第1話 その出会いは突然に
日本という国が地図から消えてはや2年が経過した。
この2年のうちに僕の故郷は消え、国籍を変え、言語まで変える事を余儀なくされた。
今はU.N.Iアメリカ国内に設置された経済特区セクターにある大学に通っている。
専攻は政治経済学、世界の管理者がCeciliaに移行されてからの経済なんて今ままでにないくらい安定していて経済学を学ぶ意味すら無くなって覇権安定論の実現化とまで言われているくらいだ。
もう覇権国のパワーの優位性なんてものじゃないけど......。
管理者のCeciliaというのは応用発展型のIAユニットらしい。
自然言語処理プログラムであるELIZAが元になっていて半自立制御プログラムによって稼働している。
管理者が人間からIAに移り変わったのには理由がある、のだが一般市民権しか持っていない僕にこれ以上の情報は開示されていない。
ただ、世界経済史の講義で2020年の第3次世界大戦がIA導入の要因だ、とか教授が言ってたかな。
「今度教授に詳しく聞いてみようかな」
「え? 何を?」
「あ、いや、独り言」
そんなことを考えながら今日もとりあえず友人と大学に向かう。
事実を知る人は少ない、管理者がCeciliaになってから情報に関する閲覧制限がかなり厳しくなった。
情報だけじゃない、市民に対しても制限が設けられている。
例えばこの右手に着けているブレスレット。
これは市民全員に着用義務が課せられているいわば監視ツール、着用者のバイタル、その日の行動記録、起床時間、就寝時間などのあらゆる記録がCeciliaへと送られる。
もう奴隷かなにかになった気分。
それでもブレスレットに助けられている人が結構いるみたいで監視されているという事を気にする人は少ない。
僕自身もあまり気にしたことは無いかな、バイタルを常に監視してるから体調の変化にすぐ気づけるし。
「あ~今日の講義終了!
「ごめん
京とは大学からの付き合いになるけど結構馬が合う友人だ。
見た目は金髪で今時珍しい革ジャンなんか着てる一見荒い感じだけど中身は真面目でとってもギャップを感じられる人間なのだ。
人は見かけに寄らない、これに尽きる。
「俺もレポあんの忘れてた、んじゃ今日は解散すっか、またなー夏目」
「変なところで略すのやめない? またねー」
にんまりとした表情を浮かべ、京は駅の方へと向かって行く。
僕は大学近くのアパートで独り暮らしをしているので京とは正反対の帰宅方面。
「お疲れさまです」
駐輪場の警備員さんに一言かけるのが日課になりつつある。
「お、お疲れ夏目君」
「それじゃあまた明日、
「夏目くん、明日は気を付けなさい」
いつもにこにこしている渡辺さんには珍しく、表情には
明日って何かあるのかな、何もないはずだけど。
きっと工事でもするのかな。
特に気にも留めず、いつも通り帰路に就いた。
家まで30分程の道のり、この時間に頭を空にして何も考えないというのが一番落ち着くかもしれない。
一息つきながら何気なく視線を空へと向けてみた。
「なんだ? あれ」
ひと際強い光を放つ星のようなものが見える。
でも時刻は午後17時をやっと過ぎたあたり、この時間帯にしてはハッキリ見え過ぎている気がする。
ブレスレットから柔らかな通知音が鳴る。
「メールだ、どうせ京からのレポートに関する相談だろうな」
上部に投影されたポップアップをダブルタップ、開くと差出人にIrisとある。
こんな名前の人僕の知り合いにはいないけど、なんか本文に書いてある。
そこには簡素な英文が書かれていた。
「Encounter is suddenly.」
え、なにこれ......。
意味が良く分からない、そもそも差出人は誰なんだろう。
「出会いは突然に。」
思わず本文を声でなぞった瞬間、後ろから声を掛けられた。
「初めまして夏目さん、やっと逢えましたね」
振り返ると毛先を緩やかな風になびかせた銀髪の少女が立っていた。
ランブリング 冬乃 之 @fuyunoyuki
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