第7話
浮遊島高層区画にある王城正門、そこにユイとライカは居た。星空が広がる空を上に、街灯の下のベンチに座り込むユイとライカが蒸し暑さに堪えるように体をあおいでいた。先ほどまでキャベンディッシュに招かれ身体検査と、事情聴取を受けていた2人は背筋を伸ばしため息を漏らす。
「いやー・・・・まさかあんなことだけで帰されるとはな」
振り返り王城を見上げながら呟くライカをユイは半目で見ながら言う。
「俺は牢屋にぶち込まれて絞首刑になるのを真面目に想像してたけどな・・・・くわばらくわばら」
ははは、と笑いながら応じるライカがふと現在時刻を確認する。午後8時、そう示す時計のアイコンの傍にある、メッセージ受信ボックスに何件かの着信が入っていた。中の数件はこちらの安否を気遣う内容の物だったが、1件だけオリエント軍司令部からの通達があった。
「ユイ、こいつ見てみろ。急ぎオリエントに戻れだとよ・・・・また取り調べかね?」
同じく通知の内容を確認したユイが、立ち上がり汚れが付いた部分を手で払い落し立ち上がると言った。
「まあそれしか無いだろうな、それじゃあ急いで行くか・・・・ってあれは何だ?」
夜空の彼方から1人の魔女と、1人の竜騎種が飛行してきていた。よく見てみればそれはユカリとディノの2名で、2人は妙に焦った表情でこちらへ向かってきていた。急降下し2人の目の前にランディングしたユカリとディノは地面に降りることなく滞空すると、
「2人共早く乗って!」
額に汗を滲ませ怒鳴りつける様な声でユカリが告げた。
「おいおい・・・・急にどうしたよ?」
戸惑いつつも箒の後部に跨るaユイとディノの飛翔器のフレームに掴まるライカ。問われたユカリは、箒を上昇させながら
「通達が行ってる筈なのに見てないの!?」
驚いた様子を見せながら1つの仮想枠を表示させ背中のユイの方に回す。ライカの方も同じ内容の仮想枠をディノが表示させ見せていた。
「いや、ずっと取り調べ受けてたから・・・・」
「取り調べって何したのよ・・・・」
呆れため息を吐くユカリを横目に仮想枠を見つめる。
「轟神種集団が西方より接近中って・・・・おいおいまじかよ」
ユイがその知らせに驚き目を剥いているとユカリが箒のコンソールの調整を完了させる。
「オリエントに急ぐよ!速度上げるから歯を食いしばって!!」
すると箒後部のフィン部が爆発するようにエーテル粒子を吐き出すと、凄まじい勢いでユイ達が空へと高度を上げていく。ディノの方も背部飛翔器の出力を全開しライカを肩に乗せユカリに追いつく。白の軌跡を描きながら4人は、暗い空の下を疾走していった。
浮遊島中層区画に置かれた巨大格納庫、そこには数多の騎士兵が続々とカタパルトに乗り空へと飛翔器を煌めかせ続々と出撃していった。慌ただしく整備兵と騎士兵が行き交う中を、騎士兵専用鎧装を身に纏い白銀の巨大な槍を背後に浮遊させているエリザベスが、出撃する騎士兵達を見送っていた。しばらくすると傍に控えていた同じく鎧装を身にまとったキャベンディッシュがエリザベスに耳打ちする。
「浮遊島配下の騎士兵、出撃が完了致しました」
「ああ・・・・」
と、エリザベスが震える両手を握りしめカタパルトに両足を接続する。それに気付いた巨大格納庫に集うすべての整備兵が騒ぎを止めこちらに向き直り敬礼をする。その事が、忠誠を集められているという事なのか、はたまた騎士としての義務でそうしているのか。女王に成ってまだ1年の身、きっと後者の方なのだろう、とエリザベスは心の片隅で思いながら傍らに立つ整備兵に合図を送る。するとカタパルトが一気に動き出し凄まじい速度でエリザベス格納庫の外へと放り出す。すかさず飛翔器の出力を上げ空へと向かう。視線を下にしてみればドックから搬出され騎士兵達と同じく西へと向かうオリエントから、続々と白い光が放たれこちらに追いつく様に上昇を始めていた。
「機体回せえ!休んでる暇はねえぞ!」
格納庫内に怒号が響き渡ると共に、整備兵達が騎士兵専用鎧装の背部に装備させられた巨大飛翔器や機神の主機を駆動させると、地鳴りの様な音が響き始める。準備が完了した部隊が続々とカタパルトに接続され、金属を擦る音を出しながら艦外へと飛び立っていく。その様子をユイはアスタロトに乗りながら、自分たちの番が来るのを待ち続けていた。
・・・・作戦開始は10分後。まず第1段階として浮遊島所属の艦隊とオリエントの艦砲と、本土に設けられた迎撃設備で敵前方集団を撃滅。その後は俺達が残った残敵を掃討する・・・・。
ユイは落ち着かない様子で何度もシートに座る体勢を変えながら作戦情報を眺める。網膜に映りこんだ部隊員の表情を眺める。他の3人も不安そうに身体を動かしていたり、意味もなく武装の点検をしていた。それらを眺めているとコックピット内に金属を軽く叩く音が響く。視界に新しい映像が表示される。音の正体はアスタロトの後部に設けられたコックピットハッチをノックするように拳で叩くエルズが居た。それを見たユイはまだ自分の部隊の順番ではないことを確認すると、視線操作でハッチを開放するとコックピットブロックが後部にせり出る。
「急にどうした、何かトラブルか?」
と、ユイが尋ねるとエルズが
「いや特にそういった事はないんだけど・・・・ちょっと気になってさ」
言葉と共にエルズがコックピットブロックに身を乗り出し、円筒状のデバイスに接続された青い線が走る腕をじっと見つめそして触り始める。線をなぞる様に触られ妙なくすぐったさを感じたユイが、
「お、おい・・・・急になんだよ」
ユイの声に答えず腕の確認が終わったのか身を離す。
「ううん、なんでもない。急にごめんね」
身を離し言うエルズに怪訝な顔をしたユイが言う。
「なんなんだお前・・・・それじゃあな」
コックピットブロックが前に動きだし機体内部に収納されていく。
「あ、ユイ!死なないでね~!」
その動きを確認したエルズが狭まっていく隙間めがけて言う。
「おうよ!」
閉じていくコックピットの中声を上げ意識を作戦の事に集中させる。気づけばもう自分たちの部隊の番が来ていた。
「よし、行くか」
機体を立たせカタパルトに移動させる。アスタロトが動き出すと続いて他の3人が乗った飛空艇も動き出す。
「新装備の調子はどうだ?3人共」
見ればライカの背中には以前のと比べ大きな飛翔器とそれに横付けされた2メートル程の円柱が1本、ディノの方は全身の各所に中型の飛翔器を付けた追加装甲を、箒を持つユカリの背後には巨大な杖が浮遊していた。
「ああ、良い感じだぜ!大戦果間違いなしだ!」
「少し違和感があるが良い感じだぞ」
「こっちも大丈夫。それにしてもこんな新装備を兵士全員に支給って・・・・企業連合に負けず劣らずって感じだね」
各々の様子を確認するとユイは大きく深呼吸して意識を引き締める。するとオペレーターの顔が視界の端に表示された。
「第29遊撃隊、発進どうぞ!」
飛翔器の出力を上げ機体を発進体勢に変える。
「V01、出撃する」
凄まじい速度で格納庫内の景色が流れていき一瞬で機体は夜空に放り出される。艦から離れたのを確認し飛翔器の出力を上げると、他の機神とは違う青の軌跡を描きながら戦場に向かう集団と合流する。もう殆どの部隊や航空艦隊が戦列を整えるのを見て感嘆していたがすぐに自分の部隊の事に意識を戻す。遥か彼方を見つめていると、竜騎連合での戦闘の記憶が突然フラッシュバックされ嫌な汗が噴き出る。頭を振りそれを振り払うと何度か深呼吸を繰り返し呟く。
「生きて帰る・・・・生きて帰るんだ」
そう繰り返しながら未だ見えないものの、敵がいる筈の遥か彼方の空を見据えていると、鼓膜に幾つもの声が響く。
『浮遊島司令部より全部隊に通達。砲兵戦力による面制圧まで残り2分39秒!』
『歩兵戦力は航空戦艦団の護衛及び敵の撃滅、機神戦力は義骸戦力と敵艦船の足止めをしろ!』
ユイは響く数々の声を聞きながら視界に映る、刻々と減ってゆくカウントを見つめていた。なぜならこれが初の本格的な作戦。未だに詳細は不明だが、竜騎連合の時の様な奇跡はもう起こらないと思うと自然と嫌な汗が出る。
・・・・このまま見つめていても仕方ない。そう思いアスタロトとの視覚合一を解除し、意味もなく姿勢を幾度も変えているとコンソールに1枚の紙が貼られているのを見つけた。
「エルズが張ったのか。えーと・・・・なんだこれ、船?」
(大船に乗ったつもりで頑張れって事なのか?あいつらしいな。)
と、思い自然と笑みが零れるのを自覚しながら紙を貼り直し機体と一体化する。カウントを見れば砲撃開始まで10秒という時間になっていた。耳にオペレーターを務めるフィオナの声が響く。
「砲撃開始まで5秒前。・・・・4、3、2、1・・・・砲撃開始」
言い終わると同時に浮遊島とオリエントに展開した砲兵戦力、そして戦列に加わる戦艦群が敵先鋒集団に向けて砲撃を開始した。数秒後飛来した放たれた無数の光芒が敵先鋒集団に直撃し視界が白の花火の様な爆発で染まる。ユイ含む全ての機神戦力が手にした長銃を構え煙の中から轟神種が現れるのを待った。流れる静寂に耐えかね視線を横に展開する部隊へと向けた瞬間、ある1筋の光を捉えたユイの意識は凍りついた。
「ザドキエル・・・・!?」
他の機神より数段上のアスタロトの頭部ユニットだから捉えられた1筋の光それは、戦列の彼方に居る部隊に今まさに光翼を輝かせたザドキエルが手にしたナイフを滞空する機神に向け振り下ろそうとしていた。
「そこの大隊、今すぐ退避しーー」
言い終わるよりも早く、結果が生じた。背部をコックピットブロックごと大きく切り裂かれた機神が全身から光を失い落下していく。続けて戦艦が狙われる。船体に一瞬だけ光が走ったかと思うと瞬く間に全ての武装が切り刻まれ爆発、炎上していた。そこでようやく味方の軍が襲撃を受けた事を察知しザドキエルが居る場所に銃弾を叩き込むも遅く、近場の機神が貫かれる。
「このままじゃ被害が・・・くそっ!」
どうにか捉え切れるザドキエルを必死に視線で追いながら飛翔器の出力を上げ,絶えず爆発の光が上がる場所へと向かう。その動きに気づいたのか、機神の1機を串刺しにしたザドキエルが乱雑に機神を蹴り飛ばしアスタロトの方へ加速した。
「ユイ!」
ユカリがユイを追い掛けようとするもライカに静止され踏み止まる。
「こっちもやばい!急いで出るぞ!!」
ライカが示した方向を見る。そこには、先ほどの攻撃の損害を全くと言って良いほどに受けていない無傷の敵集団が多数の光芒をこちらに放ちながら接近してきていた。飛空艇内部に設置された簡易射出機で空へと躍り出る3人。
「ユカリ、援護頼む。ディノ、行くぞ!」
ライカが背後に浮遊する円柱を手に持ち構えると、翳した円柱の周囲の空間から鋼の部品が続々と現れた。巨大な三角の部品が円柱を挟み込み合致し刀身を形成すると、鍔が剣と柄との接続を固定し最後に幾つかのボルトが全体のパーツを固定していく。鍔の辺りに全行程完了と書かれた仮想枠が数秒だけ表示され、武装が鎧装に登録される。ディノと顔を見合わせ頷き合うと、
「行くぞ!!」
飛来する轟神種を迎え撃つ形で3人は一気に加速した。
戦列が崩れ乱戦状態になった戦場をユイは、味方の機体を続々と撃墜するザドキエルのみを見つめ疾走していた。すると視界に警告ウインドウが表示され甲高い警告音が鼓膜を叩く。前方より迫るザドキエルから、幾つかの光弾が放たれこちらに迫ってきていた。
「くっ!」
背部にマウントされた粒子砲を装備すると、連射状態なのを確認し回避軌道を取りつつ射撃を放つ。放たれた弾丸が迫る光弾と衝突、轟音を響かせながら爆発する。全ての光弾を撃墜したことを確認すると粒子砲を背部に戻し、腰部にマウントされた長剣を両腕に装備する。こちらへ直進する機動を取るザドキエルをレーダーで確認すると、同じようにザドキエルへと突撃する。するとすぐさま、光弾が爆発し生じた煙を切り裂き現れたザドキエルが、逆手に所持したナイフをユイから見て左上段からアスタロトの胴体へと突き刺す軌道で振り下ろす。
「食らうかっ!」
ユイが振り下ろされるナイフに長剣をぶつけ防御すると、凄まじい衝撃が機体を襲い右腕部を黄色に染めた機体ステータスを知らせるウインドウが表示される。それを無視すると更に飛翔器の出力を上げ、左腕に保持した長剣をザドキエルへと突き立てようとする。しかしザドキエルが鍔迫り合いの状態にあるナイフを傾け、アスタロトの長剣を滑らせる。長剣は勢いのままザドキエルの左肩部に食い込み、互いを押し合う形になっていた両者の頭部が触れ合う距離まで縮まる。ザドキエルを突き刺さんと振り下ろされた左腕部の長剣は空を切り背中を浅く切りつける事しかできなかった。
「ぐぅっ!!」
不意を突かれたユイが機体のバランスを崩し、ザドキエルに押される形で猛烈な速度で高度が上がっていく。飛翔器の出力を上げ機体を立て直そうとしていると突如声が響く。
『これで終わりだ。あの時の借りを返させてもらう!!』
声の正体がザドキエルであることを認識すると視界内に警告ウインドウが表示される。ザドキエルが右手に保持したナイフを、振り下そうと構えていた。
(まずい!!)
そう思った瞬間ナイフが左腕部と胴体の接続箇所へと振り下ろされ、ユイの身体の同じ箇所にも激しい痛みが襲うが即座に痛覚抑制の機能が働き緩和される。
「このっ・・・・離せ!」
胴体に装備された機銃を連射する。
『なっ!?こいつ!』
機銃の連射で体表を削られたザドキエルが驚いた声をあげアスタロトを蹴り飛ばし、光翼を一瞬だけ輝かせ後退する。そのままザドキエルが何をするでもなく静止したまま声をあげる。
『効いていないのか!?・・・・くそっ貴様は―――』
言い終わるよりも前にザドキエルの左肩から胴体の中央に掛けてまでのラインが怪しげな光を放つと、ザドキエルが苦しみ始める。
『くそっ・・・・くそっ!覚えていろ!!』
光る線を抑えたザドキエルが迫る攻撃を切り払いながら光翼を輝かせ空の彼方へと消えていった。
「一体何が・・・・」
呆然としていると迎撃を掻い潜った敵集団が接近、射撃を始めていた。
「くそっ!・・・・フィオナさん、他の部隊員は!?」
攻撃を回避しながら粒子砲を装備し射撃を放ちながらオペレーターへと通信を試みるが、ノイズしか返ってこなかった。
(何がどうなってやがる!!)
直後に、ユイの目の前の空間が雷光を迸らせながら波紋を刻み始めた。
「・・・・?」
ユイが疑問に思い粒子砲を構えながら近づくと一際大きな雷光と波紋が鳴り響き、何も無かった筈の空間から左右の腕部ユニットが他の部位と比べても巨大な紺色の機神が出現した。
「なんだあの機神は?反応・・・・UNKNOWN?」
瞬間、紺色の機神が動きを見せた。両掌を大きく広げられた瞬間、紫電がアスタロトへと放たれた。
ライカが大剣を15メートル程の大きさの轟神種、ネフィリム型の胴体へと突き刺しそのままの勢いのまま右下段へと切り裂く。急ぎネフィリム型から離れると、渦を巻く白い球体を伴ってネフィリム型が消滅する。視線を横に向けると高速でジグザグに飛行するユカリが比較的小型の敵を一気に視界に収めた瞬間、右目が光り輝き視界内の敵が捻じ曲げられ消滅していく様子が見えた。
(あいつだけは敵に回したくねえな)
ユカリの魔眼の威力にそう思いつつ彼女に接近する。
「ユカリ、次はどこだ?通信が全く使えねえから状況が全く分からねえ・・・・」
尋ねられたユカリは周囲の様子を見つめながら考え込む。
「そうだね、一番近い場所で・・・・13遊撃隊の方面が押されてる。急ご―――」
言葉の途中でユカリが王城の方を見つめ呆然とする。
「おいユカリ、どうし・・・・た」
釣られるように王城の方を見つめたライカも同じく言葉の途中で固まってしまう。視線の先、王城の中心部にある塔の屋上から1本の巨大な白い光柱が屹立していた。突如今まで使用不能だった通信機能、戦術情報リンク等が復活しオペレーターの声が響く。
『司令部より全部隊へ!浮遊島王城キャメロットより、神格装具ロンゴミアントによる敵勢力の一掃が行われます!急ぎ退避して下さい!』
「おいおい、まじかよ!」
急ぎレーダーに表示される掃討範囲から抜け出す。周囲を見れば開戦時よりも大幅に数を減らした他の部隊も脱出を完了していた。すると地鳴りの音とエーテル粒子が奏でる甲高い音と共に光の塔が動き始める。光の塔の下端、そこには光を纏いもう柄しか見えない槍を天へと掲げているエリザベスがいた。
「黄昏の丘にて輝くは死せる魂の輝きーーー」
唱えた瞬間右腕に幾重にも青く輝く亀裂が走り痛みで浅く顔を歪める。見れば天高く屹立する白い光の塔が、青色に変化し螺旋を描き始めた。痛みをこらえながらエリザベスが槍をゆったりとした動きで振り下ろし唱える。
「死して拝せ・・・・ロンゴミアント!!!」瞬間、高速で螺旋を描く嵐と化した光の槍の蹂躙が始まった。
夜空を青く染めた螺旋の槍は無数に展開し侵攻していた敵集団を薙ぎ払った。キャメロットより発した光の槍は、王城から戦場までに至る10キロ以上もの距離を渡り、戦場の中央を貫いた。その嵐に伴う風に吸い込まれ切り刻まれる者、螺旋により生じた練り上げられ鞭の様にカーブを描く光に切り裂かれる者、過程は違えどその嵐は浮遊島を侵す敵対生物に区別なく死を与えていた。
「す、すげえ・・・・」
ライカがその輝く光に圧倒され見つめていると視界の隅にある1つの物が見えた。自分たちがいる左側のブロックとは真逆の右端のブロックそこにあったのは炎上する戦艦で、おそらくは最初の混戦時に撃沈された物が未だに残っていたのだろう。
(あの程度なら浮遊島の防衛戦力で破砕可能だろう、それにいざって時は島全体を覆う障壁もあるしな)
そう思い戦艦の成り行きを見つめていると、いつまでも砲撃なり障壁の展開が行われ無いことに気が付く。
(いや砲撃を行ってないわけじゃねえ、あれはまさか!)
望遠術式で見てみれば砲撃は行われていた、対艦船用の高出力砲ではなく、低出力の速射タイプで。左ブロックに位置する艦隊戦力も砲撃を行おうとはするもののロンゴミアントの風圧で流され砲撃をできずに、燃え盛る戦艦を見送ることしかできなかった。しかし船首が都市部へと侵入した瞬間、都市部を包み込む障壁が出現し衝突する。障壁に阻まれ大きく軌道を変えられた戦艦はその衝撃に耐え切れず一際大きな爆炎をあげ自壊。前後に割れた船体に幾多の爆発を生じさせながら眼下の砂塵の地へと落下していった。幾多の爆発の影響で障壁は、ノイズが走る様に明滅を繰り返した後にその形を維持できず消滅する。防ぎきった、と誰もが胸を撫で下ろした瞬間、ロンゴミアントの螺旋より生じた鞭のように撓る光があるものが切り裂いた。それは障壁により上空に跳ね上げられた戦艦の一部の大きさ6メートル程の装甲片だった。地上に落下する軌道を取っていた破片は光の鞭により軌道を変えられ、
「・・・・!?」
多くの人々の驚きを受けながらその軌道を浮遊島の中心部へと落下していった。
「落ちるぞ!!・・・・このままだと女王陛下に!!」
戦場に散らばる浮遊島所属の騎士兵達は王城の方向へと加速しようとする。だが、ロンゴミアントより生じた風圧により近づけずにいた。その中を風圧を全く感じさせずに疾走する1つの影があった。それはキャメロットに一目散に向かうライカだった。視線の先、キャメロットから出現していたロンゴミアントの光は消えている。
「くそっ、なんで誰も来ないんだ!?あいつは・・・・居た!」
望遠術式を用いて塔を拡大してみれば1つの塔の頂上に、槍を地に突き刺しそれに体重を預ける形で倒れ込み落下する破片を回避する様子は感じられなかった。
「おいまじかよ!!」
飛翔器の出力を上げエリザベスが立つ塔へと近づき、着地するとエリザベスを担ぎ上げ様と身体を抱いたその瞬間ライカの周囲の光が消えた。
「・・・・!?」
上を見上げてみれば既に破片がライカ達の上を塞ぎ、あと数秒で衝突するという所まで来ていた
「な―――!」
ライカの驚きの声と共に傍らに浮遊する大剣を自分とエリザベスの上に浮上させる動きと、ほぼ同時に燃え盛る破片が塔へと直撃した。
石材で建てられた塔を破片が塔に衝突し幾つもの亀裂と、瓦礫を生じさせた。しかし破片は落着時の勢いに比べ塔には被害が少なく、頂上とその下の階層の一部を破壊するに留まっていた。
「・・・・は?」
エリザベスを庇ったライカは、いつまで経っても衝撃が来ない事に気づくと視線を破片の方へと戻す。そして目の前の光景に言葉を失った。
「止まってる?」
自分たちを押しつぶす軌道を描いていた装甲片は頂上の床を砕き2人を下の部屋へと叩き落したらしい。そしてなによりも驚いたのが、破片がライカが衝突の直前に盾にした大剣を中心に広がる白い障壁によって止められていたのである。
「一体なにが・・・・」
ライカがエリザベスを地面に置き大剣へと近づくと、目の前に幾つかの手のひらよりも小さい光が目の前を横切った。目を凝らして見てみればそれは背中に羽を生やしたいわゆる精霊と呼ばれる物だった。精霊はライカに手招きをすると、破片を止める大剣の柄を握る動作をした後に思い切り振り下ろす動作をライカに見せる。
「剣を握って、この破片を斬れって事か?・・・・いやでもそんな事をしたら」
ライカが逡巡を見せると大剣の障壁に限界が生じ始めたのか亀裂が走り、徐々に破片がこちらへと傾き始める。
「・・・・!?」
精霊たちが障壁を驚いた表情で指さし始める。その間にも着々と破片はライカ達の方へと傾いていて、観念したかの様にライカが口を開く。
「ああもう!やればいいんだろ!!」
やけくそといった表情で柄に手をかける。瞬間、破片をせき止めていた白い光が刀身を包み込みその全容を変化させていく。新たに形成された剣は、その形を細いレイピアの様な刃と柄だけの形に変えライカの手に収まっていた。すると装備していた騎士兵専用鎧装が突如目の前に仮想枠を表示する。内容は新規武装の承認の是非を問う画面で見慣れた物で、
『新規武装の登録を確認.....』
表示された武装名は、
『疑似人基展開型神格装具:エクスカリバー:承認:是/非』
ライカが傍らに飛行する精霊を見ると、精霊は笑顔で頷きを返した。その笑顔に見覚えを感じながらも是を押す。直後、白の剣が爆発と見紛う光を放つとライカの右腕に数本の光の線が走り、直後に武装登録完了の旨を知らせる表示枠が表示される。
「っ!!・・・・なんだこの線は・・・・」すると辛うじて破片を留めていた光の残滓が消え、ライカ達が立つ床が破片の重みに耐えかね崩壊が始める。ライカは大きく息を吸うと、
「くそっ、悩んでる時間は無いか!」
白の剣を握る右手を後ろに構える。直後に、剣が風を切る様な音と猛烈な暴風を生じさせた。
「ぐがっ!!」
手の中で暴れる剣をなんとか抑えようと両手で握り占めるがそれでも勢いが収まらない。
「一体どうすりゃ―――」
言おうとしたその時、剣を持つ手に新しく手が添えられる。後ろに振り返り見てみればそこには、頬は上気し憔悴した様子のエリザベスがライカの傍らに立ち手を添えていた。
「この馬鹿者め・・・・抑えるのではなく流すように扱え・・・・これはそういう剣・・・・だ」
荒く息を吐きながらこちらに言うエリザベスに驚きつつも暴れる剣に意識を向ける。余計な力を抜き暴れ行き場を求める光を右腕に走る線に集める様に意識する。すると次第に剣は落ち着きを見せ始め、つい先ほどまで重さを感じていた剣から重さが消えていた。
「そうだ・・・・時間が無い。さっさと決めるぞ」
「ライカとエリザベスは揺れる部屋の中ただ破片を見つめ、
「「さっさと・・・・吹っ飛べ!!」」
白の剣を破片へと突き出した。
その時、塔の周囲にはロンゴミアントの風が止んだのを確認した救助部隊が様子を伺うように滞空していた。そして塔の上空、輸送艇が破片にアンカーを打ち込み持ち上げようとした瞬間破片が突如塔から突き抜けた光に吹き飛ばされ粒子状に分解された。光により生じた風にアンカーは断ち切られ飛空艇がバランスを崩す。
「なんだ!なにが起きた!?」
周囲の吹き飛ばされた部隊の中からどこからともなく声を発した。吹きすさぶ風が止むと破片があった場所に兵士が殺到する。
「「「エリザベス様!!」」」
兵士たちが覗き込んだ塔の空間には手を繋いだままのライカとエリザベスが床に倒れこみ寝息を上げながら寝ていた。エリザベスが生きていたことに救助部隊が歓喜の声をあげ、そして救助活動が始まった。
一方その頃浮遊島から少し離れた、残党狩りや救助活動で静かさを取り戻した空域で戦闘行動を行う2機の機神がいた。
「くそっ!!なんなんだあいつは!?」
紺色の機神に追われる形となったユイが後方へと銃撃を放ちながらなんとか敵機を引きはがそうと試みる。しかし紺色の機神は巧みに銃撃を交わすとアスタロトに向けて両手を開く。直後、機神の両掌から紫電が放たれアスタロトへと襲いかかる。
「くそっ!!」
機体をジグザグに動かしなんとか紫電を避けるが手に保持していた粒子砲に紫電が直撃する。その瞬間、粒子砲がまるで風に砂を流したかの様に分解され霧散した。
「なに!?」
ユイが粒子砲が消失したことに驚き戦闘機動が甘くなった瞬間、1筋の紫電が直撃のコースを描き襲来した。
「なに!?」
ユイが死を覚悟したその瞬間、紫電とアスタロトとの間に赤と白のカラーリングが施された細身の女性的なフォルムをした機神が割って入り、自らの掌を紫電にぶつける。紫電は赤の機神の掌の上で行き場を失ったかのように悶えやがて消失した。
「あれは・・・・識別コード、アイギス?」
紫電を防がれた紫の機神がアイギスを見つめ、驚いた様子を見せた瞬間横合いから巨大な刀が左腕部ユニットに直撃した。それは刀身の真ん中に空洞の楕円形の穴が空いている巨大な刀だったが、機神サイズでは標準サイズの武器よりも小さく切断には至らず装甲を割り食い込む程度で止まっていた。そしてその大刀の柄、術式の加護を受け大刀を振り落とした人間は見覚えのある女性だった。
「オ・・・・オルガマリー先生なのか?」
オリエント襲撃の時以来顔を合わせていなかったオルガマリーの全身には、鈍く暗黒に輝く線が縦横無尽に走りその顔は時折苦しそうに歪んでいた。
「奪い取れ、断ち蜘蛛」
オルガマリーが呟き刃を食い込ませた瞬間、紺色の機体の左腕部が跡形もなく突然に消滅した。
「―――――――!?!?!?」
紺色の機神が声に鳴らない唸り声をあげる。その隙を逃さずオルガマリーが胴体部を狙い大刀を横薙ぎに切りつけようした瞬間、紺色の機神が出現した時と同じような波紋を鳴らし消滅した。
「一体・・・・なんだったんだ?それに先生、なのか?」
ユイの声にオルガマリーが笑みを浮かべ振り向く。そしてその笑顔を向けられた瞬間ユイは言いようのない悪寒に襲われた。
その笑顔には見覚えがあった。嘗て自分が御門椿という女性に向けられた笑顔、自分が目を抉った時にユカリに向けた笑顔。それらの、これから死にゆく人間に向ける様な笑顔にそっくりだったから。
黄昏戦記 珊瑚丸 @tomukytto0805
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