第12話 気を失う
その後20分ほど走り、タクシーはまた学校の裏口に停まった。
まだ正気に戻っていない3年生を保健室まで運び、ベットに寝かせたが、なんだか訳の分からないことを言い続けている。
清水は、冷静に状況を踏まえているようで
「ここでちょっとやることがあるから先に生徒会室に戻っていいよ」
と僕にできるだけ優しく言った。
「あっ、分かりました」
っていうかどうして同い年なのに、つい敬語が出てしまう。
生徒会室に戻ると田中さんは僕の緊張をほぐそうと、できるだけ明るい表情で出迎えてくれた、やさしいところもあるんだな。
「よっ!初日からにじかつとは!あんたも運が悪いね!」
といって、また近づいてきた。
「はい、暑かったよね?麦茶どうぞ」
田中さんが紙コップに淹れたお茶をにこやかに差し出しながらさらに距離を詰める。
いや前言撤回!!緊張ほぐすつもりないだろこの人!
千葉の有名なテーマパークの人気キャラクターでも前置きなしにこんなに距離縮めないよ!
「ありがとうございます、あの…、すいません、ちょっと近いです…。もうちょっと離れ…」
「えぇ~?これくらい普通だと思うけど?ほら、お茶」
そう言うと、意地悪そうにもっと近づこうとしてきた。身長は僕よりも5センチくらい高いかな…。
髪も綺麗だし、顔も整ってるし、良い匂いもするけどやっぱり無理ぃい!!
「いや、これ以上は頼みます…!目の前がモノクロになってくるんで!!」
「へ? 何言ってんの?」
ああ…、駄目だ…、やっぱり目の前がモノクロになってくる…、夏休みのラジオ体操で、寝不足なのに朝から無理に体動かして、急に気持ち悪くなって倒れてしまうあの感覚………。
もうだめだ…、自分の体重が重く感じる…。頭がオーバーヒートしてシャットダウンする。
僕はその場でがっくり崩れる…。もう知らない…。
「ちょっとまつくん!!?」
******
「……君! まつ君!」
なんだかどこかで声が聞こえてくる…、ああ…、そうか、田中さんに近づかれ過ぎて倒れたんだ。気が付くと、生徒会室の奥にある応接セットのソファーにいつのまにか寝かせられていた事に気が付いた。
僕の傍には清水が座っていた。
「あぁ、すいません」
あたふたと起き上がろうとする僕。ああダサすぎ! 嫌になってくる。
「いいんだよ、そのままもう少し横になっていた方がいいよ。それよりすまなかったね、佐藤先生からのレポートを読んでいたのに配慮が足りなかった。あと田中! 松川君にいたずらに近づき過ぎないように!ちゃんと謝れよ」
「ごめんなさ~い、でもまさかそんなに女の子に免疫ないなんて思ってなかったからさぁ。これからどうやって社会生活していくのぉ?」
「こら! お前はいつも言いすぎだぞ!」
「はーい、ごめんなさい。では私は奥で1次活動に戻りまーす」
「あれ?」
「どうした?松川君」
「いや......あれおかしいな?今目が覚める前に、一度起きたような気がするんだけど、確かその時に.....田中さんが......」
「ああああああああ!」
「なんだ、なんだ?田中、いきなり大声出して?びっくりするじゃないか!」
「いやっ別にぃ~発声練習だよ~なっ何でもないよ~だ、さあーて一次活動の書類の作り直しでもしようかな~とっ」
「まあ、今日は緊急で2次が入ったから時間も遅いし、やれるとこやったら帰っていいよ」
「はーい!では田中、適当にやって帰りまーす」
田中さんはそういうと僕のほうをちらちら見ながら、席について奥のほうで書類の作り直しを再開した、清水は何か書類を見ている。
あの3年生は何なのだろう? っていうかこの人たちは何でこんな事をしているんだろう?
あとさっきショッピンセンターで清水が救護係の人に言っていた時に起こった疑問がまた沸き起こる。
ーーーいや、実は彼はちょっと持病がいろいろあるんですが、薬を飲み間違えたらしいんですよ。
さっき家族の人から電話があって、薬を間違えて持たせてしまったと連絡が入りましてーーー
あの説明をしたときの目つき、最初に目が素早く左に動いて、その後に右斜め下に向きなおした。左脳の思考で理屈を立てて話すときは目が左に動く、そして、本当の事を言う場合は、そのまま左側のまま、そしてそこに自分の創作(嘘)を混ぜる時は、右の脳を使うと思う。あれは自分の作ったストーリーをいかにも本当の話のように理屈立てて整理しているときの典型的な目の動きだと思う。
つまり本当の事を言っていない目だった。なぜあんな嘘をついてまで彼をかばったんだ? 2次活動ってなんだ?
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