Genomic Hero (ゲノミックヒーロー)
シンノン
01 再生
成功を信じて神に願う。
誰もがする当たり前な行為だが、こと彼に関しては話しが違う。
物心ついた時から、生物を物質の集合体として捉え、それは人すらも例外ではない。
もちろん神や宗教などは彼にしてはただ単に侮蔑の対象にしか過ぎなかった。
しかし、今彼はひたすら神に願っている。
それ以外にしようがないからだ。
誰よりも真実にストイックに迫る彼自身が急にそんな行為に及ぶのは、端から見ればとても滑稽な姿に映るかもしれない。
それは、彼自身も痛いほど理解している。
しかし、いまはそんな思いすら全く彼の思考の中には入ってこない。
ただただ願うだけだ。
血で塗られた床の上で、力なく座りながら血のついた両手を顔に前で組む。
論理的に可能、といった甘言や、自身のキャリアといった慢心を全て捨去った。
そんなものには飽きる程裏切られている。
恐らく生まれて初めて本気で何かに取り組んだ。
その証拠がこの懺悔にも似た祈願の姿だった。
そのまま少年は結果とういう名の判決を待つ。
目の前の大きな機材が停止して静寂が訪れる。
それは彼が祈りを終える合図となる。
はっとして目を開くと目の前のに不透明な赤い液体で満たされた、風呂釜ほどの大きな水槽が目に入ってくる。
そう、その中には"彼女"がいる。
今すぐにでもその中をを見たいという気持ちと、本当に望んでいた結果になったのかという疑心暗鬼とで、胸が締め付けられる。
苦しい胸を押さえ、あえて水槽から目線を逸らし、壁に並ぶモニターの集団に目をやる。
そこには彼女のハーモニクスが表情されているが、あらゆる値が正常時のそれとはかけ離れている。
しかしこれでは結果は分からない。
今まで一度も試みたことがないことだ。
どういう結果になっていようともあのウイルスは全てが常識破りだ。
意を決して、水槽の前まで来てそこに屈み中を覗き込む。
水槽の中を満たすのはただの赤い液体だが、どこかしら生気を帯び、まるでこちらを覗き返しているかのような薄気味悪さを持つ色と雰囲気だ。
水槽のはしからゆっくりと手を浸けていく。
そして手を回しそっと持ち上げると、深紅の液体から彼女の頭部が顔を出す。
その光景と感触に彼は声も出せない。
彼女の首元から確かに伝わる脈動と体温。
ひときわ目を引く橙色に染まった長い髪。
目を閉じていると人形のように整った顔。
彼はしばらくの間そこに佇んで、彼女を見守った。
Genomic Hero (ゲノミックヒーロー) シンノン @sinnon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。Genomic Hero (ゲノミックヒーロー)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます