第41話 朝6時00分 JR南越谷駅集合 朝から福ヤ でこってり食べたいけどそれは無理

 眠い......早朝の南越谷の駅へ向かう道、旅行カバンを括り付けたバイクを漕いでいると一瞬睡魔が襲う。これではまずいと思い、バイクを道端に止め、顔を左右に強く振り目に留まった自販機でコーヒーを買い飲み干す。


うっ無糖ブラックだった...甘すぎるのも辛いけど、全くの無糖も飲みにくいね。


 ふう~実は夜は一睡もできなかった。


海外旅行なんて初めてのことだったから、ベッドに入った後もいろいろ考えて碌に眠れなかった。まあ、いとこのちひろが『わたしもシンガポールに行ってブランドバッグ買いたい~!!』ってギャンギャン騒いで、ようやく収まったのが午前2時過ぎだったってのもあるんだけどね...あ~疲れたなぁ...あいつはなんとか関口に面倒をみさせよ~っと。


 今日は生徒会のメンバーのそれぞれの住んでいる所から逆算してJR南越谷駅の前で落ち合うことになっていた。僕は人探しに行くという本来の目的を一瞬忘れてしまいそうなワクワク感が抑えられなかった。


 駅に着くと僕が一番だと思っていたが、そこには既に田中さんが待っていた。田中さんは僕を見つけるとやや大きめな旅行カバンを持ちながら早足で近づいて来た。


 田中さんはグレーの半袖に黒のボトムス、つばが小さめの麦わら帽子をかぶって、少し薄めの青いサングラスを掛けていて少しだけ大人っぽく見えた。


「あっ松君おはよう!早いね」

「おはよう、田中さんも早いね。でもびっくりしたな、てっきり自分が一番だと思ったから」

「いや~今まで何回かこういうのあったけど、今度の件はさあ......なんか前の晩寝れなかったんだよね......だからいつもの『にじかつ』の海外活動の時よりも、すっごく早く集合場所に来ちゃった!エヘヘ」


 朝日に照らされた、田中さんの白く透き通った顔は、着ている服の色も相まって一層その白さを引き立てていた。


 そして、その白い顔は少しだけ頬が赤くなっていて、見ている僕まで気持ちが暖かくなってくるようだった。でもその一方で心配事が頭をもたげて来る......


 一体全体この『にじかつ』で何回くらいこんな事してるんだろう、う~ん......清水のあの爽やか笑顔を思い浮かべると、嫌なイメージしか出てこない。


「あっそうそう清水から連絡あってあいつ知っての通り春日部市に住んでるから、電車で落ち合おうだって」


「そうなんだ、あれ?そういえば梶本さんは?」


「玲奈?ああ~実はね......玲奈はすごい朝が苦手なんだよね。前も言ったと思うけど、起こすの一苦労だから迎えにいったげようかって言ったらさ...そんな恥ずかしい事しなくていい!だって......大丈夫かな?ちょっとラインしてみるね」


 20分後

「う~ん既読にならないな。この様子だと清水の乗っている電車に乗れないから、あいつにも降りてきてもらおうか」

「そうだね......」


 しばらくするとあいつが超ど派手なシャツ来て手を振りながら駅の方から近づいてきた。


 あれはなんだろう?アロハシャツ?


 なんか赤だか黄色だかの派手な色使いの着てるよ......それにあの仕草は......顔の顎の部分がいつもより3度くらい上がっている......僕の経験則からすると、人は相手にマウントする時とか、自分の優位性を示す時、自慢したい時とかに、無意識に少しでも自分の存在を目立たせようとして、顔を上に向け気味にしたりする。まさにその典型例!


まさか、あんなヘンテコなシャツを褒めて欲しいの?


「あの~清水さん?」


「うん?何?」

「今回の目的地はシンガポールですよ!シンガポール!ハワイじゃありませんから!」

「う~ん、でもやっぱり旅と言えばハワイ、気持ちはいつもハワイ!」

「えっ?」

 この人ってこんなモードの人だっけ......ちょっといつもと違う意味で怖い。

なーんか、この人の”旅"っていうワードが、"観光"っていう意味に聞こえてしょーがないんだけど...


 僕がかなり引いているのを見ると田中さんが、後ろからやや小声だけど、清水君に聞えるように囁いてきた。

「変でしょう~2次活動で海外行く時いつもあの格好なんだよ、しかも色違いのアロハを毎日、だから恥ずかしくて......今回は4人だけど今までは2人だったから恥ずかしさも100倍だよ」


清水君はそんなのどこ拭く風でご機嫌だ。馬耳東風ってやつですかね。

 

「えっいつもって、どこの国でも?寒い所でも?」


「まあ、寒いところは流石に......アロハの長袖」


「長袖!!あろはの?へっ?ええええええ!!!」

 う~~ん清水君、お前って奴は、関口の変さなんか目じゃないな真の変人だね。


「いやあ、松君そんな羨望の眼差しを向けられても困るなあハハハハハ!」


「羨ましがってなんかいないよ!」


 40分後

「う~ん、玲奈から返信こないな、既読にもならない~爆睡しているのかも」

「ちょっと電話掛けてみる?」


「あっそれは止めたほうが良いよ、彼女電話で話す時すっごい不機嫌だから。どうしてか分からないけど、怖いの!」


「そうなの?ふ~ん」

 20分後


「いや~いくらなんでもこれは無いでしょう」

「もうしょうがないから置いていくか、玲奈には悪いけど」

と田中さんが言った時、黒塗りのベントレーリムジンが猛スピードで駅のロータリーに入って来た。


「あっ来た来た、ようやくこれたか~」


 3人の前でリムジンが急停車すると、梶本さんはあたふたと降り立った。リムジンの中に車の中で着替えたのか衣類が散乱していたのが少し見えた。僕は服の事が良く分らないけど、朝の日の光に照らされ梶本さんが身につけている相当高そうな水色のブラウスと白のスカートがとてもよく映えていた。


彼女はすばやくドアを閉めると、

「早く行って!」

 と運転手に怒鳴り、驚いた運転手は急発進で走り去った。


「ごめん~朝弱い上に、夕べは経団連のパーティにパパに連れてかれて家に帰ったの3時過ぎだったの」


 そうかあ、梶本さんお父さんとお出かけまでする仲に戻ったんだね、良かったなあ。


「そうかあ~まあ、それなら仕方ないねじゃあ行こうか!」


 改札を通りちょうどプラットホームに到着した電車に乗り込む。途中電車を東松戸駅で京成アクセス特急へ乗り換え1時間程度で電車は成田空港へ到着した。

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