第3話 誰にも言えない
そしてそんな自分の置かれた状況を担任が助けてくれるはずもなく、その後ある事情から転校を経ても自分自身の置かれた状況に変わりがなかったので、転校先でのポジションも前と同じ図書委員だった。
図書委員の仕事は放課後、クラスの学級文庫を返却し、リクエストがあがっている本をクラスに持って行くのだが、クラスが4階にあるので本の持ち運びが辛かった。正真正銘のバツゲーム扱いだった。
そしてそんなバツゲームとしての図書委員をしていた転校前のある冬の日に、僕にとってちょっとした変化があった。
僕が図書室で、いつも通り一人寂しく本の返却整理をしている時、背後から声を掛けられた。
「あのさー、この本どこにおいたらいいの?」
少し驚いて振り返ると、僕より10㎝くらい背が低くて色白の女の子が佇んでいた。彼女は手に ”海の生き物” という本を持っていた。彼女の表情は、少し緊張していたのか、少しだけ眉を下に下げ気味で、手がほんの少しだけ小刻みに震えていた。
いきなり話しかけてきて、なんなんだこの女の子は、震えてるの? 怖いなら話しかけなければいいのに。こっちまでちょっと緊張するな。でも、教えてあげないと可哀想だな。
「ええと、それは確か人物名鑑の後ろ、そっちの本は科学図鑑の前だよ」
「ありがとう!」
3年以上も図書委員をやっていた僕は本の位置を熟知していたので、彼女の持っていた本をすばやく置き直していった。
「すごいね!どうしてそんなに詳しいの?」
「いや、それは」
クラスで仲間はずれの罰ゲームの代わりに図書委員3年もやってるとは恥かしくて言えなかった。
それから僕はどういう訳かその子と一緒に本の整理をすることが多くなっていった。そしてそんな事が何回かあった後……。
ある日、詳しい経緯は覚えていないがやはり本の整理をしている時だった。僕はその子に後ろから突然抱きつかれた。突然の事だった。
その瞬間何なのか分からなくなって頭の中が真っ白になって、意味が分からなくなった。
ただ、僕が覚えているのはその子が赤い長袖の服にチェックのズボンを履いていた事と、自分の顔が真っ赤になってくるのが分かって、半ば強引に振りほどいて図書室に本をそのままにして出て行ってしまった事だった。
家に帰った時、ドブに落ちてしまったことに気付いて母さんに怒られたのも鮮明に記憶している。
その事だけならびっくりしただけで済む話だったけど最悪なことに、僕が慌てて帰宅したものだからランドセルを学校に置き忘れてしまった。
帰宅後、用務員さんが届けてくれたのは良かったんだけど…。
翌日、その事がどういうわけかクラス中に知れ渡り、僕はますます仲間外れにされてしまった。
彼女の名前は覚えていない、っていうか、聞いてもいないと思う。
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