第45話 灼熱のシンガポールで氷点下のジョーク

食事が終わり僕と梶本さんがコーヒー、はなさんが緑茶、清水が紅茶を飲んでいると突然、清水が椅子から立ち上がり、切り出した。


「さあ〜!皆さん御食事は、おわり名古屋な感じですね~!」


ヲイヲイ、次はなんですか?次あまりハシャギまくるとホテルから追い出されますよ?はなさんが顔を真っ赤にして、清水を睨みつけている…梶本さんは普段大きめな目がまんまるになって、口が少し2センチ位半開きになっております。


「元気ですか~!!元気があれば何でもできる!!」

 僕達の傍にいたセレブの宿泊客が、清水に注目しまた失笑が起こる。

 

 しかも、全力で滑ってるし…ああ、寒いジョークだから冷えて床がツルツルになってるのかな?

切り出しに滑るのってキツクないですか?


それに何それ?めっちゃ下あご出してるけど、誰かのマネなの?なんかのエモい系のお笑い?寒すぎて冷房いらなくなっちゃうよ。


 雰囲気が程よく凍りついた事を認識したのか、ゴホンと咳払いをひとつして、清水は話し始める。

「今日はまず、どのようにして白石を探すかを決めるかだけど、昨夜この件に関して考えました。」


全員が固唾を呑んで、清水君の話にいつの間にか飲み込まれるように聞き入っている。こいつが詐欺師だったら100%だまされるね。


「どうでしょう、このシンガポールって狭そうに見えるけど、東京都23区とほぼ同じ面積なので一人の人間を探すのは結構広いです。そこでこの4人を2組のチームに分け、世界企業白石製薬グル-プの傘下に入っていないまたは関係があまりない、もっと言うとライバルの日系高級ホテルや日系施設から探し始めるというのはどうでしょう?」


「おお~」

 僕が驚きの声をあげる。しかしそ-きたかあ、その発想は無かったわぁ。


 そういう引き算的な計算を瞬時にできるところが、なんか高1とはとても思えない。老獪さというか狡猾というか......敵に回したくないわあ。

「なるほどねぇ、いつもながらゲス海はこういうひねくれた発想だけは天下一品だね~」


その時玲奈が少しだけ驚きの表情をしながら問いかけた。

「流石だね、清水君このアイデアを考え出すのにかかった時間は?」



「えっ、実は昨夜シャワー浴びてた時かな。10分くらいだね。ちょっと疲れてて眠かったからそんなに時間使えなかったよ」


 僕は驚嘆の声をまた発した。普段の爽やかさに加えて本気だすと、すぐこれくらいの腹黒プランを簡単に出しちゃうすごい奴。そういうすごいヤツだよ清水さん!服装と冗談のセンスは無いけどね!


「彼女にあったことあるっけ?」

 はなさんが続ける。


「いやないんだよね、だから事前に佐藤先生経由でいくつか彼女に関するデ-タを貰ってきた。その上で足りないものは自分で集めてみた」


 清水君が持参したアイパッドやファイルを開く。そこには、彼女の生い立ち今までの学歴、病歴、趣味、食事の嗜好、好きな音楽等々事細かく記載されていた。


 そして、写真も子供時代から現在までのものが取り込まれていた。また、白石製薬グループ以外のセレブが行きそうな場所のリストも用意されていた。


「すごいね、まるでスパイみたいだね~清水君」

梶本が関心している。


 いやっ本当、こいつ本業でスパイなんだよ多分。僕のこともどう調べたのかよく知っているし。大学出たら、CIAに行くのかね?


 皆で資料を調べていくとその中で僕は1枚の写真に目が留まった。恐らく幼稚園くらいの時の子供の頃の白石さんの写真だ。


 あどけない表情の中に素直な笑顔があった。それは嘘偽りの無い100%の笑顔。これはどこで撮られたのだろうか?どこか外国の草原の中でレンジャ-の人と家族で写っている。キリンや象を背景にした雄大な景色の中で無邪気に笑う白石。


「気になるのかい?」

「うん、他の写真と比べてこの写真の白石さんの表情は本当だなって。他の同級生との写真や、恐らくセレブの人と一緒の写真は作り笑顔だよ」

 

「そこは、ケニアにある国立公園の一角を写したものだね。因みにこの写真は、彼女が有名私立小学校へ入学する直前にお受験合格のプレゼントとして行ったそうだよ」

清水君はさも自分がそこにいるかのように説明した。


「プレゼントって言うことは、彼女は動物が好きって事だね」

「そうらしいね」

「清水君」

「何?」

「君はいろんな外国にいた事があるんだろうね」


「いや、ネットとかの知識だよ」

 どうして嘘をつくんだろう?しかもわざと僕に分かるような感じで。


 僕は話の雰囲気を変えるため他の話題を降ってみた。

「ところでさ、さっき言ってたグループ分けだけどどうする?」


「まあ、それも考えたんだけどね。松君どうやら君は広東語がいけるみたいだね」


「あっそうだね、うん。実は親父のところの建設会社で、外国からの出稼ぎみたいな人がいてさ、その人が親切で仲良くなって教わったんだ。ほんの少しだけどね」


「そうか、俺は少し英語ができるから......どうだろう語学ができるほうが女子の一方と組むというのは?」

 はなさんがその言葉に続ける。

「そうだね、正直私は英語苦手だし玲奈もそうだったよね?いくら翻訳AIアプリとかあっても語学できる人と組んだほうがいいよね」

「まあ......そうだね」


「そこで俺と梶本さん、松川君と田中との組み合わせはどうだろう?」


 その時梶本さんは持っていたティーカップをやや荒くテーブルに置き、立ち上がりながら少しだけ声を大きくして言った。うわあ、生徒会室で防災ヘルメット被って叫んだ時と同じ表情だ......


「どうしてその組み合わせなのかなあ?私とコーキのペアでもいいと思うけど?理由が分からないんだけどなあ!」


「理由はある。松君は究極の方向音痴だ。かといって僕と組めば語学ができるもの同志で偏る。そして悪いけど梶本さんあなたもそうだったよね。方向音痴の松君と君を組み合わせたらどうなるか、シンガポールで迷子だなんて人探しどころじゃなくなるよ」


「そっそうだね、私外国語だめだけど地理は得意だし、地図見るのも比較的得意かも」

 とはなさんが言う。

「俺は前シンガポールに短期間いたことあるから、そこそこ土地勘ある。だからこの組み合わせがベストだと思うんだ」


「うう~しょうがないかぁ」

 梶本さんは本当に残念な表情で、少し可愛そうな気もするがごめん、でも今回はそういうことで香港に来てるんじゃないんだよ。


「じゃあ、食事が終わったら各自一旦部屋に戻りその後、一階のロビーに1時間後に集合でいいかな?」


 そう決めると各自の部屋に戻っていった。

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