夜空のキャンパスに輝く二人

色々と後悔し始めた。

何故俺が選ばれたのか?なぜあのセールスマンは俺をゲームに招待したのか?思い返すと、所々に疑問が持たれることばかりだ。


疑問に思わず、ただ流れで物事を決めてしまう自分が情けない。

親にも「少しは確認したり、疑うことを覚えなよ」とか何度言われたことか。


この世界にも俺と同じ何処かの一般ユーザはいるのだろうか。相馬さんのような職員が何人もいて、被験者を増やしている可能性だってある。この世界で同じように現実世界からログインしてきた人がいるならば、色々と情報を聞きだそう。


ふと部屋の一角から水炊きの音がした。どうやらリノンが調理をしているようだ。


「リノン」


「アルさん?どうしました」


台所にたつ彼女の姿が美しい。アルテミスが食卓を作っているようにみえた。毎晩俺の為に味噌汁を作って欲しいと危うく口が滑りそうだった...。そう伝えようとしたが、流石に自重した。


「手伝いなら不要ですよ。もう準備できましたので、夕食にしましょう」


「ああ。その前に一つ聞いていいかな」


「はい、どうしました?」


「"地球"ていう言葉、聞いたことないかな?」


「"地球"...ですか」


指を口に当てて数秒考え込んだが、結局期待した回答は得られなかった。


「ごめんなさい、わからないです。そちらの世界の言葉でしょうか」


「そう...。ありがとう。あともう一つ聞いていい。"日本"って言う言葉、聞いたことない?」


「ごめんなさい、わからないです。そちらの世界の言葉でしょうか」


「まあね...。ありがとう、夕食にしよう」


ある程度は想定できた。

流石にゲームのサポートキャラであるとしても、ユーザに関しての情報が万全にインプットされているわけじゃない。もう少し遠回しな質問で色々と探ろうと思ったが意味がなさそうだ。ゲームの中のキャラはゲーム内の知識しかなさそうだな。


次はこの世界の情報について聞きだすことにしよう。

彼女が召喚士と名乗っている以上、召喚士とは何か色々と情報を持っているはず。

別世界から召還された者が他にもいるか、どこの世界から来たのかわかるか、情報を持っているはず。少しでもこの世界の情報を取得するべきだな。

リノンを少し揺さぶってみることにしよう...。


-

---


夕食を終えてベランダの一角に向かうとリノンがベランダの縁に腰かけ、夜空を眺めていた。

横顔の表情からものすごい笑顔が見えた。


「...♪」


「こうしてみると、すっごく人間ぽいな...」


「...アルさん?」


「あぁ、今通りかかったんだ」


「隣、座りませんか」


笑顔で隣に座りませんか発言。一瞬驚きはしたが、平常心を保つんだ...俺。

この度一緒に女性と相席なんて...。


「...失礼します」

「はい♪」


傍に座って改めてわかる。只の可愛い少女じゃないか。年は俺と近いくらいだが、本当にプログラムなのかと疑問に感じる。

所詮二次元は二次元だと馬鹿にしていたがこれは現実に近い近い、いい思いが出来る...。


「どうしました?」


「いや、なんでも...///」


思わず顔を伏せてしまった。

屈託のない表情でこっちを見たリノンを俺は直視出来なかった


「今日は夜空が綺麗です。雲一つないです」


「...こっちの世界じゃこんなきれいに星は光らないからな...」


現実世界の都会ではもう星なんて見れない。雲一つない夜空のはずなのに星は点灯しないから、今時の子供は星の輝きを知る由もない。

山や海など空気が透き通った場所なら星を見ることが出来なくはないが、空を見上げることなくバーチャルな画面ばかり見る人ばかり。

俺も星の輝きを知らない大人の一人だった。今、目の前に広がる星の輝きを見るまでは...。


夜空の黒く広がるキャンパスに光り輝く点々とした星。空気の穢れなんて全くないと言わんばかりの絶景。

バーチャルばかり見ていた俺の目に広がる無限空間が、俺の心を揺さぶった。


俺は話を切り出すタイミングが今だと悟った。


「リノン...色々と聞いていいかな?リノンについて...」


「私の話ですか?」


「ああ。話せればでいい。いくつか聞かせてくれないか?」


「いいですよ。何を知りたいですか」


「リノンは何時頃からこの村に?」


「ここにきて住み始めたのは2年前です。そのころから一人だったんですが、グランさんみたいに放浪者を住まわせているので寂しくはないです」


「そうなんだ。そういえば召喚士っていってたけど?召喚士ってどういった人なの?」


「"土地神の化身"ですね...。一つの国や村を守るために召喚魔法を駆使して護衛する役割を持つ防人です。元々は私の家が先祖から由緒ある召喚士の家系なんです。そのまま召喚士になれるわけではなく、素質がなれないんですけどね。私は召喚士の素質が強く、他の召喚士から一目置かれていました。色々と才能を妬む人もいれば、期待の眼差しを向ける人もいました」


「才能あったんだね、リノンは」


「こういうものは自分の力が足りていない人が努力すればいいんです。力がないのであれば、自分で力をつければいいだけなんです」


「召喚士って基本的に何をするの?基本的に召還できるならば、力や才なんていらないと思うんだけど」


「重要ですよ。召喚士の力と寿命を削り召還するのが基本的ですが、力があるものはそれらのデメリットを最小限に抑えられるんです。今回私は召喚士の力を当分使えなくなってしまう程度で済みましたが、本来であれば命がいくつあっても足りないくらいの代償がいるんです」


「命を賭けてまで国を守り通すのか...国の防人として立派なんだな」


「私達は古来からある由来を信じているんです。『"古来から異世界から訪れし者は特殊な力を有し、私達を救ってくれる救世主となる"』」


「その由来、信憑性あるものなのか?」


「...どういうことです?」


「自分の命を蔑ろにするメリットがないと思ったんだ。見ず知らずの者に自分の国を授けるというもんだし、召還された奴からすればいきなり国を守るため命を張れ、と命令されると反逆すると思う」


「みんな言います。召還したものが皆主の命令なんて聞くわけないだろう、そんな由来は只の迷信だと。...その由来が故に、私は両親や家族も失いました」


「...」


「例え召喚が無事に達成出来ても、召還された者がならず者でもある可能性だってあるんです。私の両親は才溢れる召喚士でした。国の内乱に加担している暴徒を鎮圧する為に、全ての力を使い召還を行いました。しかし、その召喚された者がまずかった。召還された者は言葉も通じない狂戦士でした。そいつを召還した父と母はそいつに殺害。その後狂戦士は内乱に加担している暴徒を一瞬で全滅させました。それだけで済めばまだ問題がなかったのですが、今度はその狂戦士を利用した奴に...」


リノンは少し声が震えていた。彼女の中にある惨劇を思い出しているのだろうか。

そろそろ止めに入った方がいいかもしれない。彼女のトラウマを引き出してしまうかもしれない。

例えプログラムで出来たキャラでも、目の前の女性に対し色々と追いつめるのは流石に心苦しい...。


だが、あえて止めない。そのまま吐き出させよう。少しでも情報が欲しいんだ。


「狂戦士は国を、町を破壊し、あるがままに大暴れしました。多くの人を傷つけ、多くの犠牲者を出しました。最終的に狂戦士を止めることが出来ましたが、既に手遅れでした。その後の怒りの矛先が私達召喚士へと向けられ、風当りが悪くなり...」


「なぜあそこであんな狂ったものを召還した。暴徒を鎮圧するのであれば軍を要請すべきだ。事前に召還し、主にしたがえるように調教すべきではなかったのか、所詮お前らの奴隷だろう。とか言われました...。ほんと笑える...」


「何も出来ずただ逃げ回る奴らが、所詮迫害することしか出来ないくせにっ...!!あいつらなんて所詮私達の掌で踊らされるだけなのよ!!」


落ち着きのあったリノンが声を荒上げた。止め時を完全に見誤ってしまった。


「お、落ち着け。リノン!!」


「...!?」


「その後...リノン達、召喚士は皆どうしたのかな...?」


「...召喚士を迫害する動きが広まり、みんな国を追い出されてしまいました。私の国の召喚士は皆私を怨んでいました。私の両親が召喚した狂戦士がなければこのようなことは起きなかったのだと。責めて責めての繰り返しです。私も一人国を追われ、この村にたどり着いたんです」


「この村は受け入れてくれたんだね」


「一応召喚士であることは伏せています。厄介者扱いだと厳しいですから」


「...ごめん。つらい過去を思い出させてしまって」


「いいです、知ってもらいたいことなので。今は迫害することもなく迫害も収まっていますが、未だによく思って居ない人が沢山います。私はその不評被害をどうにかしたいですが...」


リノンはこちらを見つめ、口を開いた。

今日一日で一番衝撃のあるセリフと共に。


「一つ、お願いしていいですか。私と主従契約を正式に...させてください!!」


「っ!!」


「召喚士では主と召還された者は主従契約を結ぶ儀式があるんです。それを行いたいのですが...血と血を交わし合う必要があるんです///」


「つまり...」


「私が血を出すのでそれを舐めてください...。そしてアルさんの血を私に...吸わして下さい///」


「...きっと、そんな形の儀式しなくてもいいんじゃないかな///」


「えっ?///」


「要するにだ。その関係って二人が一生の主として傍にいることを誓うことを指しているんだろう。何か特別な力があるっていうのなら別だけど、そんな力ないでしょ。そんなことしなくたっていいさ。だって俺は



リノンのこと、"家族"だって思ってるよ」



「家族...」


俺を見ながら放心抜けてしているリノンの目から、涙が流れた。


「私...嬉しい。そんなことを言ってくれる人がいるなんて」


「あ、ああ。俺は確かに俺はリノンに召還されただけの居候かもしれない。ただ、リノンの使いであり、家族だ。リノンには俺やグランさんがいるだろ」


「ありがと、...アル」


「あ、ああ」


不意に呼び捨てで呼ばれたが、これは警戒が解かれたことを意味しているのだろうか。

それにしても悪い気はしなかった。


「ふふ。家族ってさん付けで呼ばないでしょ」


「それもそうだな。取り敢えず改めて、宜しく」


「こちらこそお願いします。アル」


夜空に一際煌めく星と星の間に流れ星が流れた。流れ星の軌跡が真っ黒な夜空に残り、星と星を結びつけた。

二つのはなれた星が今繋がった瞬間なのだろうか。

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領土争奪の世界 @Caddble

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