第20話 頭の良い奴の考えは意味不明



「でも、昨日他にも何人か役員みたいな人がいたけど」

「あれは~実は私の友達なんだよね。書類が多すぎてどうにもならないから頼んで手伝ってもらったんだ。だからいつもあてにはできないんだよ。でも!みんなで協力していけば、きっとうまくいうと思うんだよね!それに~」

「それに?」

 

 田中さんは少しだけ小悪魔っぽい感じな表情で僕の方を見つめてきた。僕は顔が上気するのが分ってきたので慌てて顔を斜め右に傾けてごまかしてみる。


「もうサインしたようだから、いまさらやらないとか絶対駄目だからね!もしやらないなんていったらあ」

そう言うと、少し考えて顔を少し赤らめて

「い、いつも近くでつきまとっちゃうんだから」

と言いながらかなり近くに近づいてきたので、仕方なく出口とは反対方向に後ずさりしながら、

「あああ、しょうがないわかりましたよ、はあ~」

と渋々同意した。

 そのやり取りを見ていた清水が少し苦笑しながら、

「まあそうため息出さないで、歌舞伎揚げの他に松君の好きな飲み物も用意しといたよ。ジンジャーエールで良かったかな?」

とさも当然に僕の好きな飲み物も当ててきた。


 え?なんで?どうしてそんな僕の好きなものそこまで詳しく知ってるの?おまけにその表情から確信をもって言っているよこの人!!

「あの」

「うん?」

「どこまで、僕の事知ってるんですか!!ここまで来ると、何か恐ろしさも感じるんですけど!」

「さあ?どうしてだろうね~感だよ、君ほどのシックスセンスは無いけどね」


 この人僕の事ストーキングしているの?......ひょっとして僕の事好きなの?


「そうそう、俺の事まだフルネームも言って無かったね、遅ればせながら自己紹介をしとく。清水 海斗(しみずかいと)1年A組、役職はさっき田中が言ったとおり2年の生徒会長が辞任した為 生徒会長代理 に先月なったばかりだね。住んでいるところはちょっとここから離れている春日部市、趣味は馬の観察と株式投資そのほか多数!」


 そう言うと、その後に皮肉っぽく田中がつけたし気味に畳み掛ける。


「そして、人をおちょくること実は馬よりも人間観察がもっと好き、イケメンで頭もいいからちょくちょく女子からコクられるけど、つれない態度でふるから今は松くん推測の通り、いろんな噂の渦中にある清水くんの自己紹介でした~パチパチ」


「っていうか、俺は別に普通だし、第一その噂を広げているのはお前だろう!」

「うるさい~ゲス海!お前に発言権はない!次は私の自己紹介を、田中って名前って~平凡だよね~そこでいじけてるゲス海と同じ1年A組。役職はまあこんなの私にとってどうでもいいんだけどね、副会長代理兼、会計だよ。趣味はスポーツ全般、簿記、あとは旅行かな。あとは月並みだけど甘いものだべること~あっでも歌舞伎揚げも美味しいよね以上!」


「こら」

そう言うと後ろから清水が田中を新聞紙を丸めたもので軽くチョップした。

「な・ま・え」

「わかったよ~名前は......ハナコ」

「えええ?何だって?聞こえないなあ~~もう一度大きな声で」

田中は観念したのか、半ば半なき状態の顔になった。


 僕はそんな顔を見て、なんか自分が昔いじめられていた時と同じ気持ちが彼女の瞳の奥底から感じられた、だから思わず言葉が出ていた。


「いいよ!別に無理に言わなくて!そんな事どうだっていいじゃないか!みんなで一緒に頑張ればそれでいいじゃないか!」


 うわ~だせ!!なに脈絡の無いこといってんの?恥ずかしい事言ってしまった~


 そう言った後、僕はすっかり滑ってしまったことをものすごく後悔していたが、次の瞬間田中さんの泣き顔が、溢れんばかりの何か懐かしいものを見たような笑顔に変わった。


「わあっうれしい~やっぱり!やさしいところは少しも変わってないね!それに引き換え、ゲス海ぐああ~」

そばにあった、おもちゃのピコピコハンマーで田中は清水を連打しまくる。

え?少しも変わってない?僕は少し目を上に向け、何か大切な事が思い出せるような気がした。だけどそのぼやっとした感覚はまた薄くなってしまった。

清水はそんな僕の仕草にほんの少しだけニヤケた表情を見せながら

「まあ悪い悪かったよ、でも松君も引き受けてくれる気になってくれたみたいだから結果的にいいじゃないか」

と、取り繕うように田中さんに言った。

「たく!あんたの結果論はいつもうまくいくけど、なんか後味が悪いのが多いからやだな~」

「いや~それほどでも」

「別に褒めてないっての!」

と田中さんがふくれっつらなのにも構わない様子で、清水はなにか閃いたようだ。

「あそうだ、まあ今後の連絡網としてメールとか交換してもいいかな?」

と清水は切り出した。


 うわ!不味いな......僕は正直、休日とかに呼び出しがかかるのが嫌だったので気が引けたが、この雰囲気から断ることもできず3人でメールとかスマホの番号を交換し合った。


 番号を交換し合っている時さらに清水は何か閃いたような表情をしながら、(確かにこの人にはあまり閃いて欲しくはないなと後ほど嫌というほど思い知らされることになるのだが)ある提案をしてきた。


「ところで今日は特に何もやる事がないけど、田中どうだろう?どうせだから例の件でもやってみないか?もちろんこれが2次活動かどうかは、怪しいけどね」


「え~あれ~?いいよ別に、あの件は怪しいどころか生徒会活動ですらないじゃんか~」


「でも、今月の部費もかなり余ってて活動実績があまり少ないと二次予算減らされるんだよね。なんか形式的だけでもやったほうがいいからさ、ほらっそれに松くんに慣れてもらうためにもいいんじゃないの?」


「まあそうだね、だけど大丈夫かな?」


 チラリと僕の方を一瞥した時、少しからかい気味だったのは気のせいか?

 

 そしてそう言うと田中さんは僕を大きな瞳で見つめ、クスって笑い、スマホをタップした。

「じゃあ、彼女に連絡するよ」


 そう田中が言うと清水は一瞬左右に両目を素早く動かした。まただ......頭の回転が速い人が見せる特有の目の動き、自分にとって何が一番メリットを呼ぶ状態をもたらすか計算をしているときのしぐさ。そうか自分の立てたどの手段をとっても好ましくない状況が生じるから困っている"躊躇"の表情か......しかしそのあと直ぐに気持ちを切り替えたようで、

「いいよ」

と言い田中にラインを送るよう言った。


 自分で呼び出すように言っておいて、いろいろ計算して方法を考えたのに最終的に躊躇の表情を見せたのはどうしてだろう?



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