第36話 田中さんも精神力強いよね!

 実はあの例の件以降、成り行き上梶本さんとラインを交換したんだけれども、ちょくちょくラインにメッセージ入れてきてその返信に困っている。


でもこの事をもし清水に相談したら田中さんをおちょくる材料に400%の確率で使われそうで正直言って怖い。あと…もしラインの事話すと例の件が知られてしまいそうで怖い。うーん。


 そんな事考えてボーっとしていると、田中さんは何か勘付いたらしい。


じぃーと僕の顔を大きくて少し潤みがちな瞳で見上げ、やや近づきながら不思議そうな表情で訊いて来た。少しづつ心拍数が上がっていくのが良く分かる。


「松くん?」

「えっなっ何?」

 僕はしどろもどろに答える。田中さんの言い方迫力あるなあ。


「どしたの?」

「い、いやっごめん、ちょっとボーっとしていた」

 更にじぃーと見つめながら田中さんはライムっぽいシャンプーを使っている事が分るまで近づいてきた!はあ~頭に血が上る......困るなあ。


「松くん、何考えてたのかな?」

 大きなライトブルーの瞳で、まるで心をトレースされていそうな気がする...緊張するな~

「いや本当にボーっとしてた。ごめん夏バテかな、ハハハなんか最近疲れ易くてさ」


そう言うと、田中さんは急に寂しそうな表情になった。

「ごめん、松くんそう言えばここにきた初日から二次活動に参加していたよね。それなのに私は」


 いゃー疲れる理由はそこから派生したところなんだけね、メインでと心のなかで呟く。

 清水君がそんな僕の気持ちの機微を察して、少しだけ微笑しながら続けた。

いや、こいつの場合は、多分知っているな僕に何があったか...


「さあ本題に進みます、良いかな皆さん。田中は少し知ってると思うけど、今回の二次活動の対象は白石菜月1年B組。彼女はもうかなり依然から不登校の状態です。もっと正確に言うと自宅から出て行ってしまい所在不明です。僕達の2次活動の目的は彼女の所在を確認次第、説得、自宅へのエスコートです」


「えっ?そんなのどこにいるかも分からないのに、どうやって探したらいいか分かるわけないじゃんか」

 

「その通りなんだよ、松くん。現状何も手掛かりがないから難しい状況なのかは分っている。だけどこのままだと彼女出席日数が足りなくなって最悪退学という形になってしまう。だから何とかしたいんだよね」


「それは大変だね、でもそんなに深刻ならいっそのこと警察とか探偵とかに頼んだほうが良くないかな?」

「うーんそうもなかなかいかないんだよね。なんせ白石菜月は白石安次郎、白石製薬グループ会長の孫なんだよね」


「白石製薬?ああ......テレビのCMで見た事ある」


「白石製薬、国内最大手の製薬会社の孫娘が逃避癖があるなんて公になったらいいマスコミの餌になってしまう。かといって学校が表だって調べることも限界があってね。表向きは病気療養中て事になってる」


「そうかあ、でもなにも情報がないとこっちも動けないよね」

「そう、だからこの件でいま梶本さんにも情報を探ってもらっているんだ......あっ彼女から今ラインが入ったぞ。梶本さんから少し情報が見つかったからこっちに来るって」


「えっ!く、来るの?」

「えっ松くん何か都合でも悪いの?」


「いや、そんな事無いよただ彼女パワーがあるって言うか、圧倒されちゃうところがあって」

 僕はまるで、都合の悪いことを隠している犯人が余計に饒舌になってしまっているような口調になっていた。


 田中さんは僕の動揺には気づいたかわからないが、

「まあそうだよね。友達の私でも玲奈と一緒に長時間いるとちょっと疲れる事があるかな、なんて」

と一応納得してくれたようだ、ああ良かった。


 そう僕がちょっとした安心感を味わっている時ドアがノック無しに明けられると、

「コーキ、はなあ、清水君みんな元気?」

 と体格に反比例して元気よく梶本が入ってきた。そして僕の隣の椅子に座るやいなや梶本は唐突に訊いて来た。

「コーキ筋肉痛になってない? 大丈夫? 」


 僕はいきなりの質問に焦りを感じたができるだけ冷静に答えた。

「元気だよ」

 そう言うと梶本さんは、少しだけ当惑の表情を見せながらも

「そう良かった」

とまるで気にしない感じで言った。


 実は今から考えると梶本さんにまんまと乗せられてた訳だが、先週二人でサイクリングにいく事になってしまった。ラインには深刻な感じで、

「悩んでる事がある、相談に乗ってほしいんだけど。出来れば星がや運動公園まで一人で来て欲しい、お願い」

なんて言われて純粋に信じた僕が馬鹿だった。


 ラインだと表情や口調が分からないから本当の気持ちがわかり難いから困ったもんだ。運動公園へは公共の交通機関がないから、この前梶本にもらったバイクで行くと、そこにはやはり同じバイクに乗った梶本が待っていた。てっきりまた父親が問題起こしたかとばかり思ったら全然問題無いって言うし、深刻な悩みもちょっと太ったとか、数学で先週解らなかったところがあるとかそんな事ばかりだった。後は一緒にサイクリングしようと言う感じになりその日は一日中付き合わされただけだった。


「玲奈、筋肉痛って?」


 田中さんの言葉が少しだけ詰問調だったので、僕は少し動揺して心拍数が高くなる。梶本さんも顔が少し紅潮している。


「えっわっえっとああそう言えば、白石さんの件情報やっと少しだけ見つかったよ」

 梶本さんはよろけながらも、なんとか田中さんの質問を上手く回避した。アナタ、ソウイウノモデキルノネ、ワタシダメヨ。


 そして清水君が上手く話を逸らせた。

「へぇさすが学内一の情報通梶本さんにかかれば分からない事は無いね」

「ヘヘヘ~私の友達の友達が知り合いでね。それで何週間か前に、もし彼女から連絡あったら録音しておくように頼んでおいたんだ。先週かかってきたらしくて少しだけ話せたって。ただしパソコンの通話アプリでの会話だからどこからかけたかは不明。どうやら暗号化ってのが、かかっててパパの会社のエンジニアにも解らなかった。でも会話から何かヒントがあればなと思って」


 梶本さんからusb フラッシュメモリーを受け取ると清水は、パソコン上で再生した。


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