第4話 ドリンクバーの常連

 その数週間後、僕は彼女と図書室で会うことが無いまま、父親の仕事の関係で隣の県の小学校に転校になった。


 子供の頃のちょっとした刹那系の思い出のひとつだ。


 まあ、そんなこともあって小学生の時から今まで女子と話すことは緊張してできなかった。


 いや、1度だけ中学の時女子と話してみようと試みたが、緊張しすぎてどもってしまい、気持ち悪がられたから、それ以来女子とは会話をしない事にしている。




 変な意識するなと関口を含めて他の男友達には言われるけど、これはもう無意識なんでコントロールできない。


 そんな事をぼーっと考えていると関口が僕のおでこにデコピンをしてくれたおかげで、我に帰る。





「ま、お前がそうなら無理にとは言わねぇけど。でも、俺は少なくともお前の事分かっているつもりだから、何でもってわけにはいかないけど、いつでも相談してくれよ!バス来たから行くわ、じゃあな!」




 そう関口が言った時、いつまにか僕たちは校門から出ており、関口は隣町行きのバス停に向かって走り出していた。




「ああ、ありがとな」




 そう関口に小さく言葉を掛け、その言葉が聞こえたかは分からないが関口はバスに乗り込む時、片手を上げてバスに乗り込んでていった。




 僕の名前は松川まつかわ 考基こうき 。


 近隣の公立高校が統廃合により全て消失してしまったため、交通費がかからない地元の私立高校に進学した。


 僕の近い将来の目標として高校卒業後、大学には行きたいと思っているけれど、家がそれほど裕福でもないので奨学金を狙わないと相当厳しい。


 少しでも入試準備に放課後の自由な時間を充てるため部活動などやっている暇はない。


 だから、僕は帰宅部を選ぶしかなかった。




 ただ帰宅部として学校から戻り2階の自分の部屋で1人になっても、学校とは別の意味で騒がしいことには変わりはなかった。




 夜7時ごろに建設会社を経営している僕の父親は現場周りを終わり、いったん自宅に戻ってくる。


 近所の飲み屋に行く為に服を着替えていると母といつも口論になる。




「この前また、あそこのバーから請求書が来てたけど、どうしてこんな金額になるまで飲み歩く必要があるの?会社のほうもうまくいってないのに」




「うるさいな! 付き合いがあるんだよ!」




 そんな怒号を聞きながら耳栓をして教科書を開く。


 でも次第に物を投げつける音が聞こえてきたり、怒鳴り声が次第に大きくなってくるとそれも意味が無くなってくる。




 そっと忍び足で下の階に降り、階段の踊り場から少しだけ頭を出して二人の様子を見てみる。


 母さんの顔は、真っ赤に目をはらして泣いている。


 親父の顔を特に観察する。

 眉間付近......皺が深くない。両眉4.5度上昇、両方の拳開かれたまま。両目の血管は......それほど太くないか......



 大丈夫あの顔つきなら今日は母さんの事殴らないな、そう感覚でわかる。




 僕は小さい頃から父親の顔色ばかり見てすごしてきた習慣と、小学生の時からいじめられてきた経験から人の気持ちの動きが表情、しぐさ、目の動きみたいなところから細かく分かるようになってきた。


 別に自慢でも誇りでもないけど、なんとなく身についた嫌なスキル。




 再度親父の表情を注意深く見る、今日は大丈夫みたいだな。


 親父のおでこのしわが深くない事まで確認してから、母さんを殴らないことがわかると少しだけ安心してホットする。


「しょうがない、いつものところにいくか」




 僕は何時も通り二人に気づかれないように、そっと裏口から家を出て自転車にまたがり、近くのファミレスに向かう。




 そしてレストランについた後、僕はいつも通りドリンクバーを注文して教科書開いて思う。




 どうしてなんだろうな、家があるのに惨めだ。




 そしてその後思わず独り言になって口に出る。


「帰宅部なのに家にいれないなんて......」




 気持ちが少し痛くなってくるのを思いっきり甘くしたコーヒーを飲んで、少し胸が痛むのをごまかした。


「うへえ、砂糖入れすぎたまじい......」


ラノベとコーヒーは甘すぎるのは考えもんだな......そう思いながら代わりのドリンクを選びにドリンクマシンへと席を離れた。

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