梶本 玲奈の件

第21話 いやな奴


それから僅か数分後、生徒会室のドアが開け放たれ、僕より少しだけ背が低くて、亜麻色の髪を後ろで緩く束ねている女子が入ってきた。

その女子は「い・か・に・も・な」可愛い笑みを浮かべ、田中の手をぶんぶん握りしめた。


僕はこの女子を前校門の近くで見たことがある。


他のクラスの人間に疎い僕でも分かる。確か名前は梶本とか言って、毎日黒塗りのリムジンで登下校しているセレブ揃いのこの学校でも一、二位を争うお嬢様育ちの女子だ。

一度だけ梶本と接点を持ったことがある、先々週のことだ。


僕が放課後友達の佐藤君と話を終えて図書室から出た時、梶本さんとぶつかりそうになった。その時僕は手に持っていたスマホを廊下に落としてしまった。


****

「ああっごめんね!大丈夫だった?」

「いやっバンパーつけてるから大丈夫です」

「そう......じゃ何かあったらここにTELしてね」

「は?あっはい」

と返事をすると、梶本さんから名刺を手渡された。

僕がスマホを落としたのは自分が不注意だったせいもあるので、なぜ名刺なんかくれる必要があったのだろうか。心の中で不思議に思いつつ、名刺を受け取っていた。


手渡された名刺に視線を落とすと弁護士の名前が書いてあった。

梶本家顧問弁護士

団藤喜一郎


名刺から視線を再び梶本の顔に向け、これはどういう意味なんだと尋ねようとすると、梶本の表情から読み取れるある感情が気になり何も言えなくなってしまった。

梶本は体を斜めにして少しだけ上目目線で、しかも横目がちでこちらを見ていた。


この動作は僕がもっとも女子から多く取られた態度、「軽蔑」だ。そう、僕が一番腹が立つ大嫌いな態度だ!


しかも、僕と話し終わった後、少し歩き出しただけで、まだすぐそばに僕がいるのを気にする必要も大して感じなったのか、電話をかけて誰かと話しをする声が聞こえてきた。




「あっ団藤の叔父様、玲奈ですけどぉ~実は今同じ高校の生徒にぶつかられて相手ぼーっとしてたらしくてスマホを落としちゃったんですよぉ、そう、えっ?いや相手は身に着けてる時計が安物だったから.....あっち側の人だと.....分かりました!じゃあもし電話あったら宜しくお願いします」


****

フンッ!上級国民気どりしやがって!

 という訳で、女性恐怖症の僕の中ではこの梶本は、交番の前に貼ってある人物写真とほぼ同義、"おい!梶本!"くらいの要注意人物なのであった。

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