白石菜月の件

第34話 ただ帰りたいだけなんですけどね

初夏の日差しが眩しくさしこむ放課後の教室の中で僕は、秘策の最終ステップの確認に余念が無かった。

 

 今日こそは絶対抜け出してやる!元祖帰宅部の名に懸けて!思えばここ数週間幾多の脱出計画を練り、全て清水に撃破されてきた。


「くそ~なんで分かるんだ僕の脱出経路が?」


 今までいくつかの裏口に予め靴を置いておきそこから脱出、下校、そしてバス停で関口と落ち合う計画を立て実行してきた。

 

 このプランは完璧だった。しかし裏口にはいても清水が先回りして爽やかに立っていた。因みに裏口は全部で非常口を含め5箇所。裏口にカメラはついてはいるが、それは警備会社に直結しているやつで学内の人間が見る事は出来ない。


 だから、あいつが監視カメラの映像を見て僕を先回りしていることは考えられない。

 

 そこで、今日はさっき言った秘策を実行する事になった。


 まず鞄に予備の靴を入れておく、そして履いてきた方を裏口Aに置く。これはおとり。そして僕は今日この日のために購買部のおばさんに頼みこみ購買部搬入口から帰る手筈を整えていた。


 関口と目で合図を送り、僕は後から教室の外へでる。関口とは念のため関口の自宅で落ち合う予定。


 しかしその時

「松くん、一緒に行こう」 

と後ろから声をかけてきたのは田中さんだった。


 いきなり女子に後ろから声を掛けられたから背中がビクッっとなったけど大丈夫。一旦生徒会室に行った後、購買部へ行くと出て行けば良い。

 

 フフフなんと言う完璧な計画だ!


 生徒会室に行くと清水君はスマホで何かを確認していた。僕は清水君と田中さんの表情が警戒度ゼロなのを見計らう。


 そしてちょうど良い頃合いを見て口を開く。

「僕ちょっと購買部まで買うものあるから行ってくる」

「いってらっしゃい!」 


 生徒会室を出てから、ちょっと息をつく。ふぅ、良かった。もし買うものあるから一緒に行くとか言われたら、一貫の終わりだったね。


 ちょっとはや歩きで購買部へ向かう、おばさんは僕を見かけると目配せして裏口から搬入専用エレベーターに乗るように促した。


 辺りを少し見回し乗りこむ。ドアが締まり気分が緩み、やった!と大きな声で叫んでしまった。


 しかしよく考えると何か嫌な予感がする。


 生徒会室を出るとき清水君の表情を伺った時彼の唇の右端が一瞬だけ緩んだような気がする。でもそれはパック入りのジュースをストローで飲んでいたからかも知れない、気にしすぎだな。いやひょっとして、まさかそんなはずは......


 はっ!しまった、まさかエレベーターの外であいつが待ってるとか。でもあいつ本当にスパイみたいだからな、油断はできない。エレベータが1Fまで到着するまで、緊張の時間が続く。

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