第37話 ミュートっぽく修羅場らしいです

 梶本さんが持ってきたUSBフラッシュメモリーがPCの中に差し込まれると、二人の女子の会話が聞えてきた。


「でもさあ、菜月やっぱちょっと不味くない?」

「いいよあんな奴...だって今月だけで浮気3度目だよ!3度目!おまけに中学からの私の親友とも浮気して悔しい~!!ああ~どーしてあんな奴好きになったんだろ!」

「でも...好きなんでしょ?」

「うん...だから別れたくないんだけど...」


「それでこれからどうするの?」

「あいつが本当に反省するまで、身を隠す事にしたんだ。思い切り心配させて、心から反省して二度と浮気しないと誓うまで、心配させるつもり。」


「ええ~それ...大丈夫なの?親だって心配するでしょう?もし親が警察とかに頼んだらどうするの~?めっちゃまずいじゃん!」

「ふん!うちの親はその点は大丈夫!体裁とか、白石家の家名とかを重視するから私の事が大事にならないように考えてるんだと思うから、警察には捜索願とかは出さないと思うよ」


「へえ~菜月すごいじゃん!親の動きを私はそこまで読めないな~」


「取り敢えず私人混みとか大嫌いだから、それに暑くるしいところも。そうじゃないところにしばらくいる、今もオープンテラスのカフェで寛いでいるところ~」

「えっそれって北海道にでもいるの?」

「まさか、国内じゃすぐ連れ戻されちゃうから。あっまず!スコールが降ってきた!また連絡するねバイバイ」

「あっちょっと待って」

 そこまでで、録音は終わっていた。


「うーん自分で持ってきて言うのもなんだけど、ちょっとこれじゃ分からないよね」


田中さんも頷きながら残念そうに言う。

「うん玲奈には頑張ってもらったけど私にもなにも分からないな」


 僕は録音の中で何かひっかかるところがあった。

「ごめんもう一度聞かせてもらえる?」

 そう僕が言うと清水は仕手やったりの顔をして再生ボタンをおす。


会話の最後の部分をダンボの耳になるくらいに120%集中して聞き直して聞こえてきたのは...


「まさか、国内じゃすぐ連れ戻されちゃうから。あっまず!スコールが降ってきた!また連絡するねバイバイ」


.........レイホウマ........

「あっちょっと待って......」



 会話の最後を集中して聞き直して、ある事を確信する。そして念のためスマホであることを確認する。やっぱり!あることを確信する。


「あの、多分僕どこにいるか、だいたい分かったかも。恐らくだけど」

 田中さんと梶本さんは、びっくりして驚いている。

 

 清水君はその冷静だが、僕がまるで気付くであろう事を予想していたかの様に笑みを作りながら問いかけるように聞いてきた。


 「君も気づいたかい?あの二人の会話の背後で聞えたのは何だろう、中国語?」


「いや違う、あれは広東語だよ。中国南部の方言だよ。それと、彼女は人混みや暑くるしい場所は嫌いだと言ったけれど、あの口調は本当の感じがしない。恐らくブラフだと思う。」

 

「何故そう思うんだい?」

「白石さんって結構マイクに口を近づけて話す癖があるんだろうね、だから、彼女が話している部分だけ、口元がマイクに近すぎて全体的に声が音割れしているんだ。でも......」


「でも?」

田中さんと梶本さんが身を乗り出すように聞き入る。


「人混みや暑苦しいところは嫌いだと言った部分だけ」


僕は今度は自分で、巻き戻して再度その部分を再生する。

 

「あっ!」

「ウソ!」



二人共啞然とした表情をしてる。

清水君の表情を凝視する。目元、口元、微動だにしない。ただそこにあるのは、100%の造った微笑み。


相変わらず、こいつの表情は読めないなあ~でも、多分こいつの事だから最初から分かってたんだろうなあ〜


「ねっその部分だけ声が音割れしてないんだ、自信なく言ったから無意識にうつむいて話してマイクから距離ができたんだと思う。だから逆に彼女はかなり混雑して密集しているしかもかなり気候が暖かい場所にいると思う」


今度はその場にいた全員が全て納得した表情をしている。

 清水君は僕の言葉にまるで名探偵が助手の出した推理を補足するように続ける。

「そうすると広東語が話されて、混雑した蒸し暑い場所か。成る程......彼女が今いる可能性があるのは、香港かマカオ辺りか」


「いや、それは無いと思うよ」


「ほう...となるとどの国だい?」

「シンガポールだよ」


そういうと、清水君はハッとした表情を浮かべ、スマホで何かを調べその後、納得した表情に変化した。


「そうか......全く松君は凄いな!スコールか、確かにこの録音がされた時間帯の広東語が良く話される地域の内、スコールがあったのはシンガポールだけだ...」

 

 僕は頷いた。そしてその直後梶本さんが僕にその大きな目を一層大きく見開きながら少しだけ目尻をさげ、体を少しだけ揺らしながら僕の両肩を掴んで力強く聞いてきた。えっ?体を前後に揺らしながらのこの表情は強い喜び......僕なんか喜ばせる事いったかな?

 

「めっちゃすごい!さっすが、私のコーキだ!やっるぅ!」


 えっ?いや梶本さん今どさくさに紛れて何かすごい発言してませんか?心の中で呟く。


 田中さんはどんな顔しているかな、恐る恐る見る......嗚呼いゃー梶本さん、あなた今すごい睨まれてますよ、しかも僕と交互に ! あああ、そんな綺麗な青い瞳を一杯充血させないで!

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