第12話 チェサピーク湾、沸騰
「ブリタニアの誇る蒸気精霊騎部隊、壊滅!」
いまや戦争の帰趨を決する存在となった蒸気精霊騎による戦闘の結果は、大陸列強を動かした。サラトガの戦いから数ヶ月のうちに、フランシュ王国、イスパニア王国、ネーデルラント連邦がアメリア側として参戦。北の大国ローシア帝国も中立を宣言した。
「馬鹿な! 旧大陸の列強がことごとくアメリア側につくなどありえん! 本国政府の大使はなにをやっておったのだ!?」
静まり返ったブリタニア帝国アメリア総督府の一室で、サー・フレデリック・アーガイルは壁を蹴りつけていた。ブリタニア帝国の将軍……チャールズ・コーンウォリス将軍は、その様子を冷ややかに見つめていた。
「アメリア独立軍はフランシュ王国からの支援物資によって勢力を保っています。チェサピーク湾の制海権を取り戻せば、自然と連中の勢力も潰えましょう」
「その……確証はあるのか?」
「ブリタニア帝国海軍はイスパニア王国の無敵艦隊を打ち破ってより二百年、敗北を知りません。惰弱なフランシュ王国海軍など、ひとたまりもありますまい」
***
「久しぶりの故国は懐かしいでしょう、フランクリン公?」
「そうですね。でも上陸するには、ブリタニア帝国海軍を倒さねば」
フランシュ王国海軍の旗艦、ヴィル・ド・パリの甲板で、少年と背の高い士官が会話していた。
「それにしても旧大陸列強すべてを味方につけるとは、なみなみならぬ外交手腕……このフランソワ・ド・グラス、心より感服致しました」
「それだけブリタニア帝国が憎まれていたということですよ。どの国もかの国に一泡吹かせる機会を狙っていた……アメリアは、その気運に乗っただけです」
「またご謙遜を……。ところで、試作兵器の調子はいかがですか?」
「ええ、実戦投入にはなんとか間に合いましたよ。潜水艇タートル号……浮遊機雷を散布して、ブリタニアの艦艇を撃破してくれるはずです」
***
かくしてチェサピーク湾に終結したブリタニア帝国海軍は、フランシュ帝国海軍を見る前にパニックに陥った。艦隊を率いるサー・トーマス・グレイブス提督の怒号が響き渡る。
「馬鹿な!? 敵船はどこにいる!?」
「見当たりません! ですが、次々と艦艇が機雷に接触中!」
飛び交う手旗信号もむなしく、次々とブリタニア帝国海軍の軍船は沈められていった。望遠鏡を手にその戦果を確認したベンジャミン・フランクリンは微笑んだ。
「これでマーサ達にフランシュ正規軍という援軍を届けられる。さらにブリタニア帝国のコーンウォリス将軍への増援を防ぐことができた。いよいよ決戦のときだね。頼むよ、パウル……?」
彼はこの戦いの最後の帰趨を決するのは、やはり蒸気精霊騎だと見ていた。
***
チェサピーク湾海戦の結果、ブリタニア帝国は兵員と物資の不足に陥った。機を逃さず、マーサはブリタニア帝国軍の最終拠点であるヨークタウンに総攻撃をかける。次回、『ヨークタウン、決戦』。 猛る蒸気が未来を拓く!
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