第11話 見てはイケナイモノ

 でも救護係りの人は説明に納得したようだった。


「そうなんだ、それは、気の毒だったね。だけど最近の生徒会さんはそこまでやるの? 大変だね…、じゃああとは任せていいかな?」



「どうもすいません、じゃあいくか、松川君も悪いけど彼の肩もってくれる?」


「あっ、うん」



 さっきまでは少しだけ息が荒々しかったその3年生は、流石に疲れたらしく、少しだけ落ち着いたように見えた。


 しかし、二人で男子の肩をつかんだその時一瞬悪寒が走った、恐る恐る目を見ると僕に敵意をむき出しにしているのが直ぐに分かった。僕の方に掛けているその男子の手からは制服の上からでも分かるくらい、手が熱くまるで脈まで感じられるくらいだった。


 やばい殴られる! とそう思ったその瞬間、清水はいつの間にか注射器のようなものを取り出し、彼の右腕を捲り上げて手際よく何かを注射していた。その後直ぐにその男子生徒はぐったりとおとなしくなっていった。


「さあ、もう大丈夫だからいこうか」


「はっはい」


「あと、田中は彼の持ち物をひとまとめにして持って来てくれ」


「了解!」


さっき何か腕に注射していたけど、あれは一体......


 目つきがおかしいこの氏名不詳の3年を僕たち3人で車に押し込み、タクシーに乗り込んだ。


 タクシーの中でいまいち事態の展開を読めていない僕の戸惑いに気付いたのか、清水はやさしそうな作り笑顔を浮かべて



「有難う、助かったよ」


と言い、その後続けざまに運転手さんに




「すいません、高校に戻ってもらえますか」

とだけ短く伝えた。


 しかしその直後温和を装った清水の表情はどこか恐ろしげな表情に変わり、生徒会室にいた時とは全く別の表情になっていた。


 そしてその冷たい表情のまま携帯を取り出すと、どこかに電話を掛けて


「今ピックアップしました。しばらく休ませてから帰したほうがいいと思うので、保健室の鍵を開けておいてください」


 それだけ短く低い声で言うと電話を切ってしまい、沈黙していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る