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― SS- 515「ひりゅう」―
「水雷長」沖田は言った。「全発射管の魚雷発射準備」
「全発射管に魚雷発射準備、了解」柘植が答える。
山中は尋ねる。
「敵を攻撃するんですか?」
沖田はうなづいた。
「魚雷は山腹を這わせるように進ませ、私たちから十分な距離を取ったところで、敵を
「了解しました。ですが、それで勝算が?」
「今に分かる」
数秒後、発射管室から魚雷装填完了の報告が入った。沖田は水雷長に命じる。
「外部扉開け。1番、3番、5番、方位に合わせ用意、テーッ」
強力な水圧が、魚雷を左舷の発射管から打ち出した。
「水雷長、今度は右舷だ。2番、4番、6番発射管から魚雷発射。1番、3番、5番発射管に魚雷装填。」
数秒後、右舷の発射管から魚雷が発射された。その後、沖田は再び左舷から魚雷を撃ち出した。
《発令所、ソナー》相原が言った。《発射された魚雷は全て正常に航走しています。雷速は70ノットです》
これで「ひりゅう」は九発の魚雷を水中に放った。沖田は操舵員に命じる。
「操舵、面舵10度」
志満が復唱する。
―「長征14」―
《発令所、ソナー。音響反応あり》ソナーの声が飛んだ。《近距離です!水中に3発の魚雷あり!平均方位は270!》
左舷から敵の魚雷が迫ってくる。魚雷は時計回りで山腹を這うように回って来る。
「応射しろ、副長。その3発を破壊し、同じ方位にさらに3発発射する」
楊はすばやく指令を発した。発射管から魚雷が打ち出された。
《水中に別の3発の魚雷あり!方位060からやって来ます!》
今度は右舷から魚雷が回ってくる。多数の魚雷から探信音が発せられる。陸は操舵員に命じた。
「取舵いっぱい、全速前進」
《方位060の魚雷が迫っています!》
「ノイズメーカーを発射しろ!」
「長征14」が最初に発射した有線誘導魚雷と左舷から来襲した魚雷が衝突した。爆発の影響で、「長征14」は揺さぶられた。死火山で跳ねかえされた衝撃が艦尾に襲いかかった。艦体が右舷に押しやられ、山にまっしぐらに向かった。
「面舵いっぱい!」陸は叫んだ。
今度は右舷後方で「ひりゅう」が発射した第2波の魚雷がノイズメーカーと一緒に爆発した。急な旋回運動をしていた「長征14」は新たな衝撃波に襲われた。制御不能となった艦体がずるずると海底に引きずられる。
《水中に3発の魚雷あり!》ソナーが叫んだ。《左舷から接近してきます!》
「1番から4番発射管、速射せよ!」陸の命令が飛んだ。
「近すぎます!」楊は大声で言った。
「やれ!」
発射管から魚雷が飛び出た。
「ひりゅう」が放った魚雷は逆巻く気泡にもまれながらも、その奥に見え隠れする「長征14」そのものを目標に定めようとした。度重なる爆圧は海を涌きたたせ、「長征14」を粉砕しようとした。死火山の山腹に亀裂が入り、大規模な土砂崩れが起きようとしていた。落石が艦体に当たる音が聞こえ始める。轟音の最中、楊は声を張り上げた。
「ここから逃げましょう!崩れてきた土砂で生き埋めにされます!」
「操舵、針路120!」陸は命じた。「両舷全速!」
警報音が突然、原子炉区画と発令所に響いた。
「何が起こった?」陸は言った。
「原子炉で異常です!」楊が叫んだ。
「原子炉制御室、いったい何が起こった?」
陸はインターコムを取る。詰問するような口調でマイクに息を吹き込んだ。
《二次冷却水の温度が急上昇しています。原因は不明ですが、二次冷却水の循環に障害が発生しています》
陸は必死に思考を働かせる。途端に、ある答えに思い当たった。
「クソッ!『そうりゅう』だ。奴の魚雷で舞い上がった海底の砂や泥が二次冷却系に入ったんだ!原子炉制御室、回復はできるか?」
《わかりません。フィルターだけでなく、ポンプ自体や配管にも異物が入ったとなると厄介です。これ以上、二次冷却水の温度が上昇すると、蒸気圧が限界を超えて、二次冷却系全体の破損につながります。原子炉停止の許可を求めます》
二次冷却系がダウンすれば、一次冷却水を冷やすことが出来なくなる。高温の一次冷却水は高圧の蒸気となり、いずれ原子炉を破損させるだろう。冷却が出来なくなれば、原子炉で発生する熱に炉自体が耐えられなくなる。その行き着く先は、
「艦長、原子炉の停止を・・・」
原子炉担当士官のひきつった声がスピーカーに響いた。
《一次冷却水の温度も上昇し始めました。そう長い時間は保ちません!》
「どのくらい時間が残されてる?」楊は言った。
《一刻の猶予もありません。原子炉が限界を超えて加熱してからでは、ECCS(緊急炉心冷却装置)でも間に合いません。あらためて原子炉停止の許可を求めます》
なんということだ。陸は眼前に突きつけられた事実に慄然していた。
《発令所、原子炉制御室。炉心温度が上昇し始めました》
陸は楊に低い声で告げる。
「副長、原子炉停止。ECCSを作動させろ」
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