第29話 気持ち悪い時にパフェはつらいですよ

 トイレから出た後、田中たち女性陣は待ちくたびれたようにパフェにかぶりついていた。田中さんは幸福感満杯の笑顔で少しだけ食べられた跡があるパフェを僕の口元に近づけてきた。


「はい!松君も一口どーぞ!」


 うっ......今まで気持ち悪い状態だったからそれは無理なんだけど、心の中で叫ぶ。


「いっいや......」


 でもそのパフェを差し出した手と彼女の目には、パフェを食べる時には通常あり得ない気合いがこもっていた。うはぁ...目力強えぇ!!そんなキラキラな瞳でハイビームは困るんだけども......うーん、それじゃあなるべくクリームが少ないところを少しだけ頂きます。


 いゃー爽やかなラズベリーソースが......気持ち悪い~~


 その後、流石に海底宙吊りコースターは3Dだから遠慮する事なった。メリーさんゴーランドで羊型カートをぬるく楽しみながら落ちた体力の回復に勤めていると清水が明らかに疲労を隠せない表情で近づいてくる、僕は少しニヤついて、

「なかなかお楽しみ頂いたようで」

 と皮肉った。


「田中、後で覚えていろーフフフ」

 うわ~復讐モード全開で独り言言わないで!真っ黒の清水さん怖いんですけど。


 そしてその後いくつかのアトラクションを回り昼食をはさみ、さらに午後からは僕も問答無用で絶叫系コースターにいくつか地獄チャレンジさせられた後、清水の計画という名の計略に従い女子陣をお化け屋敷に誘い込んだ。


「じゃあ、ここは男同士女同士で分かれて時間差で入らない?」

「ええ~みんなで一緒がいいよ~」

 女子陣は一斉に反発。そこを何とか押しとどめ早足で僕は言われるままに清水に手を引かれ中へ入っていった。


「清水君」

「何?松君」

「実はさ、手なんだけど...」

「あっそうか、ごめんははは」

 さり気無く手を取り、しかもそれに全く違和感を感じないで手を引かれている僕って。しかしこの主導権のとり方の上手さは才能だね。


 お化け屋敷の中で僕と清水は、ロクロ首を眺めながら薄くらい江戸時代もどきの歩道を歩いていた。


 その時、遠くから「うあああああ!」と叫び声が聞こえる、田中さんだと思う。

 そして、続く梶本さんの声「ひえええええええ!!うわー怖いよ~」


「あ~あの品の無い声は田中だな、ふふふ 今日宙吊り海底コースターで3Dメガネを逆向きに取り付け俺の事を馬鹿にした制裁だ思い知ったか!フフ、フフフフ、田中、聞こえていたら君の生まれの不幸を呪うがいい、君はいい友人であったが、君の父上がいけないのだよ。フフフフ、ハハハハハ」


「え?何それ?父上?何いってるの、清水?ダイジョウブ?」

「ハッハハハハッ~」

 その次の瞬間、ドゴッ!!!!という鈍い音がして何か大きなものが清水の頭をクリーンヒットした。


 もちろんその何かは田中のバッグだった。めっちゃ離れてるのにすごいコントロール!


 その直後、後ろから田中さんが僕にしがみつき清水に向かって

「お前に私の生まれの不幸を呪われたくはないわ!!ボケ!私の父さんがあんたに何かした?バカ!!」


「ええっ!田中さん、その、ちょっと困るんだけど」


「ごめん!!だって、だって本当に怖いんだもん。だから入りたくなかったんだ~くそう~ゲス海のやつ、うう、お願いせめて外に出るまでこのままでいさせて」


 顔が紅潮してくるのが自分でも良く分る。ああ、この感覚は......でも抱きつかれたのが正面じゃないからそれほど緊張していないのかな?目の前がモノクロにならない、いや元々薄暗いからモノクロになっていようが、分からないってとこか。


 まあしょうがないか、田中さんも相当怖いんだろうな。あれ?でもなんかこの感覚どこかで前あったような......でも良く分からないな、なんだろう?このデジャブみたいなの?そう思っているとお化け屋敷はもうゴールに近づいていた。


 建物の外に出ると、外は夕暮れになっていた。さっきまで行列で溢れていた人気アトラクションの前も人がまばらになっていた。

「ああ、もう暗いね~」

「今日は楽しかった!最後は怖かったけど~今日はみんなありがとう!あと清水君、今度はさ」

 そう言われると、清水はお得意のはぐらかしで、

「ああ、そうだね~そうだ!まだ、楽しみは終わってないよ」

 と言って話を上手くそらした。

 田中もその言い回しに続いて、

「玲奈、今日時間ある?実はホテルの個室に食事用意してあるんだ~」

 と上手く言い添えた。

「えっ?どこのホテル?」

「明治ホテルだよ」

「ああ~あそこ美味しいよね!!いくいく!!さすがはなは良く知ってるね~」


 遊園地を出て、門の前で客待ちをしていたタクシーに乗り込んだ。ホテルに到着しフロントまで行くと別室に通された、僕は目の前に広がった光景に息を飲んだ。

「うわっすごい!」

 思わず、僕の口からはため息が漏れた。

「いや~こんなすごいもの食べれるの!!すごー」

 そんな姿を見て梶本は

「まあ、あなた程度の家庭では、10年に一回ありつけるかどうかのものだものね」

と冷ややかに言い放った。


 僕は一瞬ムカッと来たが後々の事を考え黙っていた。

 

「まあまあ、とにかく食事を楽しもうよ~!あたし、ステーキ最初にたべたい!」

それには清水がすかさずつっこみを入れる。

「いや、田中、コース料理だから最初はサラダだろう」

「あっそうか、へへへ」


 清水君と田中さんのこんなやり取りがあり、その場の空気を和らげてくれた。

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