第42話 シンガポールに到着したけど、蒸し暑くてダルすぎ。

 成田空港に到着し目に入った光景、それは、日本人は言うに及ばず、白人、黒人、他のアジア系と思われる人たちがそこかしこと行き交う、人種のるつぼ、民族の交差点だった。僕は既に外国いるような感覚を覚えていた。まあ初めて空港に来たからかもしれないけど。


 しかしその感傷は、清水が外国人に対して アロハシャツ姿でメロン熊の帽子をかぶり写真撮影に応じているのを見て、直ぐに吹っ飛んだ。


「ちょっと......清水君と距離とってもいいかな?」

「私もそーしよーっと、ゲス海と同じ括りにされるの嫌だから」

 

 ああ、僕と同感なんですね。


 梶本さんが超小声で田中さんに話しかけているのが聞こえてくる。


「え~清水君ってひょっとして、ちょっとずれている人なの?はなあ」

「いや~何というか、普段着はあんなの着ないと思うんだけど、少なくとも海外はいつもああなんだよね。私も何度も止めるように言ったんだけど......もう成田ではちょっとした有名人なんだよ~恥ずかしい。ちなみに、あの写真撮ってる前にあるお土産物屋さんには、ゲス海の変な恰好の写真が沢山飾ってあるよ......早く搭乗手続きすませたいな~」


 梶本さんがさらに小声でつぶやく。

「うわードン引きだあ......やっぱりコーキに乗り換えて大正解だったな」


「えっ?何か言った?玲奈?」

「ううん、何でもない!何でもな~い!」


 そうこうするうちにチェックインが始まりその後は幸運の連続だった。


 飛行機のエコノミーがダブルブッキングの為ビジネスクラスに無料で変更だった、しかもビジネスクラスの席は殆ど人がいなかった。広いシートに座って僕たちは豪華な食事を堪能した。清水は赤ワインを注文しようと試みていたが失敗していた。


 食事が済んだ後はすることもなく、映画を1本見た後寝不足もあって、いつの間にか眠ってしまった。


 夢を見ていた。


 誰かと......追いかけっこをしていた。どこでだろう?うん?ああ図書室だ。相手はああ、あの子だ。赤いチェックの同じ図書委員の子。あれえ今夏だから長袖なんて変だな。


「こうくん、捕まえた!」

「わかったよ、負けだよ!あの、離して」

「ええ~どうしてえ~?」

「どうしても!」

「ええ~面白いね~こうくん!」


 ああ、彼女の名前があとちょっとで思い出せる、確かシャーロなんとか---とその時誰かに揺り起こされた。

「松君!起きてよ!」

「うわっ!!」

 清水のアロハドアップの状態に映像が変化し、子供時代の甘い感傷映像はどこかに吹っ飛んでしまった。


「ううう~清水君、やっぱりそのイケメン顔に冗談みたいなシャツはちょっと……」


「うん?何を言ってるんだ、ほらシンガポールにもうすぐ着くよ」

「もう着くの?さっき寝たと思ったんだけど...」


 その目の前に広がった景色に息を飲む。


「うわ~!!すごいなあ」


飛行機が旋回した時、シンガポールの近代的な高層ビル群がキラキラ輝く星のように夜景の中、目に飛び込んできた。


「わあ~綺麗だね」

 田中さんが息を飲む、僕も同感だ。但し清水君は僕に見ろと言っておきながら大して感動もしていない様だった。梶本さんもシンガポールは初めてだったが、海外旅行は毎年行っているらしく落ち着き払っていた。


「まあ、どうこもこんな感じじゃない?よくある東南アジアって感じね」


 シンガポール、チャンギ国際空港に到着すると、白石さんのご両親が予め手配してくれていた大型リムジンが止まっていた。


なっなんだこれは...

豪華なリムジンは30人くらいが乗り込めるような大きな車だった。


「さっすがねえ~白石製薬も。ウチのリムジンよりも大きの使ってるんだね、まあうちみたいな新興企業にはここまではマネできないわねえ」


玲奈の顔の眉間に数本の皺がよっているのが分かる。まっまあ、嫉妬しているのは、顔を読まなくてもわかるってか。


 空港に豪華なリムジンが到着していたので、有名人か何か来たと勘違いした旅行客が、写真を撮っていた。


 但し、そこに乗り込んだのはどうみても中学生みたいな感じだが、ちびっこい体格を高級ブランドで身を包んだ子供っぽい人1名、ごくごく普通のメガネをかけた男子1名、身長が高くイケメンだが変な色のアロハシャツ1名、普通の女子1名。こんなのがリムジンに乗り込んだので注目されない訳がなく、ギャラリーは減ることはなく増えるばかりだった。


 空港から出るとシンガポールの中心部までしばらく高速道路を走り、その後高速を降り、しばらくすると高層ビルが整然と林立するオフィス街に入ってきた。


 高層ビルは東京とあまり変わらない感じがしたけど、宿泊先のホテルがあるチャイナタウンにリムジンが差し掛かると、漢字だらけの看板が目立つようになってきた。


「うわーなんか、日本と全然ちがうな~面白い!日本の吉野屋とかもある、それにKFCとか日本と同じだな。でも全部漢字で書かれてる。」


 


「そうだね~漢字が沢山書いてあって中国みたいな感じがするよね~なんだか面白いね~」

 田中さんが目を輝かせながら僕に合わせてくれる。


「シンガポールも華人の国だから、実質中国出身の人が影響力強いってパパが言ってた」

梶本さんが大して驚くこともなく、景色を見ながらうわまぶたを3mm位細めて、冷淡にそう言った。


なっなんか、玲奈の言い方が、一瞬経営者っぽくて驚いた。セレブの経営者ってみんなこんな感じなんですかね?


 その後チャイナタウンの中心部にある、まるでイギリスの宮殿ようなホテルの前にリムジンは止められた。


「うわあ~なんだここは...言葉にならない....」

「ホントだね...ゲス海といろいろ海外に行かされたけど、ここは一番良いホテルかもしれない...ううセレブには叶わないなあ」


田中さんにまったく同感だな。スケールが違いすぎていまだに現実感がわかない。

玲奈はこんな環境で毎日を過ごしているんだな...


「さあ、今日からは、このダクストン リザーブ シンガポール に白石さんが見つかるまで滞在だ、何か質問はある?」


「ああ~疲れたあ!喉が渇いたあ!清水君ルームサービスで冷たいのとか頼んでもいいのかな?」


「いいとも、白石のご両親がすべて支払をしてくれるので、常識の範囲内でなんでもオーダーはOKだよ」


「やったーアランミリア頼んじゃお!」


アランミリア?何言ってるのかさっぱり分からないや....


「じゃあ今日はもう遅いから、それぞれの部屋に戻って休もうか。明日以降の予定は明日朝食の時に話し合うってことで良いかな?」


 そう清水が言うと、みんなそれぞれの部屋へ入って行った。僕は南国のムっとくる湿気と、東京とはちょっと質の違う行き交う人混み、雑踏の忙しさを目の当たりにして圧倒されてしまい、それに外国にきたドキドキ感も重なりどっと疲れが出てしまった。


 だけどその疲れは自分の部屋に入ると一瞬でどこかへ飛んでしまった。


シャンデリアって、ホテルの個室にもあるものなんだ......


 この部屋の豪華かさ......何これ?別荘?芸能人?シングルってこんなに広かったっけ? なんか高そうな調度品が沢山置いてあるな。下手に触って壊したら一大事だ。なんにも使わないでおきましょうね~ただ、シャワーは浴びさせてもらいますけど


 

 前ホテルに泊まった時の事を思い出す。確か親父の出張先の新潟に忘れ物届けた後、帰りの電車の切符取れなくて仕方なく泊った駅前の古いビジネスホテルだったっけ。


 まさに雲泥の差ってやつだね。


 今回の滞在中の宿泊先を含めすべての費用は、白石のご両親が負担することになっていた。だから二次活動費用も節約でき、会計の田中さんは喜んでいたのだが。うーん大企業ってすごいね。大学出れたら白石製薬に入りたいな。そんな事を考えながらふと壁に掛けてある時計を見ると10時を指していた。


 あっもうこんな時間か、明日に備えて早めに寝ないとな。と言っても明日からシンガポールのどこ探すのか謎だけど......まあ今はとりあえず~バスタブが王侯貴族みたいに広いからお風呂にでもゆっくり入っちゃおうかなあ。まるでラノベの王様みたいだ~るる~ん! 


 そう思いかけた時僕のスマホにいくつかメッセージが入ってきた。


まず初めは...チッ関口かあ...


 関口には生徒会の国際交流の集まりに出席していると伝えていたので、恐らくお土産の要望だろう。やはりお土産かあ...うん?


”シンガポールと言えば!お土産は焼き肉味のチョコ一択!!これっしょ!あざ~す!”


若干このラインの書き方がムカつくが、フフン!まあいい...長い付き合いだ、何か全く違う"良いモノを進ぜよう" 


 そして残りのメッセージ二つを見る...不味い!!どうしよう......僕は内線で清水に連絡し部屋から出ると隣の清水の部屋に駆け込んだ。

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