テレビ

「あの、油絵は誰が書いたの?」ウサギが尋ねる。

「あれは……だれだったっけ? つぐみ覚えてる?」ポニーテールの少女が尋ねる。

「えっと……ナギサくん?」問われたつぐみが口に手を当てながら不安そうに答える。

「サキだよ――山崎咲」僕は言った。

 僕が来る前の年の秋に書いたんだと、ナギサ君から聞いた。サキからは直接は聞いていなかったが、彼女らしい絵だ。きっと「芸術の秋よ!」とか言いながら勢いで書いたのだろう。カボチャとナスが中良さそうに寄り添って描かれていた。それだけの油絵だった。

 僕らクラスメイトはナギサと対決するために寮の一室に集まっていた。部屋で光るテレビはクイズ番組をやっていた。ウサギだけが正確に全問答えられていた。

「はい、つぐみ」ポニーテールはロールパンを配る。「ウサギもパン食べる?」

「いや、パンは好きじゃない」

「あら、そう」ポニーテールはそのままパンを頬張った。

「他の皆は?」僕はそういえば、ここには四人しかいないと思い、聞いた。僕のクラスメートは全部で九人いるから、まだ五人足りない。

「現地集合だって。準備してるんじゃない?」テレビを見ながら、パンを口に含みながら言った。

 なるほど。確かに、バイクとかは準備要りそうだ。


 ナギサ君の言葉通りであれば、敵襲は日没と同時に行われる。敵の姿も形も、武器も弱点も分からないが、分かっているのは僕らを殺してこの島から追い出すってことぐらいだ。

「もうすぐだね、そろそろ僕らも準備しようか」


 ***


「な、何か見えるよ。小さな船がたくさん見える」

 日が沈み、水平線が闇になった頃だった。闇の外側へと彼らは忍者のように、音もなくそっと上陸した。島は四方を海に囲まれているので、自動的に包囲されたことになる。僕とポニーテール、ウサギ、双子、ワカバ、シオサイは校庭で迎撃。つぐみは身体も精神も幼いのでアンテナの上から見張り役。郵便屋さんが傍に居てくれるのでたぶん大丈夫だろう。

「いよいよだねぇ。なんかワクワクしちゃう」とポニーテール。

「わたし……やっぱり辞めようかな……なんか、怖い……」とワカバ。

「はっ、バカじゃないの。だったらおとなしくそこで死になさい」とシオサイ。

「来るよ」つぐみが無線で叫ぶ。

「よし、エンジン掛けて」僕は合図する。

 シオサイとワカバ、ウサギとポニーテール、双子がそれぞれ二人乗りでバイクに乗る。前者が運転手で後者が攻撃担当だ。

「よし、つぐみの合図で開始だ。いいかい、危なくなったら直ぐに離脱して市民館に向かうこと。無理はダメだよ。日の出までが勝負だ」

 遠くから何か叫び声のようなものが聞こえ始めた。黒い影が輪郭をはっきりさせたとき、無線が鳴った。

「すたーとぉぉぉ」

 つぐみは叫びながら市松模様の旗を振った。

 バイクが一斉に走り出す。顔のない仮面を着けた黒マントは校内に入り、僕らを見つけるなりスピードを上げて突っ込んできた。バイクは散り散りになって、撹乱を開始する。

「うらぁぁぁ」ポニーテールは両手に持った爆弾を次々に投げていく。黒マントは爆風に巻き込まれて次々に倒れていく。

「え、えい」ワカバも両手で一つを何とか持ち上げ、回りに投げていく。大分投げやりだが、効果はあるようで、次々に倒れていく。

 敵の黒マントの武器はフェンシングのような刃物を使用してきた。だが、こっちは隼とブラックバードである。黒マントも目で追うのが精一杯のようだ。

「あ、あれ~」

 ――ワカバも目を回しているようだが、まぁ、仕方ない。

 それでも、全てを相手にできるわけではない。街中や山林、海岸にも押し寄せている。彼らは大人達が相手をしている。皆ナギサ君には世話になっているのだ。

「さて、と」

 どうやら僕の相手もようやく登場のようだ。校舎を乗り越えてくる敵、バイクの集団から抜け出てくる敵、空から飛び降りてくる敵。あっという間に囲まれて細長い剣で指された。

「――サキ、ボク頑張るからね」

 僕は手にしていたナイフを一度鞘に納め直し、腰を低くしてから再び抜いた。三十センチとなかった刃渡りは瞬時に僕の身長を越え、160センチぐらいに成った。

「――シントウ・ソライロ」

 僕が特別何かすることはなかった。刃の表面に敵を写してソライロに教えるだけ。後はソライロが敵を切り裂いてくれる。仮面とマントを真っ二つにしてくれる。僕は離れないように、しがみつくように振り回すだけだ。

「まーくんってあんな特技あったっけ?」ポニーテールが言う。

「……初めてみた」ワカバも驚いて言う。

「「カッコイイ!!」」双子は声を揃える。

 周囲を囲んで一度に襲撃されても、三百六十度回転させて殲滅。次々にただの布切れにしていく。

「……キザなやつだ」ウサギはハンドルを思いっきり切った。どうやら弾切れのようだ。

 校庭から仮面が消え、漆黒の布だけが残ると、皆が僕のところへと集まった。

「終わったのかい?」ポニーテールは物足りないような言いぐさだが、どこか誇らしげだ。「案外、大したことなかったな」

「皆は二次作戦に移ってくれ」僕は達成感を抱えた彼らに言った。

「分かった。街とか海岸に行けばいいんだな。――まーくんはどうするの?」

 僕は空を見上げて言った。

「敵将を迎え撃つのさ」

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