月に帰る
スピッツベルゲン島の夜には、僕らが元居た現実世界でも見られた月を見ることが出来る。今日の月は満月の一歩手前で、ちょっと形としては歪だった。まん丸になるにはあと三日ぐらい掛かりそうだった。
「まーくん、月がきれいだね。もうすぐ満月だ」
ナギサ君には星が明るい夜空も歪な月も良く似合っていた。
「君にはあの月が何色に見えるかい?」僕らは寮の屋上に居て、ナギサ君は月から僕へと視線を移しながら言った。「あの月はいったいどこにあるんだろうね」
「どういうこと?」
「だって、ここは地球上だとは限らないだろう? 天国でなければ地獄でもない。死んでもいないし、生きてもいないんだとすれば、僕らが見ている月はいったいどこにあるんだろうね」ナギサ君は再び月を見上げて言う。片膝を曲げて腕を乗せ、睨みつけているようにも見えた。
「僕には赤色に見えるんだ。僕はきっと、あそこから来たんだろうね」ナギサ君はこちらを向かずに言う。
「もしかして……思い出した?」僕は恐る恐る言った。
「あぁ、僕はどうやらこの島そのものらしい」
「どういうこと?」僕はさっきと同じ問いをする。
「君にはあの月は黄色に見えるだろう? 僕にはいつも赤色に見えるんだ。同じ場所で違うものが見える。それも互いの見えているものを互いに見ることはできない。これは同じ場所に居るようで、実は違う場所に居る、または僕が人間じゃないってことだよ」ナギサ君は屋上のアンテナのある高台から飛び降りて僕の横に立つ。「僕が推測するに後者だと思うんだ。なぜなら僕は君の過去を知っているからね」
「ほんとに……?」
「ああ」ナギサ君はポケットに手を入れ直して続ける。「最初から、この島に来た時にはもう君のことは知っていたんだ。君だけじゃなくてこの島の住民のことはみんな知っている。なんだか超能力者みたいな話だけど、これは事実だ」
「僕に話すってことは、ナギサ君も元の世界に戻るの……? その、赤い月に」
「そうだよ。さすがだね。」彼ははっきりと笑った。「呼ばれているから行くだけだよ。大丈夫、すぐに戻って来る」
僕と出会った人たちとの間に運命の糸があるのならば、それはだいぶ
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