初めまして宜しくお願いします
「お目覚めですか?」
「...?」
「突然呼び起こしてすみません。こちらの言葉、伝わりますか?」
「ここは...」
「真に勝手ですが、あなたをここに召還させていただきました。ここは貴方がいた世界ではありません」
「...なんだって」
確かに目の前の女の子の容姿は見たことがない。
蒼く透き通った瞳、腰まで伸びている亜麻色の髪を後ろで束ねた、高校生位の清楚な女性が俺を眺めている。
俺のいる世界では見たことない民族衣装を着用している。部屋の様式、周りの道具も現実世界では何一つ見たことがないものばかり...どうやらここは現実世界じゃないようだ。
「私の名前はリノンと申します。この世界で召喚士として活動しています。少しずつお話ししますから、こちらの部屋に。暖かい飲物でもお出しします」
彼女は茶の間らしき部屋に俺を案内し、そのまま台所らしき部屋に向かった。
頭が軽くぼーっとしているが、少しずつ目が覚め始めた。
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「あなたのお名前はなんて言うんですか?」
暖かいお茶を目の前に、彼女と俺は向かい合って座る。
「俺は...」
ぶっちゃけ名前なんて適当でもいいか。
現実世界の名前も名乗るのもなんか嫌だ。実名でネットやゲームで晒すのも気が引ける。この仮想世界で生きるくらいなら名前を変えてもいいか...。
2文字で適当に...なにかあるかな...。ある...?アル、か。
「俺は、"アル"って言います」
安直だが、これでいいか。
「はい、宜しくお願いします。アルさん」
「ところでこの世界はどうなっているんですか?教えてもらえますか?」
あまりにも現実世界とかけ離れたわけじゃないのかもしれない。しかし、目の前の湯呑は日本で飲んだことある緑茶だし、外から聞こえる虫の鳴き声は現実世界で聞いたことがある。
「ここは一つの大きな大陸に点々とした国と村が共存する世界です。中央国と東西南北の大国に区切られ、この村は大陸の南側の最果てに位置しています。しかし、近年は隣国と村を巻き込んだ大きな抗争に巻き込まれてしまい、ここも被害を受けています」
彼女は申し訳ない表情を浮かべ、俯きながら続けて述べた。
「"古来から異世界から訪れし者は特殊な力を有し、私達を救ってくれる救世主として導いてくれる"と私達召喚士の中では言い伝えがあります。私は力を振り絞り召還術を行いました。おかげで召喚士としての力は当分使えなくなってしまいましたが、貴方をお呼びすることができました」
救うっていきなり...俺、何も特別な力なんてないぞ。そもそも協力する気もないんだがな。と思ったが口には絶対にださないことにする。
「いきなり召還して申し訳ないのですが、力を貸して頂けますでしょうか?」
「いきなり召喚されて気持ちに整理がつかないので...申し訳ないですが、少し時間ください」
「はい、お待ちしています。それまでは外に出てみてはいかがでしょうか。ここになれるのも兼ねて、空気を感じてみましょう。アルさんがいた世界と雰囲気が異なると思いますが、のどかな村ですよ」
「それでは、気持ちに整理ができるまで村を周ってみることにします」
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「リセットしたくなってきたな...」
この村を一通り周ってみたが、想定していた通り現実世界の文化と全く違っていた。緑茶の件があったから期待したんだが...。
なんだよー、現実世界をトレースして再現したんじゃないのかよ。運営さん、相馬さん!!
まるで日本の500年前、戦国時代辺りの雰囲気...建物や着物も歴史の教科書で見たことがある。だが、洋風っぽいものが混じったりしている辺り不思議とアンマッチしたファンタジー感がある。
ここで過ごすには野生での自給自足スキルが必要だな。現代人には体力が持たないだろうな。
そして俺はこのゲームの根本的なことに気づく
「そういえば、一度ゲームから帰るにはどうすればいいんだろうか?」
所持品を確認してみたが、何もない。
まさか、帰れない...。
このまま帰ることができず途方に暮れることになったら...。
「おいおい。どうするか説明を聞いておくべきだったな。俺は何やっているんだか...」
そんなこんなで困惑していたら、リノンが傍に近寄ってきた。
「アルさん」
「あ、リノン...さん」
「どうですか。のどかな村でしょう。所詮数十人しかいない集落ですが、これでも生活できているんです。若い人しかいませんが、楽しくやっているんです」
「はい...のどかでいいところですね...」
「どうしました?元気なさそうですが。召還したことについて悪く思われてしまったのであれば、謝罪しかできなくて申し訳ありません」
「そういうわけじゃないんですけどね」
帰れなくて絶望しているだけです。
仮にこっちで永住することになった場合、決心というか、まだ踏ん切りが尽きそうにないだろうな。
「そうですか...実際召還した直後、主に向かって殺意を向けるどころか、殺害することもあるんですが...。アルさんはそんなことしない、誠実な方でとても嬉しいです」
殺意も何も、消したところで状況は変わらねぇよ。とか言いたくなったけど言わない。
「それはそうと、この後はどのようになさいますか?住居も食事もないでしょうし私の住居に来ませんか?」
帰るための糸口を探さなければな...なりふり構ってられないな。
「申し訳ないですが、お世話になっていいですか?」
「はい。行きましょうか」
彼女は表裏のない笑顔で答えた。
そういえば、住居に来ませんとかいきなりレベル高いな~。...同性の友人宅に遊びに行ったことない俺がいきなり異性の家に行くとはな。
現実世界じゃありえないことを体験できる、ある意味レアだな。後は帰る方法を知りたい。
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