第30話 任務失敗

僕らは前菜から始まり、洋食風の前衛料理のようなものを食べているところだった。

料理を堪能しながら、清水はどういうわけか、海外の食事マナーや各国の食文化について詳しく語りだした。その知識量に僕はただ関心するばかりだった。



 そしてメインをほぼ食べ終わりスイーツが出てきたところで、思い切って、3日前に生徒会室で合意したように、僕は梶本さんに自分の考えを伝えようとした。しかし、何もかもが初めてのことで、上手く言い出せなかった。


そして、僕の顔色から言いずらそうな雰囲気を察した田中さんが梶本さんの顔色を伺いながら声を少しだけ震わせながら話し出した。


田中さん初めの一歩ありがとう~助かったああああ!!


「ちょっと聞いてくれるかな?玲奈、実はちょっと話したい事がっていうか提案みたいなのがあるんだけど、聞いてくれる?」


「え、なんだよ~そんなにガチガチにならなくてもいいじゃん」

「うんあのね、実はね、前皆で一次活動してる時さ、玲奈の清水に対する気持ちって本当にいいな~って話が出てね」

「えええ!!はなあ~いっちゃたの?みんなに~いやだ~信じられない!」


「ごめん、でもここにいる松君も私も、ぜったい上手く言って欲しいと思ってるの、だから、あのひとつ提案があってさ」


「え、何?その提案って?」


「うん、怜奈とお父さんのことでね、ちょっと提案があってさ......」


 もう田中さんは顔が緊張して言葉がでなくなっているようだ。


 ここで、僕がいかなきゃだめだ。

「か、梶本さん」

 梶本はやや低い声で冷たい口調で答えた。

「何?」

「あのさ、僕、君の事田中さんから聞いたよ、お父さんと......上手くいってないんだってね」


 梶本さんは僕に予想外の事を言われたらしく、驚愕すると同時にその表情には怒りの感情が満ちていた。真一文字に結ばれた小さな唇は両側が少しだけ振るえ、握り締めた手が震えていた。


「それが、なんでそんなに重要なの?松川君が、私と父の事をとやかく言うのと、私の清水君への気持ちと、どっ、どういう関係があるのかな!!」


「わかるんだ、僕も。僕の親父も君の父親と同じように、いろんな女の人と一緒にどこかへ行ったりして、それを母親が探しに行って小さい頃からだれもいない部屋で夜中まで一人ぼっちで、待っていた」


 梶本さんは眉毛を吊り上げ、僕に敵をむき出しにしている。背中の汗が少し冷えてきたのもあって怖さに拍車がかかってきた。思わず目を背けて梶本さんの手元をみる、手の指が獲物を捕まえる時の鷲のような形に変わっている!


 人は敵意が強くなると、それが身体の動きに表れる。そうか...僕に飛び掛かって、ボコボコにしてやりたいんですね......


 再度勇気を出して、再び彼女の目を見つめる、目の上まぶたが横一直線だ。

これは強固な意志の現れ。 しかも、この強固な意志は恐らく僕が何を言おうとも変わることが絶対ない。そう確信する!

これは、ある人への強い思い、僕に対にる敵意?いいや違う、敵意じゃない深い悲しみからくる悲壮感だ......お父さんへの悲しみか......だったら、敢えて正直に言ってみることには価値があるな。多分そう思う自信ないけど。


よしっ続行だ!


「だっだから、うまくいえないけど、そんな状況が続くとなんていうか、異性と付き合うって本当にいいことがあるのかな?なんて僕は思えてきて......だけど、梶本さん清水と付き合いたいってのはいいと思うんだけど、自分の身近な存在の異性の お父さんとの気持ちがはっきりしてから、清水と付き合ったほうがいいと思うよ。あと......これも僕の経験だから、あてにならないけど、僕親父の事前殴ったんだ、まるで布団をはたくように、平手で思いっきり感情をこめないで、ひっぱたいたんだ。そしたらその後、しばらくして浮気していた3人の女の人と全部別れてくれたよ。もちろん自分の経験からの話だけにすぎないけどね」


これがうまくいくかは正直分からない、ただ......人の曲がってしまった気持ちを変えるのには、敢えて自分の感情に蓋をして対決しないと、その人に本当の怒り、悲しみを伝えることはできないと思う。遠慮した大人の態度は、相手に返って慢心、誤解を生むことになる。だからこういう言い方になったんだけども......


 しばらく沈黙が続いた。ホテルの高級な柱時計の秒針の音だけが耳に響くように聞こえていた。ああああ、もっとかっこよく言いたかった。ダサすぎ何言ってるんだ?正真正銘のヘタレじゃん、かっこ悪る!もう逃げたい。


 そしてしばらくの沈黙の後彼女は、

 「それで?」

 と冷たく言い放った。


 そして続けざまに早口で言葉を僕に投げつけるように言い放った。


 「あなたみたいな、下級の家庭で不細工な女の子には縁も無い人に、私の気持ちの何が分かるの?」


改めて自分の置かれた立場というかステータスが小学生の時から何も変わっていないんだなと思った。鋭い刃物で心をえぐられたようなショックを再び感じてしまった。


「小さい時から、父はいつも家にいなかった。勘でわかった他の女の人と一緒にいるって。それを考えただけで気持ち悪くて近づくのも嫌だった!だから最初は自分も」


 その場にいた者全員が梶本さんに何も言えなくなってしまった。僕も背中が汗をかいているほど全身が上気していたけど、目の前にいる彼女の充血した気迫ある目に押され、まるで魂が抜けたように何も言えなくなってしまった。


「でも友達の家に行くと優しい両親がそこにはいて羨ましかった。変わってしまう人の気持ちなんか信じられない、だからせめて目で確かめられる清水君みたいなかっこ良くて確かな感じの人と一緒にいたいと思った。だから、清水君が好き!」


彼女の顔を凝視する...両方の眉毛を内側5mm、これほどまでに急角度に寄せているのは、"嫌悪”の現れか?それほどまでにして、父親を嫌っている?いや....これはもっとそれよりも近い存在に対する感情...そうか...分かったぞ。


清水君が好きというよりは、最も嫌っている対象はお父さんじゃなくて自分自身だから、自分と対極にある清水くんみたいな人が好きって事にしたいのかな? そうか!分かった!


「そうか、梶本さんの嫌っているのは...」

と言いかけて言っていいかどうか迷う。親友の田中さんの前でこの事を言ってしまうのが梶本さんにとって良い事なのかどうか分からない。やはりこのことは言わないでおこう。出来るだけ別の言い方で言うべきだな。


「そんな外見だけで人を見るのは間違っていると思う、外見は良さそうでも実は悪い奴だったら自分が嫌な思いをすることにな...」




そう言い終わる瞬間、鬼のような形相の梶本さんがまじかに迫り、僕は彼女に右頬を力強くひっぱたかれてしまった。


梶本さんは席を立ち足早に立ち去っていった。

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