マインド・ライフ

ソロ

プロローグ  

 まさかこんなベタな死に方をするなんて、思ってもみなかったんだ。

怜司れいじ……? こんなの嘘、でしょ……?」

 幼馴染の白菊結花しらぎくゆうかが、どうしていいのか分からないのか、俺の死体を見て泣き叫んでいる。

 まあ当然か。俺の身体は車に跳ねられて、正直グロい事になっていた。

 車は俺を跳ねた後、もの凄いスピードで電柱に突っ込んだらしく、運転手は運が良ければ重症、悪ければ死んでいるだろう。

 どうやら結花は俺が突き飛ばした際についた擦り傷以外、目立った傷はないようなので、ほっと胸を撫で下ろす。

 こんな事になるなら、学校帰りに喫茶店なんかに寄らず、いつも通りまっすぐ帰るべきだったなぁ。

 まだまだやりたい事もあったし、もっと生きていたかった。諦めきれるものでもないがこうなってしまった以上、俺の力ではどうする事も出来ないんだろう。

 だから、今の問題はそこではない。どうして俺は今、思考することが出来て、自分の死体と結花の姿を見ることが出来ているんだろう。

 慌てて今自分が動かしている身体を確認する。手も動く。足も動く。身体もちゃんとある。ただ、若干透けている。

 まさしく肉体から魂だけが抜け出てしまったような、そんな奇妙な感覚。

 こういう状態の事を何と表現するか知っていた。答えは幽霊だ。

 そういうオカルトは全く信じない派だが、まさか自分がなってしまうとは……。

 この後あれかな? 今流行りの異世界に転生とかいう、ベタな展開になるんだろうか?

 だったら早く連れてって欲しいもんだ。これ以上この光景を見続けるのは、耐えられそうにない。

「おい、大丈夫か⁉ すぐに救急車を……」

 現れたのは天使でも死神でもなく、先ほどまで俺達がいた行きつけの喫茶店のマスターをしている、顔見知りのおじさんだった。騒ぎを聞きつけてここへ来たのだろう。

 そのおじさんの動きが、俺の方を見てぴたりと止まった。

 死体と俺がいる方向を交互に見て、まるで死にかけの魚のように口をパクパクと動かしている。

 俺はおじさんの視線の先、自分の後方を振り返って見るが、特に変わった様子はない。遠巻きに事故の様子を伺っている人達がいるだけだ。

 だが、おじさんと同様騒ぎを聞きつけて俺の死体の近くまでやってきた人達は、全員がおじさんと同じような反応をしている。

 何だ? 一体この人達は何に驚いている?

 そこでふと、結花が泣き止んでこちらを凝視している事に気付く。

 あれ? これはもしかしてもしかすると……

「あのー。俺、皆さんに見えちゃってます?」

 湧き上がる悲鳴。逃げ出す人々。

 その場に残されたのは、俺と俺の死体、そして結花だけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る