く様子を思い浮かべたりって具合ね」



 ――まあもっとも、とアルトさんは付け加え、さらに言葉を続ける。



「この想像力に関しては、君はかなりの力を持っていると思うよ? 洗濯の代用に魔導の力を使おうなんて考えられるんだからね。水は潤すもの、風は吹き荒ぶもの、火は焼き尽くすもの――そんな風に印象を限定させちゃうのが悪いとは言わない、それらの力がそういった使用のされ方が多いってのは確かだからね。だけど、それ以外の柔軟な思考が出来るってことは大きな魅力だと思うよ? 私はね」



「……正直買い被りすぎだと思います。先日のあれは僕の思考が柔軟だったからってわけじゃありません、あれは――」



「? あれはなに? 何か違うの?」



 アルトさんは首を傾げて俺の返答の意味を問うてきた。

 だが、俺はその問いに対する返答を詰まらせる。


 ――先日の魔導の失敗、あれはそういうことが出来るということを予め知っていたからだ。洗濯機という前の世界の文明の利器の存在を知っていたからだ。


 別に俺が凄いというわけでは決してないのだ。


 だけど、そのようなことを――前世の記憶についてなど、話せるようなことではない。



「……――いえ、何でもありません。話の腰を折ってすみませんでした。続きをお願いします」



 だから俺は、誤魔化すために話の続きを促した。



「――もぉ! 口を滑らせるなら最後まで滑らせてくれないと気になるじゃない! ……はぁ、まあいいわ、確かにこのまま話が脱線したままっていうのはあれだしね」



 コホンッと若干わざとらしく咳払いをするアルトさん。

 気分を新たに持ち直し、そうして最後の要素の説明を始めてくれた。



「最後の一つ、それは”魔導名”をつける事。要は名前を付けてあげるってことね。名は体を表すって言葉が――子供の君は知らないかもしれないけど、そんな言葉があって、魔導名はまさにそれ、魔導名は使用した魔導の形状、性質、役割――そういったものを言い表しているものを付けると発動した魔導の力が大きくなるの――たとえばそうねぇ、君が持っている本だと……この辺が解りやすいかもね」



 アルトさんが俺の持っている魔導百選へと手を伸ばし、その本の始めのほうを開いて見せた。

 徐に開いたように見えたが、開いたページには火の属性の魔導が書かれていた。


 ――そこに書かれていた魔導は、攻撃系の火魔導”ファイヤー・ボール”


 挿絵も乗っていて、そこには魔導の詳しい形状や効果などが書かれていた。


 勿論、いきなり開かれたページに書かれていた魔導なので、そのページに何が書かれているかは分からないけれど……でも、その魔導がどういった物なのかは何となく想像ができた。

 まぁ、火の玉ファイヤー・ボール何て名前がついていたら、少なくともその魔導の性質と形状くらいはすぐに想像がつくというものだ。



「これは補足なんだけど、一番最後に説明した”魔導名”には”同名の魔導名を使う人が少なければ少ないほど、その力を大きくする”っていう面白い特性もあるんだ。例えば今例に挙げた”ファイヤー・ボール”の魔導、これは君も分かると思うけど、想像力っていう面ではものすごく優れた魔導だね、名前を聞くだけでその魔導の本質が理解できる――だから凄く使いやすいんだ。だけど理解し易いというのは、浸透しやすいってことでもあるってことで、同様の魔導を使う人もまた沢山いるから”魔導名”の恩恵は半分程度しか受けられない訳」



 つまりだ――アルトさんの話を要約すれば、力の大きい魔導を使うには予めどんな魔導を使うのをしっかり思い浮かべ、尚且つ思い浮かべた魔導に珍しいかつ相応しい名前を付ければいいということだろうか?


 ――あれ? これって結構難しいんじゃないだろうか?


 想像しやすい名前を付ければ、名前の希少性は落ちる。

 希少性の高い名前といえば、単純に多くの単語を使い、呪文のような物にすればいいのだろうが、それでは逆に”名が体を表しにくくなる”。


 ……なんというか、それは随分と二律背反のような性質だなぁ。



「とまぁ、簡単に説明したけどこんなところかな? だから、君に貸したその本の中には確かに君に合う魔導もあるとは思うけど、自分で考えださなきゃ優れた魔導にはならないんだよ」



 ……――なるほど、だから参考にしかならないと前ふりで彼女は言ってきたのか。


 だが、そうなると魔導書の類が世に出ていないという理由は、ただ単純に活版印刷術が普及していないからというだけの理由ではないのかもしれない――なんてことを何となく思った。

 自分の生み出した優れた魔導を世に広めたいと考える人は、少なからずいたのかもしれないが、広めてしまえばその魔導の能力ポテンシャルが落ちてしまう。

 己の魔導に自信があればあるほど、魔導それが力を落としてゆくところなど見たくはないものだろう。


 そんな風に、どうでもいいことに思考を脱線させていた俺は、しかし、不意に目の前で先ほどよりも神妙な顔つきをしているアルトさんに気が付いた。


 魔導の大まかな説明は一区切りついたと思ったけれど、如何やらまだ何か彼女には話たいことがあるようだった。




「それにね……これはなんというか私の個人的な思いなんだけど――そこに書かれているのはほとんど全てが攻撃用の魔導なの、ううん、それだけじゃない、名の知れた魔導っていうのは殆どが攻撃用なのよ。人はぞれぞれの魔導属性に縛られるけど、魔導っていうものは誰もが使うことのできる力で、強力な力。だからこそ身を守るために、戦いのための武器にするのは当たり前かもしれないわね」



 ――でも、とアルトさんは言葉を続ける。


 

「君は違った。多くの人が武器に使う魔導を生活を豊かにするために使おうとしていたよね。それってかなり稀有なことなんだよ? そういう考えを持つ君だからこそ、私は魔導を教えてあげたいと思った。君がどんな風に魔導を使っていくのか見てみたいと思ったんだ」 


 

 神妙な顔つきが柔らかく崩れる。微笑みを浮かべてアルトさんが俺を見つめてくる。


 そこに込められた想いは――期待。


 アルトさんは俺のことを稀有な存在だといった。

 だけど、当たり前のように攻撃用の魔導が多くあふれるこの世界イリオスで、そういう想いを浮かべることが出来る彼女アルトさんのほうが、俺なんかより稀有な存在だと思う。


 この世界では特異な俺を、恐れず受け入れてくれるアルトさんのほうが稀有な存在だと思う。



「こんな話をした後じゃ、きっと答えにくいのかもしれないけど、答えてくれると嬉しいな――君は魔導って力をどんな風に使いたいのかな?」



 アルトさんは変わらない口調で俺へとそんなことを訪ねてきた。

 どんな風に使いたいのか、何に使いたいか。

 これから強力な力を教えてくれようとしている人から、そんな問いかけを投げかけられるかのは、実は自然なことなのだろう。


 だけど、その質問からは何となく、それ以外の意図も感じた。



「……僕は」



 一体どんな風に魔導という力を使いたいのか、そういえばあまり深くそのことについて考えていなかった。

 なんというかそれは随分と間抜けな話だと思う。



「……僕は」



 攻撃に使用したいのか――


 医療に用いたいのか――


 それとも生活に取り入れたいのか――


 一瞬のうちに様々なことが頭の中に浮かんでは消えてゆく。

 そのどれもが、魔導を用いてやってみたいことだった。


 俺が魔導という未知の力に興味を抱き――夢を描いているからだ。





 そうだ、結局のところ俺が知りたいのは――   





「……僕は、魔導って力で何が出来るのか、それが知りたい、です」





 ――魔導という力そのもの。





「魔導という力で起こる事象ではなく、”魔導”という力の可能性を知りたいって訳か――」



 アルトさんは俺の答えを聞いて軽やかに笑った。

 彼女の琴線に触れる何かが、俺の答えに有ったということだろうか?



「――ふふ、君って見た目によらず結構欲深なんだね。でも探究っていうのは好感が持てるな! 君くらいの年の男の子なら攻撃の力に憧れを持つ物だけどねぇ――でもそっちのほうがよっぽど面白いよ。やっぱり君を弟子にしてよかった。これからよろしくね」



 アルトさんが俺へと右手を差し出してきた。

 その行為が指し示すことは――おそらく前の世界と変わらない。



「はい! こちらこそよろしくお願いします!」



 アルトさんの手を握り返しながら、握手を交わしながら、俺は万感の思いを込めてアルトさんへの挨拶を行うのだった。

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