第40話 あ~怖すぎ

こんな展開普通ラブコメなら面白いんだろうけどリアルだとちっとも良くないよ、清水いつも通り話しをそらしてくれと目で訴える。


「よし、それじゃ田中チケット頼むよ」



 田中さんは、むっとした表情で口元を少しだけ歪ませて下を向いてしまっている。


「田中!!」

田中さんは、清水君にやや強めに声を掛けられはっと我に帰ったようだった。

「わ、分かったよそれじゃ三人分シンガポール予約するよ。日程はどうするの?」


「そうだな…現地に行く前に会いたい人物がいるから、その後になるから…今週末でいいよ」

「オッケー」


 えっそれは何かがオカシイ。

「あのう」

 と言った言葉が、梶本と重なる但しその後異なっていた。


 僕はつぶやくように言う。

「パスポート無いけど」


 梶本さんは選手宣誓のように力強く言った。

「私も行きたい!!」


「松君のパスポートは問題無い。もう申請してあるから明日午後にタクシーで取りにいってもらう」

「えっいつの間に!」

 あっでも先月何かサインしてくれって言われて良く確認しないで何かにサインしたかも、気づかなかった......相変わらず怖いよ清水さん、親のサインどうしたの?


「梶本さんは申し訳無いけど、今回は生徒会活動の一環だから予算が降りないよ」


「えーそんなあ~あたしこんなに努力したのに」


 梶本さんは、思っいきり悲しい表情を作り本当に悲しさを滲ませ目を潤ませた。うはぁ、ヤバっ! こんな目を潤ませて、潤い成分配合のリップ塗って、何かお願いされたら恐らく関口みたいな平均的な男子高校生は、ほぼ間違いなく昇天し、言いなり。


 そして次の瞬間突、突如梶本さんはその表情を事務的なものに変えすっくとたち上がった。

「佐藤先生と井上理事長に会ってくる!抗議する!初志貫徹!」

そう言うと直ぐに生徒会室の片隅に置いてあった防災ヘルメットをかぶり、拡声器で叫んだ。


キィーーーーーーン

「我々は、断固要求する!」

 梶本さんの声がこだまする。


 うわ!すげ~なおい!我々はって......一人だよね?


「いゃーそれは困るんだけれどね」

 清水君がやさしく諭す。

「だって!私だってここまで関わって来たのに、今までだって4月から情報提供してるのにいきなり外野扱いなんて酷すぎないですか?」

 うーん早口で清水君をやり込めてるよ。清水君がこんなに焦りの表情を見せるの初めてだな。喉仏が何度も動いてるぞ、唾飲み込みまくってるね〜これはこれで面白いかも。


やがて清水君は根負けしたのか

「分かった、確かに今までの梶本さんの情報提供者としての活躍は評価されるべきだ、佐藤先生には何とか言ってあげるから」

と半ば諦めるように言った。


「えー!嬉しいやった!じゃ私の分も予約よろしくね、はなあ~」

田中さんはしらけた表情で眉毛を極端に寄せながらハイハイと手をヒラヒラさせ、早く出ていけの態度ありありの感じになった。ああ、あの感じじゃあ後で清水君の裁判かなあ。



「コーキ私帰るけど」

「あっそう、お疲れ様明日またね、僕はもう少し残って仕事手伝うから」

えっ自分で明日とか言っちゃてるよ!もう殆ど条件反射だね。

「そーじゃ無いでしょ! もう……言わせないでよ」

ああ、いくら鈍感な僕でも分かる。さり気なく駅まで一緒に帰ろうかって、清水君が得意な範疇の感じで言って欲しいのね。でもそれは僕は規格外なのでいえな〜い、でも言わないとあとが怖〜い!ああどんどん間が持たなくなってくる!

 

そんな空気を充分楽しんだか、清水君が助け舟を出してくれた。


「いいよ今日はもう話し合うことも無いから解散で。詳細は追って知らせるから」

「嫌でも残務」

いや正確には未練と言うか!


「ほら清水君もああ言ってるから良いでしょう!私数学で分からないところあるんだ、コーキ帰る途中教えてよ」

「ああちょっと押さないで、分かったよお。じゃあまた明日ね田中さん清水君」

「じゃねぇ~」  


 生徒会室のドアが閉められ二人の声がドア越しに遠ざかっている。


「梶本さん、ちょっと近いから」

「ええ~?まあ、そんな細かいことはどうでもいいんですよ!ねっ駅前のタピオカ屋さん新作出したんだよね、前から気になってさあ〜一緒に食べようね」

「いや、あのう、聞いてます?そういう問題じゃないんだけどって言うか数学の件はどうなったの」

「聞こえないもーん」

「はあ、まったく…」


 うつむいた田中の表情からすっかり気力が無くなってしまったのを再確認すると清水はほんの少しだけ哀れむような表情を作り、田中を見ていた。


 しっかし梶本の押しの強さは凄いね。それに引き換え……


 なんでこんなに自分を抑えてしまうんだろう?こいつは。田中ももう少し梶本みたいに図々しさがあればいいんだかな。ふふふよ~し、シンガポールに行ったら少しサポートしなきゃな。


「清水あたしダメだ。全然近づけないよ」

「大丈夫、策はあるから」

「本当?」

「ああ、まあ私こういう事得意ですから!全力でバックアップしますヨ!」

「うう、その言い方がちょっとひっかかるけど、しょうがないよね、はあ」

「そのため息は、お褒めの言葉と受け取っておこう」

 とは言えうまくいくかは神のみぞ知るだな。

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