第7話 プロイセナ傭兵、襲来
「はいはいはい、並んで並んで〜! 大陸軍への志願兵申込み列、最後尾はこちらですよ〜!」
『アメリア独立義勇軍、ブリタニア軍を撃退!』というボストン新聞の記事、そしてコンコードの戦いに参加した二百名の義勇兵が各地で語った武勇伝は、たちまちアメリア人達の愛国心に火をつけた。
コンコードの戦いから三ヶ月ほどで、大陸植民地13州の各州都に押し寄せた義勇兵の数はおよそ二万名。その熱気は、マーサ・ワシントンが州代表を務めるマサチューセッツ州ではいっそう凄まじく、ボストンの軍事的緊張は極限まで高まっていた。
***
「ぐわっははははっ〜! お久しぶりですな、総督!」
「その下品な声……生きていたのか、大佐」
植民地総督サー・フレデリック・アーガイルは顔をしかめた。
「いかにも! 生死の境をさまよっておりましたが、不肖このバルバロッサ。ブリタニア帝国の誇る『蒸気精霊機関移植手術』により、生き残りましたわい!」
ここはボストンに所在するアメリア大陸植民地総督府。そこに現れた、かつてのブリタニア帝国海軍ボストン駐留艦隊司令官、サー・ジェームス・バルバロッサ大佐は奇怪な変貌を遂げていた。見事な禿頭は半ば鋼鉄製の兜に覆われ、両目があった部分にはカメラのようなレンズがはめ込まれている。かつては聞く者に耳を覆わせた巨大な胴間声は、蒸気まじりの人工声帯による合成音声となっていた。右腕と左足も鋼鉄製の義足である。
「しかし……すべての駐留艦艇を沈められた以上、今さら貴様が率いる兵士もおるまい」
「ぐふふ……。総督。港をご覧あれ!」
大佐がカーテンを引き開けた先に巨大な鋼鉄の人形が三騎、佇立していた。
「な、なんだ、あれは!」
「あれこそ、今まさにヨーロッパ大陸を席巻するプロイセナ王国傭兵団の蒸気精霊騎! 我が輩がはるばる率いて参り申した。聞く所によればブリタニア帝国陸軍がアメリアの義勇兵どもに敗れたとのこと。まあ、蒸気精霊騎に生身の人間がかなうはずもありますまい。ここは我が輩におまかせあれ!」
***
「マーサ、ブリタニア帝国が蒸気精霊騎を投入してきたそうだ。今朝、ボストン港に三体ほど搬入されたらしい」
「そうですか……。我々にはアークエンジェル一騎しかありませんから、厳しいですね」
「ああ。この間の戦いでよくわかったが、生身の人間では、蒸気精霊騎相手に対処のしようがない。港の監視を強化して、奴らがどこかの戦場に精霊騎を投入するなら、そこにアークエンジェルをぶつけるしかないだろう」
「そうですね……あとは、また連中の精霊騎を奪うか」
「さすがに警戒しているだろう。それに、精霊騎を操縦できるのは俺しかいない」
「それもネックですよね……。このままじゃ、パウルさんが過労死しちゃいます」
マーサは冗談めかして肩をすくめた。
「武器の調達、援軍の派遣……とにかくフランシュ王国を味方に付ける必要があります。ベンジーがうまくやってくれればいいんですが」
***
ボストン港に佇立する三体の鋼鉄の騎士。その足元では、アメリアでは聞き慣れない言葉を話す男達が忙しく立ち働いていた。それはアメリアで一般的なブリタニア語ではなく、プロイセナ語であった。
「隊長! 出発はいつです?」
「雇い主が戻ってくるまでは待機だな。そもそも、まだ反乱軍側の精霊騎の居場所もわからん。当分はこの場所で訓練することになる」
青い羽根帽子を付けたカイゼル髭を生やした壮年の男と、活発な瞳をした青年が会話していた。隊長と呼ばれた男はゆっくりと港を見渡す。
「敵の精霊騎は一機のみという。三体で同時にかかれば敵ではあるまい。……だが」
「だが?」
「連中には地の利がある。こちらが分断されれば、各個撃破される恐れもある。連携訓練を怠るな」
「任せてくださいよ、隊長。俺達は
「敵は……ブリタニア海軍の戦艦を三隻沈めたらしい」
「はぁ!? 陸戦兵器の精霊騎で海上戦闘をやったんですか!? 海に落ちたら一巻の終わりじゃないですか」
「それだけの手練れということだ。俺もそんなパイロットは見たことが無い……いや、かつて1人だけ見たことがあるか。だが、まさかあの男のはずはない……」
ザイトリッツと呼ばれた男は首を振り、追憶を振り払った。
マーサ・ワシントンの密命により大西洋を渡り、フランシュ王国宮廷で独立戦争への協力工作を行うベンジャミン・フランクリン。その前に、謎の男が現れる。
<次回、「フランシュ王国義勇軍、参戦」。猛る蒸気が未来を拓く!>
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