領土争奪の世界

@Caddble

仮想世界へ


初めから人付き合いが苦手っていうわけじゃない。

ただ一人でいることに慣れ、一人が気楽だった。ただ気楽だった。


誰かとつるむより一人でいることを望んだ。

そのうち、周りの友人といても、本当に楽しいって思うことも感じなくなった。

そんな俺に対し世間は容赦なく暗い印象のレッテルを突き付ける。

仕方がなく自ら行動し交友関係を築いたものの、上辺だけの関係の仲間に裏切られてしまう。


「どうしてそんな人生になったんだ。周りともっと仲良くしろ。自分から取り繕ってみろよ」


さんざん周りに言われ続けてきた。俺は何も悪くないと主張し続けたが、挙句の果てに誰にも自分が評価されず一人孤立した。

周囲から増々避けられていき...気づけば遠い場所で一人でひっそりと暮らし始めることになった。


自分という存在がとことん否定される、どこか周りと違う人間であること。この世界には自分を受け入れてくれる人がいるなんて、微塵も思わなくなった。もう居場所も気にせず一人ですごしていきたい。誰も知り合いもいない世界で。


この春大学に進学し、普通に単位を取得し普通に生活した。

穏便に生きることを目的とした俺には、刺激的なイベントなんて望まない。友人を作ることを心から避けている自分がいた。


大学に進学し初めての夏休み、その初日の出来事であった。

自宅のインターホンが鳴り、インターホン越しから問いかけられた。


「すみません。少しお時間ありますか。テレビ局の集金ではないです」


仕方なく、俺は渋々ドアを開けた...。

20代前半の女性?スーツ姿でドアの横に佇んでいる。


「あ、どうも。ええと、鹿倉 樹さんですね」


「要件は?」


「おめでとうございます。あなたは反転世界の被験者に選ばれました」


「さよなら!!」


「あー!!閉めないでくださいよ!!被験者に選ばれることは大変すごいんですよ!!裁判員制度に選ばれる可能性よりも低いんですよ!!亡国の徴集兵に選ばれる可能性よりも低いんですってばー!!」


女性は思い切り扉を叩く。騒音なんて気にしないかの如く...。


「扉叩くなって、うるさいわ!!」


「あ、開いた」


「なんですか」


「...んー」


ドアを開いたと同時に、こっちの顔をガン見してきやがった...。なんだこいつ。


「思っていたより、覇気がない顔をしてますね。これはこれでいいですね~想定通りです」


「帰れよ。期待ない顔で悪かったな」


「いえいえ申し訳ありません。全て想定した通りです。お話しがあるので、お時間宜しいでしょうか?」


-

---


結局よくわからない販売員の女性を茶の間に上げてしまった。

休みの日くらい誰ともかかわりたくないんだよ...。


(休日の日は、ゆったり一人で過ごしていたい)なんて思って居たりします?」


「うぉ!?」


「んっ、ごめんなさい。驚かせちゃいましたね」


突然人の心を読んでは隣で囁かれては驚きもしますわ。

大分イラッとしたので熱いお茶の入った湯呑を思い切り叩き置いた。衝撃に怯え女性は驚き申し訳なさそうにこちらを見た。

無表情でお茶を零さずに叩き置くにはコツがいるが、相手を威圧するのにこの技術はかなり役立つ。


「それで何でしたっけ、仮想世界のだい、なんとか...」


「あ、仮想世界Directですね。この世界は...」

女性は手持ちの鞄からクリアファイルを取り出し、資料を取り出した。


「現実世界に近い環境を、我が社の仮想サーバーでそのまま疑似的に再現した、現実世界のことです。この現実空間ではまず初めに自分が所属することになる村に配属されます。その後その村が滅ぼされないようにするのが目的です」


「...なんで俺なんだろうな。そんなもの、もっと暇な学生とかその辺の人達を選べばいいんじゃないか」


「適性ってのもあるんですよ。申し訳ありませんが、鹿倉さんは私が事前に適性調査して、今回の被験者に適合していることがわかりました」


「そうか...」


正直胡散臭い。なぜこんなものをやらなければいけないのか。俺はただひっそりと自分の時間を過ごしたいだけなの...義務感覚でゲームするのは嫌なんだがな...。

そもそも誰とも関わりを持ちたくない。一人ソロプレイで閉塞的にゲームが出来るのであれば、このまま現実から離れて仮想世界で生きるのも悪くはない...なんて駄目なネトゲ廃人思想になっちまった。特にやることもないし、何かを目標に生きることもない。


「数週間」


「えっ」


気晴らしついでに。


「数週間でいいかな...クーリングオフとか聞くでしょ?」


始めてみることにする。


「うちのサービスはクーリングオフ対象外なんですよ。これでも国家機密に関するシステムサービスなので」ニコッ


屈託のない笑顔でさらっと言いやがった。頭の上でハートマークが浮かぶほど憎たらしいトーンで話してくれやがる。


「金はないよ。経費キツイからな、うち」


「その点は大丈夫です。こちらで全額負担なので」


「やってみますかー...、お願いします」


「あ、ありがとうございます!!そ、それでは後日資材を届けに参りますね」


「あ、はい。そういえば自己紹介はまだでしたね。俺は鹿倉樹っていいます。」


「私は相馬 遥香です。鹿倉さんの主担当です。よろしくお願いします」


-

---


数日後、たくさんの錠剤が入った瓶と専用アイマスクがうちに届いた。

同時に再度相馬さんが訪れた。


「きっと鹿倉さんも気にいると思います。その反転世界は今までに体験したことのない世界がまちかまえていますよ。あ、あと、向こうの世界の人の話はちゃんと聞いてくださいね」


「とりあえず、行ってきます」


「と、とりあえずチュートリアルの話はちゃんと聞いてくださいね!!チュートリアルが終わらないと出れませんよ!!」


仮想空間にログインするには、薬を飲んでアイマスクを着用し仮眠する。

本社にあるサーバから微弱な仮想空間ログイン用電磁波を流してリンクの準備を開始する。アイマスクが各個人の情報を埋め込んだログインツールだとか細かな説明をされたが、なるほどわからん。

原理は良くわからなかったが、睡眠状態中ならば仮想空間にリンクできるんだと考えた。

尚、始めてから数週間はログインするには必ず主担当に許可を得て、監視下に置かれた状態でなければならないが

監視役を相馬さんに頼んでいるので問題はなかった。


「...」


少しだけ淡い期待を胸に、俺は仮想世界へ飛び立った。


相馬「...あっ、大事なこと言い忘れた!?鹿倉さん、聞こえます...ki...!?」

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