第1話 帰宅部失格


---3週間前---



この世の中はウソで成り立っている。

欺瞞、腹の探り合い、駆け引き、陰口、足の引っ張り合い。

僕のいる高校もその例外ではない。


例えば、今僕のいるクラスなどはその典型例だろう。

クラス一のイケメン、谷沢がクラス委員長の森田彩也香に話しかけている。

谷沢の目の上まぶたが、いつもよりも2ミリ大きく広がっている。それに対して森田の目尻が3ミリ下がり気味だ。


へえ、谷沢の奴は森田と付き合い始めて、日が浅いな。たぶん2、3週間ってところか。二人の足の向きを見てみる。


あーあ、谷沢の足の爪先が森田の方に向いてないな…こいつもう他の女子に目が移ってるよ。あ~あ...


谷沢の足の方向を辿っていくと、僕の左横に座っている女子に行き着く。

その席に一見平然とした顔で座っている鈴木真夏は、目を少し細く震わせながら、谷沢のほうをちらちら見ている。


鈴木の手に持っているシャープは今にも折れそうだ。そうか、ここに怒りをぶつけてストレスを逃がしているのか......なんだよ、もう二股かけてんじゃん!あとで修羅場だな。


はあぁ、嫌だねぇ......


別の方向へ目を向けると、二人の秀才、北見と佐山がなにやら一見して仲良さそうに話をしている。


「昨日テスト勉強した?」


「いやぁ全然!昨夜ねちゃってさあ、マジヤバイ!」


「ぷっ!」

笑いを堪えながら軽く頭を横にふる。


二人とも血管が浮き出るまで右手を握りしめている。

話す相手に敵意を持っているとき、無意識に利き手に力が入っちゃうんだよねえ~。ニコニコしながらめっちゃバトルしてるじゃん!


しかも、北見の右手の小指の横が、筆記し過ぎで黒くなってるし、佐山のポケットとバックからボロボロになって使い込まれている単語帳の束見えてるんですけど。そんなに学年一位争い闘士燃やさなくてもいいと思うけどね。   


ホントにみんなよく嘘ばかりつくよな。


などと、ぼーとっした放課後の意識のまどろみの中、後ろのやつに声を掛けられる。


僕の数少ない友人の関口だ。こいつはよくしゃべる奴だといつも思う。


悪い奴ではないが関口は自分自身の自虐的なことも含めて大声でいつも話すので、正直ちょっとうざい。


でも煩わしいと思いながらもこいつとは何故か妙に気が合う。


最初は意味が分らなかったけど、最近はその理由が分ってきたような気がする。


なぜなら関口は表情を含めて嘘をつかないからだ。


関口は声を掛けるや否や制服を後ろからグイッとひっぱりいきなり大声で話しかけてきた。


「おい、松川ちょっと話せないか?」


唇の両端、3度上昇 両方の眉毛 4度下降 5秒以上


そう!これこれ!これがこいつのいつもの笑顔。


こいつはいつも分り易い位のドヤ顔の上に大声でやかましいな~


「なんだよ関口、これから帰っていろいろやる事あんだよ」

「ああ~まつかわ~、あれかぁ、ヒヒヒ、ピー(伏字)な動画観るとか」

「あのなぁ!」


僕の口から思わず大きな声が出ると他のクラスメートがびっくりしてこちらを振り向いて見ている。


これ以上関口に大声で余計なこと言われたら何誤解されるか分からんからな、ちょっとだけ相手してやるか。

「分かったから余計な事喋るな、それで何だよ」

「なあ、松川おまえなんで女と話さないの?  ひょっとして女苦手?」

「なんだよ、いきなり......ねぇよ、そんなこと......ただ面倒なだけだよ」

「そうかぁ? でもお前だけだよ?あれだけ女を避けてるのは。

「いいよどうせ俺は……」

僕はそう言うとうつむいて何も言えなくなってしまった。

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