第3話 追求者。

洋子の日記はそこで終わっていた。


洋子が自殺した日の前日の日記。私はこの日洋子と会っている。


なぜ止められなかったのか。そう思うとやり切れない気持ちになった。


「どうしました?」


 後ろから、声を掛けられた。遠藤明弘の親族の女性だ。


そうだ、私は今、遠藤家にいるんだった。


「いえ別に。ちょっと懐かしんでいただけです」


私が、そう言って振り返ると、棚の上に煙草が2箱置いてあるのが見えた。


「これは…?」


「ええ。体に悪いからやめなさいって言っていたんですけど。なかなか禁煙はできなかったようで」



「そうですか…。私はそろそろお暇します」


「また来てやってくださいね」


そう言う、女性を背に私は遠藤家を去った。


道を歩きながら、最後に洋子と会った日の事を思い出していた。


そう、あの日、洋子から近くの喫茶店に呼び出されたのだ。


 私が店に着くと、洋子はもうすでに席に座って待っていた。


洋子は私に気が付いた様子もなく空中を見つめていた。店員に断って同じ席に着く。


「洋子、洋子!」


 声を掛けると、ようやく我に返ったのかこちらを向いた。


「ああ、涼子。ごめんね、呼び出したりして」


「それはかまわんが、どうした?」


「学校の体育倉庫が燃えた火事知ってるよね?」


 もちろん、知っていた。学校でも大騒ぎになったから。


「もちろんだ」


「あの日、死んだんだよね…彩香ちゃん」


「ああ。泉もだいぶ落ち込んでいるようだな。お前もか? 洋子と彩香ちゃんは仲が良かったからな」


 洋子は首を横に振った。


「確かに、落ち込みはするよ。でも、ピンとこない。むしろ、あの子が死んでちょっとほっとしてる」


 その顔は無表情で感情は読みとれなかった。


「洋子、お前っ」


 私は、思わず立ち上がって胸ぐらを掴んだ。


洋子の表情に変化はない。むしろ穏やかに言葉を続けた。


「彩香はね。私の娘なの」


「えっ?」


 驚いた。そんな話は聞いたことがなかった。


年齢から逆算すると、10代頃の子供と言うことになるではないか。


「ちょっと事情があって、透先生の所で育つことになったけど。元々体が弱かったからお医者さんの元で育ててもらえて良かったかもしれないね」


「誰との子供なんだ?」


その問いには答える気がないのか聞こえてないのか、洋子は私の話を無視して続けた。


「彩香は、死ぬとき苦しんだのかなぁ。苦しんでないといいなぁ」


 彩香ちゃんの体は発見された時、原型をかろうじて留めていると言えるかどうかと言うぐらい、ススまみれだった。


その時の光景と臭いを思い出して胃の中から何かがこみ上げてきた。


「苦しんでないさ、あんないい子だったんだ。苦しんでるはずがない」


 私は何とかそう言った。


「そうだね。あの子はいい子だった。そして賢くて可愛い子だった」


「確かに、あの子は可愛かったな。自分を可愛く見せる方法を分かっていた節があった。それでなくとも、傷一つない綺麗な透き通った肌をしていたな、あの子は」


 それが、黒く燃えてしまった。皮肉な話だ。


洋子はしばらく人形のように固まっていたかと思うとゆっくりと口を開いた。


「……なんで死んじゃったのかなぁ。なんで、なんで、なんで、なんで。うああああああああ」


 洋子は私にすがりつくように泣き続けた。


私はただ、頭をなで続けることしかできなかった。


ファミレスを出ても、洋子は呆然としたままだった。


何とか家まで送り届ける事はしたものの、結局、私は洋子の命を救えなかった。


なぜ、洋子は死んだのか。


私はそれを知る必要がある。それを知らないと先に進めない。


だから、私は事実を知らなければならない。


洋子に何があったのか。それを知るために、洋子の日記を読んだ。


 やはり気になるのは最後の日記だ。一体洋子は何を知ってしまったのだろう。


 彩香ちゃんの死について何かあったのだろうか?


 それとも、他に何か…?


日記で気になる事が書いてあった。洋子は彩香の兄、つまりは泉の事を彩香の父親。透と呼んでいたらしい。


でも、学校にいる限りでは洋子は泉の事は泉として認識していたと思う。


泉の事は泉と呼んでいたはずだ。私もそう呼んでいるのを聞いている。


となると、洋子は家にいる泉を透と呼んでいた事になる。


家にいると言う所がキーワードだったのかもしれない。…いや、しかし、私は洋子が商店街で泉の事を透と呼んでいた所を見掛けた事がある。その時は不思議に思ったぐらいで気にもしていなかったのだが。


すると、学校にいる時と家にいる時の決定的な違い。それは何か…。


制服だ。



おそらく、制服を着ている時だけ泉の事を泉と認識していたのだろう。



そして、それを泉も受け入れていた。


確かに、泉と彩香ちゃんの両親が死んだあの事故は悲惨なものだった。


電車に飛び込んだのだ。遺体の損壊も激しかったのだろう。そして、両親の心中と言う理由。


どちらも、あの兄妹に衝撃は大きかっただろう。


そして、洋子にも。


事件の発端となったのが自分の実の娘だと言うのだ。ショックだったに違いない。



しかも、死んだのは自分がずっと好きだった人なのだ。


大学生時代の洋子は誰とでもすぐ仲良くなるような人物だったが、不思議と恋人ができた事が無かった。


 コンパなどにも積極的に参加するほうではなかったので聞いたことがある。恋人なんかを作る気は無いのかって。


「私、実はずっと前から好きな人がいるんだよ。それはたぶん叶わないんだけど。

でも、この気持ちがあるかぎりは誰かと付き合ったりはしないと思うよ。

それで、痛い目にあった事もあるしね」


最後は自嘲気味に笑っていた。それから、何回かその人物が話題に上ることがあったが、総じてその人の話をしている時の洋子は、楽しげで幸せそうだった。




…ちょっと、感傷に浸ってしまった。


洋子の日記で、もう1つ気になる事がある。


しずるさんと言う人物だ。


彩香ちゃんが亡くなった日、交通事故にあったらしい。それが原因で彩香ちゃんは体育倉庫にいたのだ。



…少し、調べてみるとするか。


私は、そう決めると、学校の近くのしずるさんの家に向かった。


家自体は、生徒や学校の先生数人に聞けばすぐに分かった。


しずるの家はしんと静まり返っていて人の気配がしない。


インターホンを鳴らしてみるが返事は無かった。ノックをして声を掛けてみるが、返事は無い。どうやら、誰も居ないらしい。


聞いた話によると、しずると言う人物はこの家で1人で住んでいたらしい。


いや、旦那がいるのだが、現在は海外に長期出張中だそうだ。


ここ数日、葬儀が行われたと言う話も聞かないので、あの交通事故で命を落としたと言う事もないだろう。


……とすると、入院しているのか?


この辺りで、大きな病院と言うと……広沢医科大病院だ。


広沢医科大病院は、何度も足を運んでいる場所だった。


 私は、病院に着くと顔見知りの看護師を見つけて聞いた。


「しずるさんという人の病室は何号室かな? お見舞いに行きたいんだけど」


「…えっと、303号室ですね。あれ? 今日は隆春君のお見舞いに来たんじゃないんですか?」


「隆春の所には後で、寄らせてもらいます」


私はそう言って、看護師に会釈をすると、303号室へと足を向けた。


303号室の扉に手を掛けて、ゆっくりと開く。


 中には誰も居ないのかしんと静まり返っていた。


部屋の中央にベットが1台置いてあり、その上に1人の女性が眠っていた。


綺麗な人だ。それが最初に持った感想だった。


これだけ管につながれていても綺麗だと思わせる何かがあった。


「しずるさん?」


意識が無いのか、声を掛けても返事は無い。


背後からがらりと扉の開く音がした。


「あれ? しずるのお知り合いの方かな?」


振り返ると、細身で長身の男が花が埋けてある花瓶を持って立っていた。


「ええ。私と言うか、私の友人がしずるさんにお世話になっていたもので、私もお見舞いにと」


「そうですか。ありがとうございます」


男は花瓶を枕元の台に置きながら言った。


「失礼ですけど、ご主人ですか?」


「え? ああ。そうです。静間と申します」


「私は、しずるさんの家の近くの学校で教師をしています。稲森涼子と言います」


静間はしばらく思い出すようしぐさをした後、言った。


「ああ、あの学校の。あそこの学校の生徒さんとしずるは仲がよかったみたいですね。よく電話で楽しそうに話してくれました」


そういいながら、しずるの頭をそっとなでた。


「もしかして意識は…?」


私が聞くと、静間は苦笑した。


「ええ。事故から1回も戻っていません。私も急いで帰ってきたんですが、一度もしずると会話は出来ていません」


「事故の内容を聞きましたか?」


「ええ、一応警察からは」


「もしよろしければ、私にも聞かせてもらえませんか?」


一瞬、怪訝な顔をしたものの静間はゆっくりと口を開いた。


「私達の住んでいる家は大通り、そうですね、稲森さんが勤めてらっしゃる学校の裏にある通りです。

そこの大通りから少し路地に入ったところにあります。

しずるはどうやら、何か用事があったらしく、あの事故の日、外に徒歩で出かけたようなんです。

そして、大通りに出ようとした時に、どうやら横の路地から飛び出してきた原付と接触したようです。

その、運転手はそのまま居なくなってしまったようで、しずるは道路に倒れているところを通りかかった人…どうも子供らしいんですけど、その人に救急車を呼んでもらったようです。

救急隊員が言うにはその子はいつの間にか居なくなっていたらしいんですけど」


…彩香ちゃんだ。


 話の内容に気になる所は特に無かった。洋子の日記に書いてあった事と相違点はない。


 …この事故は関係ないのか?


「あの? どうしました?」


静間が不思議そうに声を掛けてくる。


「いえ、すいません。辛い話をさせてしまって」


「大丈夫ですよ。しずるはきっと目覚めますから。私はそう信じてます。…あいつ、結構根性あるんですよ」


にこりと微笑みながら言う。その表情は少し硬かったが私はそれに気が付かないように笑い返した。


「そうですね。きっと」


「私は、これで失礼します。あまり、長居しても悪いですから」


「そうですか。また見舞いにきてやってください」


「ええ」


私は、静間を病室に残し、部屋を出た。


病院の出口へ向かおうとして、足を止めた。


「…そうだ、隆春の所に顔を出すのを忘れていたな」


きびすを返してエレベーターホールに向かう。大きな病院なだけあって、エレベーターは横一列に4機並んでいた。


上昇ボタンを押して、エレベーターの中に乗り込む。


手馴れた動作で6階のボタンを押した。エレベーターが静かに上昇を始める。


エレベーターの動く時の感覚があまり好きではないのだが、ここ半年でずいぶん慣れた


601号室の前に立って、無造作に扉を開ける。


中には1人の女の子が立っていた。


「あれ? ゆかりじゃないか」


そこに立っていたのは私が担任を持っているクラスの生徒のゆかりだった。


私が声を掛けると、ゆかりは手に持っていた千羽鶴を枕元に置いてこちらを振り返った。


「稲森先生? 偶然ですね?」


「どうしたんだ?」


ゆかりは枕元に置いた千羽鶴を指差した。


「クラスの皆で作ったんです。私が代表して持ってきたんですよ」


「そうか、そう言えば皆で作ってたな」


すっかり、忘れていた。そうだ、クラスの皆は隆春の事を心配して作ってくれていたんだった。


江口隆春は私のクラスの生徒だった。


性格は大人しく、見た目も地味ではあったけれども、芯のしっかりとしたいい生徒だった。


少なくとも私は気に入っている生徒の1人だった。


担任が生徒に上下をつけるなといわれるかもしれないが、そこは人間だから仕方がない。


そもそも、普段努力している人間と、努力していない人間だったら、努力している人間を評価するのは当たり前だろう。


隆春も努力している人間だった。


口数の少ない男ではあったけれども、一度、私にもらした事があった。


「僕には夢があるんですよ。人に言うのも恥ずかしいような夢ですけどね。でも、僕はそれを叶える為に勉強が必要だと思っているから、勉強をしているんです」


「夢に恥ずかしいも何も無いだろう? 言ってみな? 私が聞いてやる」


私がそう言っても隆春は小さく首を振って答えなかった。


「本当に言うほどのものじゃないんです。でも、僕に取っては大事なものなんですよ。先生」


そう言っていた隆春は


原因は嫌がらせだった。嫌がらせと言うよりもストーカー行為に近かったのかもしれない。


隆春の携帯電話の着信履歴には異様な数の不在着信が届いていたし、家にも嫌がらせの手紙や、不振な小包が何度も届いていたようだ。


しかし、隆春はまったく動じていなかった。むしろ、無視していたと言ってもいいぐらいだろう。


それがまた勘にさわったのか、嫌がらせはどんどんエスカレートしていったようだ。


私は、犯人を見つけようとしていたが、隆春はそれを戒めるように私に言っていた。


「先生。大丈夫だよ。犯人は今、熱くなってるだけなんだ。そのうち飽きるよ」


隆春はそう言って私に笑ったことがある。


しかし、私は犯人を探したのだ。いくら本人が気にしていないとしても私は、犯人を放置しておく気にはなれなかったのだ。


そんな、私に隆春は生意気にも言ったものだ。


「先生。先生の気持ちは嬉しいけど、先生は気をつけたほうがいいよ。先生の正義感はとても大事だと思うけど、正しいことは誰かにとって悪にしかならないこともあるんだよ」


「生意気言うな。高校生のくせに」


結局、私は犯人を知ってしまった。


そして、私は犯人に問いつめたのだ。犯人は犯行を認め、もう、やらないと言うことを約束させた。


しかし、その犯人が隆春に謝罪に行こうとしたその前日、隆春は時計塔から飛び降りたのだ。


原因がなんだったのかは今でもよくわからない。


しかし、この事件が無関係だとは思えなかった。隆春の友人達に聞いたところによると、隆春は精神的に追いつめられていたらしい。


やはり、それは友人達にもはっきりとは言っていなかったようだが、ストーカーまがいの嫌がらせが原因じゃないかと友人達は言っていた。


彼らも、隆春が嫌がらせにあっていたのは気がついていたらしいが、本人が相談も話しもしてくれなかったので力になれなかったと後悔していた。


確かに、隆春は周りの人間に悩みを相談するタイプではなかった。


もう少し、隆春が弱い人間で、周りの人間に頼るタイプであれば、こんな事にはならなかったかもしれない。


「先生?」


ゆかりが不思議そうに顔をのぞき込んできていた。


「ああ。ごめんごめん。ちょっとボーっとしちゃってな」


 今日は、どうも考え込んでしまう事が多いようだ。


「先生、大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ。そう言えば、ゆかりはもうすぐ引っ越すんだったっけ」


 ゆかりは小さくうなずいた。


「ええ。今までお世話になりました。先生にはいろいろと面倒をみてもらっちゃって。

別れるのはちょっと寂しいですけど。でも、兄もあんな事になっちゃいましたから」


「そうだな。さっき、私も焼香に行ってきたよ。…これからどうするんだ?」


「叔母の家にお世話になることになってます。引っ越すまでは、まだあの家に住んでるつもりですけど。


でも、なるべく早く出ていきたいと思っています。あの家は兄との思い出が詰まりすぎてますから」


「そうか。もし、困ったことがあったら、いつでも会いに来いな。お前は転校しても私の生徒だからな」


「ありがとうございます。先生は優しいですね」


「そんなことはないさ」


「隆春君、早くよくなるといいですね。そんなに、仲が良かったわけじゃないけど、これが最後だと思ったら、お見舞いをちゃんとしておこうと思って、それで、私がクラス代表できたんですよ」


 ゆかりは、少し照れくさそうに言う。


「そうか。見舞いにきたのは初めてか」


「ええ。もうちょっと来てあげればよかったなと今なら思います。あ、そうだ、先生。私まだ来月までは学校にいますから、もうしばらくよろしくお願いしますね」


「ああ。こちらこそ」


「じゃあ、私はこれで。しずるさんのお見舞いにも行きたいですから」


「しずるさんと面識があるのか?」


「ええ。彩香ちゃんを通してですけど、何度かは家に行ったこともあります」


「案内しようか? 私もさっき行ってきたんだ」


「いえ、大丈夫です。303号室ですよね。看護士さんに聞きましたから」


 ゆかりはそう言うと病室を後にした。私は、視線を隆春に向けた。


「クラスの皆、心配してるんだぞ。お前はいつまで寝てる気だ?」


 そう話しかける。時計塔から落ちた隆春はしたにあった木のおかげで命はなんとか助かったものの、意識はずっと失ったままだ。


しずると同じで一度も意識が戻っていない。


「さて、私も帰るかな」


601号室を出て廊下に立つ。


「さて、どっちだっけな?」


左右の廊下の先に見えるエレベーターを見る。


この病院はかなりの大きさの上に複雑な構造をしているので、初めて来たときは私は不覚にも道に迷ってしまったのだ。


エレベーターも3階で止まってそこから下に降りるには渡り廊下を歩いて違うエレベーターに乗らなければならなかったりする。


病院なのに、不便極まりないが、元々何かに使っていたビルを改装して造った物らしいので仕方がないかもしれない。


さすがに通い慣れたこともあって、最近は迷うことは少なくなったけれど、あまり好きにはなれない。


そんな事を考えながら病院を後にした。


そんな事があってから数日が経った。


洋子の死の原因については何も進展が無いままだった。


ここ数日、しずるの事故や、あの火事のあった日の事を生徒に聞き込みをしてみたりしたが、やはり本職でもない自分では特に手掛かりも見つからなかった。


 その日も最後の授業が終わって自分の机でくつろいでいると西垣先生が私に話しかけてきた。


「最近、あの火事の事を聞きまわってるんですって?」


 そんな事を言いながら隣の席に腰を掛けた。


もちろんそこは西垣先生の席ではない。


「いえ、別に聞きまわっているわけではないですよ」


「でも、何人かの生徒が先生に聞かれたと言っているんですよ」


 無駄に情報が早い男だ。


「気をつけてくださいよ。素人が変なことしないでください。

警察に任せておけばいいんですよ。特に最近この学校で嫌な事件が続いているんですから」


 隆春の飛び降りや明弘の遺体のことだろう。


自分が明弘の遺体を見つけたときの事を思い出したのかぶるっと体を震わせた。


「西垣先生が遠藤明弘を見つけたんですよね?」


「私の話、聞いてましたか?」


「ええ。でも一応確認です」


「ふん。そうですよ。私がいつものように学校の見回りをしていたら発見したんです」


「それは、毎日やってるんですよね」


「ふふん。自慢じゃないが、生徒指導部になってから欠かしたことはないな」


「そうですか。じゃあ、私はお先に失礼しますね」

西垣先生から逃げるように外に出ると、用務員さんがゴミを片づけているのが目に入った。


「お疲れさまです」


私が声を掛けると用務員さんが驚いたようにこちらを振り向いた。


「あ、どうも」


「大変ですね」


「いえ、仕事ですから」


 用務員さんは落ち葉の入った袋を2つほど抱えながら言った。


「それ、どこまで持っていくんですか?」


「焼却場にまとめて持っていくんですよ。ほら、あんな火事が起こったからね」


「そうですね…」


「私もね。あんな所に落ち葉の入った袋を置いておかなければあんなことにならなかったかと思うと、本当にね。私がもっとしっかりしていれば」


 また、落ち込んだように下を向く。


「もし、よかったらですけど、あの日、西垣先生に注意された日の事を話してもらえませんか? 話すことで少し気が楽になるかもしれませんし」


 用務員さんは、少しためらうような素振りを見せたものの、ぽつりぽつりと話し始めた。


「あの日もいつもと同じように校庭の掃除をしていて、集めた落ち葉を体育倉庫の横にいったん置いておいたんだよ。


私も歳だから、一度に焼却場に持っていくのはつらかったんだよ。

今までも、ずっと置かせてもらっていたんだよ。


ただ、今年、生徒指導の先生なった西垣先生はそれが嫌だったみたいでね。何度か注意されていたんだ。あの日も、落ち葉を置いたところで、そこの道路から注意されんたんだよ」


 そう言って、体育倉庫のすぐそばのフェンスを指さす。その先は学校の周りをぐるりと取り囲んでいる道路だ。


地元の人たちはよく抜け道などに使っている。


「外から注意されたんですか?」

「ああ。そう言えば、そうだね」

 そう言えば、火事のあった日とその前日は、西垣先生は休みを取っていたことを思い出す。


「何回注意されても言うことを聞かなかったのがいけないんだろうね。あの日の西垣先生はすごい剣幕でおこったんだよ。

さすがに私もびっくりしてしまってね。次の日はなるべく体育倉庫横に置かないようにしたんですけど、やっぱり無理でね。

情けない限りだけど。

ちょっと置かせてもらってたんだよ。そうしたら、その日も道を歩いてくる西垣先生が見えたんだよ。焦っちゃってね。

思わず、体育倉庫裏に隠しちゃったんだよ。本当に情けないね」


「その時、体育倉庫裏には誰かいましたか?」


 用務員さんは考え込むように黙っていたがしばらくすると口を開いた。


「いや、誰も見なかったねぇ」


「そうですか。ありがとうございます。あんまり気にしない方がいいですよ」


「わざわざ気を使わせて悪かったね」


 私は用務員さんに会釈をするとその場を離れた。


「先生、大丈夫だった!?」


 私が校庭を歩いていると後ろから声を掛けられた。振り返ると私のクラスの生徒が2人立っていた。


「何のこと?」


「いや、西垣の奴に稲森先生のことしつこく聞かれて、つい、先生があの火事のこと調べてるって言っちゃったから」


不安そうに言う。ああ、その事か。私は首を横に振る。


「大丈夫だよ。むしろ、変に嘘をつかなくてよかった。調べてるのは本当のことだしな」


2人は少し安心したふうに胸をなでおろした。


「そっか、よかった。気にしてたんだ」


「今日は、ゆかりは一緒じゃないのか?」


この2人はいつもゆかりをあわせて3人で遊んでいるので気になって聞いてみた。2人は顔を見合わせて言う。


「ゆかり、最近ちょっとつきあいが悪いんだよね。今日も授業が終わるとさっさと帰っちゃったし。昔から、マイペースな子ではあったけど」


「そうそう。あの日もそうだったよね。すぐ行くから先にカラオケで待ってて言っておいて来たのはカラオケの時間が終わる頃だったもんね」


「あの日っていつだ?」


私はなんとなく気になって聞いた。


「えっと…そう、ちょうど火事のあった日だよ」


「ゆかりは時間に遅刻するのはよくある話なのか?」


「うーん。そんなに頻繁にあるってわけじゃないけど。たまにあるよね」


2人は頷きあう。


「そうそう。あの日、ゆかりを待ってたら西垣の奴をみかけたんだよね。学校の近くのカラオケだったから思わず隠れたんだよね」


「そうそう。あいつ、生徒指導部になってからうるさいからね。別に悪い事してるわけじゃないのに、すぐ文句言うんだよね。自分の生徒も信じられないのかっての」


「知ってる? あいつ毎週木曜日に見回りみたいなことしてるって」


「知ってる知ってる。それで生徒を注意して、自分は良い先生だって思ってるみたい」


「だから、みんな木曜日は学校から離れた場所にしか行かないもんね」


2人は会話が盛り上がってきたのか、私の存在を忘れたように話し合っていた


「それ、いつもやってるのか?」


 私が、2人の会話に口を挟む。


「見回りのこと? いつもやってるみたい」


「いつも決まって木曜日だよね」


「そうか。ありがとう。参考になった」


2人はお礼を言われたことに不思議そうな顔をして首をひねっていた。


次の木曜日、私は学校の裏口の木陰に隠れていた。


今日も西垣先生が例の見回りに行くんじゃないかと思ったからだ。


 あの火事の日、西垣先生が休んでいたこと、その前日に用務員さんに注意していたこと、遠藤明弘の遺体を見つけたこと、なぜか、西垣先生の名前が妙に絡んでくる。


何か意味があるのか?


 私がそんなことを考えていると、西垣先生が職員用のげた箱から出てきた。


そのまま裏口を抜ける。


私は数メートルの距離を置きながら後ろをついて歩き始めた。


 西垣先生は明確な目的があるように一直線に歩いていた。


この方向は商店街の方だ。よく学校の生徒たちが遊んでいる場所だ。


 商店街に着くと、ゲームセンターやカラオケの店内を覗いているようだった。


時折、生徒を見つけては「さっさと家に帰れ」等、注意をしているようだった。


 そんな事を2時間ほど続けていた。


本当に生徒に注意をして歩いているだけか…そう思って、帰ろうと思ったとき、西垣先生が商店街を出て学校の方へと歩き始めた。


 このまま家に帰るのかと思っていたのだが、どうやら違うらしい。


確か、西垣先生の家は学校とは反対方向にあったはずだ。


学校が近づいてくると、急に周りをきょろきょろと見回し始めた。


後ろを急に振り返った。私はとっさに路地に体を滑り込ませる。


体の上半身だけをゆっくり出して西垣先生を覗く。


 どうやら、私には気がつかなかったようだ。


もう一度、周りを見回すと路地に入っていった。


私は、駆け足でその路地に向かう。急いで路地を曲がると目の前に西垣先生がいた。


慌てて、路地を戻って近くの壁に張り付いた。


 西垣先生は民家の前に立っていた。どうやらインターホンを押して、相手が出るのを待っているらしい。


待っている間も周囲が気になるのかそわそわと辺りを見回している。


 しばらくすると、西垣先生はインターホンに何事かを話し始めた。


その顔は子供のように楽しげだった。さらに、その様子を見ていると、民家の中から一人の女性が出てきた。


年齢は20代後半という所だろうか。2人はしばらく立ち話をした後、屋内に入っていった。


翌日、私はその家の前に立っていた。


インターホンを押すと「はい、田崎です」と返事があった。


「あ、お久しぶりです」


「あ、稲森先生じゃないですか。お久しぶりです。いま玄関開けますね」


田崎さんは、去年の3月に学校に呼んだ人だった。


フラワーアレンジメントを教えている人で、学校で一度行事でやってもらったのだ。


その企画の担当だったのが私と西垣先生だったのだ。


「どうぞ中に入ってください」


 田崎さんは突然の訪問した私を快く招き入れてくれた。


家の中はきれいに片づいており、シンプルだがおしゃれな部屋だった。


 一人暮らしとは思えないほど綺麗だ。


私の部屋は正直言って片づいている方ではないので素直に感心する。


「今日はどうしたんですか?」


 ソファーに座っていた私に紅茶を出しながら聞いてくる。


「いえ、久しぶりに昨日家の前を通ったものですから。元気にしてましたか」


「ええ。元気にしてます。おかげさまで。ちょっと仕事は忙しいですけどね」


「フラワーアレンジメントの教室ですか?」


「ええ。おかげさまで、生徒さんも来てくださいますので」


「休みの日はあるんですか?」


「そうですね、木曜日は教室をお休みさせていただいてますので」


 紅茶を一口含んでにっこりと笑う。


「最近、西垣先生とは会ってますか?」


「ええ。時折来てくれますよ」


「仲良いんですね」


「いえ、いや、そうですね。良くしてもらっています」


表情を伺うが特に変化はない。


「…いや、やっぱりこう言うのは向いてないな」


 私は両手をあげていった。


「何のことです?」


「こういう、腹の探り合いは苦手なんだ。ぶっちゃけて聞こう。西垣先生と付き合ってるのか? 西垣先生には家庭があることを知ってて」


 田崎さんは不思議そうな顔をする。


「え? 私がですか? そんな事ありませんよ」


 私は黙ったまま見つめる。


数秒間経った後、私は両手をあげた。


「降参。私の勘違いみたいだ。申し訳ない」


「いえ、びっくりしましたけど。気にしてません」


「お邪魔しました。教室がんばってくださいね。あ、そうそう。西垣先生に毎週木曜日だけ商店街の見回りするのやめた方がいいですよって言っておいてください。…家庭が大事ならね」


 背後を気にしながらも私はそのまま、家を立ち去った。


一旦学校に戻り、業務をこなした後、帰ろうとすると、西垣先生が近づいてきた。


「稲森先生。ちょっと」


あごで生徒指導室をさす。部屋に来いと言う事だろう。


…行動の早い事だ。


私は西垣先生について生徒指導室に入った。


中には小さな机が2つ置いてあるだけだ。


西垣先生が椅子をすすめてきたので遠慮なく座る事にする。


西垣先生がその向い側に座った。そして、ため息と同時に言葉を吐いた。


「先生。私は色々な事をかぎまわるのはやめてくださいって言いませんでしたか?」


「ええ。言いましたね」


「まだ、あの火事の事を探ってるらしいじゃないですか」


「ええ」


飄々と答える。


「私の事もかぎまわってるみたいですね」


睨み付けるように言う。


「情報が早いですね。どこからそんな話を?」


西垣先生は、私の疑問には答える気がないらしく、いらだつように机の上に置いてあった、ボールペンをまわし始めた。


「私を疑っているんですか? あれは実は事故ではなく、私が火を点けたとでも?」


「いえ、そんな事は疑っていませんよ。警察が煙草の火で燃え立って言うなら、それが事実でしょう」


「当然です」


当たり前だと言わんばかりに胸をそらす。


「だいたい、あの火事のせいであの日行われるはずだった、職員会議も中止になったんでしょう? 迷惑な話ですよ。いつだったか、誰か生徒が飛び降りた時もそうでしたね。まったく、こちらの都合も考えて欲しいものですな」


ぎりと、奥歯をかみ締める。そうしないと、西垣先生に殴りかかりそうだった。


「先生は毎週木曜日に商店街の見回りをしているそうですね」


私はまっすぐ目を見ながら言った。


「ええ。そうですね。風紀の乱れを直すのも私の仕事ですから。

たかが、買い食いやカラオケと思うかもしれませんが、そういうところから風紀という物は乱れていくのですよ」


胸を反らして少し自慢げな態度をとる。


「立派な志ですね。私も見習いたいところです」


「いえいえ。私などまだまだですよ」


「また謙遜なさって。あ、そういえばこの前、田崎さんと会ったんですよ。あの人は元気にやっているんですかね?」


「ええ、元気にやっているようですよ」


 西垣先生が、どうということもなく答える。


「最近、会われたんですか?」


「ええ。ちょこちょこ会わせてもらっていますね。

フラワーアレンジメントのイベントを稲森先生と一緒に企画したでしょう?」


「3月の話ですね」


「そうです。あれ以来、私はあれが初めてフラワーアレンジメントという物を見たんですが、あれは良いものですね。

また機会があれば、学校に招きたいと思ってたまに田崎さんと連絡を取っているんですよ」


すらすらと言葉が紡がれてきた。まるで考えてあった台詞のようだ


「私もいいと思いますよ。あ、そうだ。田崎さんはフラワーアレンジメントの教室を開いているみたいですよ。

西垣先生も一度行ってみたらどうですか?」


「それも良いかもしれませんね」


 西垣先生がにっこりと笑う。


「あ、そうそう。教室の定休日は毎週木曜日らしいですよ」


 顔が笑顔のままひきつった。


「だから大丈夫ですよ。見回りの日は休みなので違う日に行けば教室に通えますよ」


「何が言いたいんです? 稲森先生」


「不倫は良くないって話ですよ。西垣先生」


直球を投げてやる。西垣先生の顔が平静な顔に戻る。


「何か勘違いしてませんか? 私と田崎さんがそんな関係だと?」


「ええ。確信していますよ」


「はっ。まったくのでたらめをよくもそんな自信ありげに言えますね」


「じゃあ、なぜ、奥様に嘘をつくんですか?」


ぴりっと部屋の空気が緊張するのがわかった。今頃、西垣先生の頭の中はフル回転で動いているのかもしれなかった。


 あまり、アドリブの利く方には見えないが。


なんの話ですか?」


「あの、火事のあった日と、その前日先生は学校をお休みになっていましたよね?」


「それがなにか?」


「あの火事のあった日、放課後、職員会議が開かれる予定でしたよね。

その会議に必要な書類の場所がわからなかったので、家に電話をしたんですよ。

携帯忘れてきてましてね。家の電話番号は申し訳ないですけど、職員名簿を見させてもらいました。

電話をしたら、奥様がでてくれましたよ。当然、私は西垣先生はご在宅ですか? って聞きました。

そうしたら奥さんなんて言ったと思います?」


「今、主人は家に居ません。って言っていたんです。あの日、先生はどこに行っていたんですか?」


「ちょっと、外に出かけていたんじゃないですかね。あんまり覚えていませんけど」


「ちょっと、外に出かけて用務員さんにゴミの注意をしていたんですか?」


「え?」


「私が電話を掛けたのはちょうど、用務員さんが先生に注意された頃なんですよ」


嘘だけど。


「え、いや。そうなんですか?」


あからさまに、動揺しているようだった。冷静に考えれば、別に電話した時間が同じ頃だろうがなんだろうが、いくらでも言い訳はできると思うのだが、やましい事があるから、冷静になれない。


「ええ。そうです。先生はちょっと出かけるだけでわざわざ、学校の側まで来たんですか? 聞いた感じだと歩きで学校まで来てたみたいですけど」


「いや、それは…」


「あ、見回りですか。休みの日まで、お疲れ様です」


「そうです。そうですよ。見回りをしていたんです。自分から言うのもどうかと思いますが」


「でも、あの日は火曜日ですよね。見回りの日は木曜日じゃなかったんですか?」



西垣先生の顔が青くなった。


「ところで、田崎さんのフラワーアレンジメントって家でやっているんですね。看板に書いてありましたよ。シンプルな部屋だと思ったんですけど、あれは教室としてあの部屋を使ってるからスペースを広く取っていたんですね」


「え、ええ。そうです。田崎さんは、あの家でフラワーアレンジメントの教室をやっているんですよ。私も見学した事があります」


少し、ほっとした顔をする。


「先生は、そのフラワーアレンジメント教室から逃げていたんじゃないかと思うんですよ」


「これは、私の想像に過ぎませんよ。違ったらすぐに、文句を言ってもらってかまいません。あの火事のあった日とその前日、先生は学校を休んでいた。あの日、先生は田崎さんの家に泊まりこんでいたんじゃないかと思うんですよ。

そして、奥さんには出張とかそんな事をいって家を出た。そして、田崎さんと逢引をしていたわけです。

しかし、フラワーアレンジメント教室のお休みの日は木曜日。

当然、その日もその次の日も教室はあったわけですよね。

その教室をやっているあいだ、先生は時間をもてあましていたんじゃないですか?

さすがに、教室に参加するわけにも行きませんし。

だから、ぶらぶらと散歩していた。

その時、ゴミを体育館横においている用務員さんを見かけた。

何度、言っても言う事を聞かない用務員さんに、相当腹が立っていたんでしょうね。

思わず、学校の外から注意してしまった」


「でも、あの火事が起こって焦ったんじゃないですか?

 自分が注意した事が引き金となって火事が起こっている。あの日、用務員さんに声が掛けた事を奥さんに知られるとまずいと思った。

 だって、あの日は泊りがけで出かけていたはずで、学校に居てはいけないはずだから。

 警察には正直に話したんでしょう。下手に嘘をついて自分が火事と関わられていると思われても困る。

 警察もそんな話を奥さんにする事は無いだろう、そう踏んだ。

 実際、警察が奥さんと話をする事もありませんから、それは正しい。

 先生は安心していたんでしょう? でも、私があの火事の事をかぎまわり始めた。だから、また心配しなければいけなくなった。

だから、私に火事の事を調べるなって言ってきたんでしょう?」



西垣先生は黙ったままだ。


「でも、私も知りましたよ」


「…何が目的だ?」


 西垣先生の表情が変わる。目が完全に笑ってなかった。私は、首を横に振る。


「別に、先生が浮気よしようとどうしようと、私にはどうでもいいことなんですよ。私の目的は、あの火事の真相が知りたいだけです」


「真相も何も、あれは煙草の火が原因のただの火事だろう?」


「先生。嘘をつくのはやめましょう。先生は嘘をつくと右の口角があがる癖があるんですよ」


西垣先生がぱっと、口元に手をやる。そこで、気がついたのかはっとした表情になる。


「嘘ですよ。そんな癖なんて知るわけないじゃないですか。こんな古典的な手に引っかかるとは思いませんでしたよ」


ぎりぎりと奥歯をかみしめているのだろうか。今にも歯ぎしりが聞こえてきそうだった。


「正直に話してください。話してくれれば、浮気の話を奥さんにするつもりはないんですよ。私は」


「…私は、私は悪くない。私が何かした訳じゃない。私はただ何もしなかっただけなんだ。

あの日、火事のあった日だ。あの日、たしかに学校の側にいた。

時間を持て余していた私は学校の体育館裏に向かっていた。前日、注意した用務員が、またゴミを置いてないかどうか、ちょっと確認しようと思ったんだ。

遠くから少し、覗くだけにしようと思ってたんだ。最初、遠目から見たときにゴミはなかった。

だから、私は満足したんだ。あの用務員はようやく言うことを聞いたんだって。

でも、私はしばらくして気がついた。何か焦げ臭いんだ。何の臭いかわからなかった。気になって体育倉庫の側に近づいた。

近づけば近づくほど臭いは強くなった。そこで、私はゴミが燃えているのを見つけたんだ。

あの用務員、体育倉庫の裏に隠せばわからないとでも思ったんだろうな、だからあんな場所にゴミがあったんだ。

なぜ、火がついているのかはその時は、わからなかった。誰かに知らせようと思ったんだ、初めは。

でも、ここで誰かにこのことを知らせれば、私はここにいたことがばれてしまう。

もし、これで大事になれば、なぜ私がここにいたのかって言う話になってしまうだろう。それはなるべく避けたかったんだ。

だいたい、あんなのすぐ誰かが気がつくと思うだろう? 私だって気がついたんだ。

だから、私はそれを見なかったことにしてその場所を去った。知らなかったんだよ。

中に人がいるなんて。だから、私は悪くないんだ。だって悪いのは用務員だろ?

それと、煙草を捨てた、遠藤の奴が悪いんだ。いや、そもそも、学校に妹を連れてきていた泉の奴も悪いんだ。

私は、初めから部外者を学校の中に入れるのは嫌だったんだよ。あいつが、あいつらが悪いんだよ。稲森先生もそう思うだろ?」


西垣先生は私にすがるように言い寄ってくる。


私は、何も言わず、席を立った。


机の上に置いてあった、ボールペンの先を西垣先生に向ける。


「ええ。先生は悪くないですね。ただ、最低なだけです。…さようなら、人殺しさん。お疲れさまでした」


 私は、それだけ言い残すと、固まったまま、動かない西垣先生の胸ポケットにボールペンを刺して、生徒指導室を後にした。


結局、無駄足だった訳だ。私は、帰路につきながら考えていた。


色々、調べまわってみたものの、結局、洋子につながる事は何もわかっていない。


 洋子、なぜお前は自分で自分の命を断ったんだ? お前に何があった? どれだけ考えてもわからなかった。



こつこつと足音が聞こえた。


初めは気にしていなかったが人通りの少ない道まで来て、足音が耳につくようになった。距離はそんなに近くはない。


私が止まると、その足音も止まった。


また、歩き始めると、足音もついてくる。


それほど大きな音ではないが、一度気にし始めると、ずっと耳につく。


曲がり角を曲がったところで駆け出す。


またすぐに角を曲がる。


 その直後に、足音も急に駆け足になった。


私は走る速度を緩めずに、路地に駆け込んだ。


そこに、ヘルメットを被った男が立っていた。


肩に衝撃が走る。


ヘルメットの男が持っていた金属バットが肩に食い込んでいた。


ズキンと鈍い痛みが残る。


ヘルメットの男がもう一撃食らわせようと、手に持っていた金属バットを振りあげた。


 きびすを返して、駆け出す。


ヘルメットはすぐ追いかけてきた。


相手の方が足が速いらしい。思わず舌打ちする。


少しずつではあるが、距離が詰まってきている。


曲がり角を目に付いた場所から曲がる。


さっきから、肩の痛みが増してきている気がする。


痛いというよりも、熱い。


次第に息が続かなくなってくる。


いくつ目かの曲がり角を曲がったところで足が止まる。


行き止まりだ。


戻ろうとして、後ろから足音が聞こえてきた。


肩の痛みがぶり返した。


体がすくむ。


とっさに民家の庭に入り込んで植木の茂みに身を隠した。


後ろに聞こえていた足音が次第に大きくなる。


すぐ側で足音が消える。


茂みに隠れているので、ここから道路の様子は見えない。


ただ、人の気配だけは感じることができた。


しばらく、気配は立ち止まったまま動こうとしない。


 ものすごく長い時間が経ったかと思っていた頃、気配がゆっくりと動き始めた。


かつんかつんと金属がアスファルトに当たる音がする。


その音はゆっくりと、ただし、一定の間隔で響く。


体が震えるのがわかる。


情けない。


そう思った。震える体を腕で押さえ込もうとする。


腕を動かすと肩の痛みが増した。その痛みがまた、体の震えを大きくした。


 もう一度、あの金属の棒が自分の体に当たることを想像すると恐怖で吐き気がした。


 かつんかつんと音が近づいてきた。


自分が隠れている民家の目の前でその音が止まった。


物音をたてないように身じろぎひとつしない。


息も止める。気を抜くとまた震え出しそうな体を無理矢理押さえ込んだ。



目の前で音が止まった。


心臓の動機が激しくなる。


どくんどくんと自分の心臓の音が聞こえる。


この音で居場所がばれるんじゃないかと思って自分の心臓がある胸の部分を強く握った。


しばらくして、がつんと大きな音がした。続いて、駆け足で走っていく音が聞こえた。


 それから、数分間はその場所で動けなかった。


なんとか気力を振り絞って体を起こす。


ゆっくりと慎重に辺りを見回す。人の気配はしなかった


道路にそっと顔を出す。人影は見えない。


ほっと安堵感が全身を満たす。どうやら、違う場所に行ったらしい。


全身が脱力していた。よろよろと来た道を戻る。


 あのヘルメットは誰だったのか。冷静に考えれば、いや、冷静に考えなくても明白だった。


あれは西垣先生だろう。背格好も似ているし、来ているスーツも同じだったと思う。


 路地を曲がると、目の前が急に暗くなった。


顔を上げると目の前にヘルメットが金属バットを振り被っていた。


直後、わき腹に衝撃が走った。私は大きくたたらを踏んで地面に倒れた。


 痛みで息ができない。


ヘルメットはずっとこの角で身を潜めていたのだ。


じっと物音をたてず。私がこの路地に隠れていると信じて、私が出てくるまで、ずっとここに立ち尽くしていたのだ、その執念が純粋に恐怖だった。



 かつん。





かつん。



バットがアスファルトに当たる音で意識が現実に戻された。


立ち上がろうとして、足に力を入れる。


がくんと力が抜けてまた地面に転がった。足が震えてうまく立つ事ができなかった。


 足に痛みが走る。ヘルメットが私の足を金属バットで殴った。


じりじりと地面を這うようにヘルメットから離れる。


ヘルメットは急ぐわけでもなく、一定の早さで私に近づいてくる。


ヘルメットの陰が少し先の曲がり角まで延びていた。


「西垣。何をしているんだ?」


 その言葉にはまったく反応を示さない。


「私は、お前のことに興味なんてないと言ったはずだ。

私に危害を加えれば、自分の浮気がばれる可能性が増えるだけだと、どうして気がつかない」


 声が震えないように、しゃべるのが大変だった。


「はっきり言おう、私が知りたいのは火事の件だけだ、貴様の話は全く持って、私の知りたいことではなかった。

無駄で、無意味で、無力だ。

私はまだ、何も知らないのだ。あの日何があったのか。

こんなところで貴様に屈している場合じゃないんだ。

でも、貴様はこれで終わりだ。そんなヘルメットで隠しきれると思うな。教師生命も家族関係もこれで終わりだと思え。終わらせたのはお前自身だ」


 大きな声で、はっきりと告げてやる。ヘルメットはしばらく、立ち止まっていたかと思うと、突然大きな声を、いや、声とも取れないような叫び声をあげて、こちらに向かってきた。


私は、渾身の力を振り絞って、立ち上がると、ヘルメットに向かって走り始めた。


 ヘルメットが大きくバットを振りかぶる。


「何してるんですか!!」


 突然、ヘルメットの後ろから悲鳴にも似た声がした。


ヘルメットの動きが一瞬止まる。私はまったくスピードを緩めず、ヘルメットに全速力で体当たりをする。


 ヘルメットはバランスを崩して、後ろに倒れた。


私は、倒れないように全身に力を込めて、そのままヘルメットの横を通り過ぎた。


「稲森先生!!」


 さっき、声を上げた人物が私の名前を呼ぶ。


「どうしたんですか?」


 息が切れて、その質問に答える余裕はなかった。


「とにかく、こっちです」


その人物、ゆかりは私の腕を取るとぐいぐいと引っ張って走り始めた。


何度も何度も路地を曲がる。


時には民家の庭を抜けて路地から路地を渡り歩く、どれぐらい歩いたか、走ったかわからないぐらいになり始めた頃、見たことのない公園についていた。


 私はゆかりに手を取られたまま、ベンチに座らされる。


ゆかりは、公園の水道で自分のハンカチを濡らすと、私の肩に当ててくれた。


「ああ、ありがとう」


 ひんやりとした、感覚がとても気持ちよかった。


「ここは、どこ?」


「私の家の近くの住宅街の公園です。住宅街のど真ん中にあるので、この辺りに住んでる人ぐらいしか知らない、穴場の公園ですよ。

ここなら、この時間でも無人になるって事はないと思うし、たぶん、西垣先生もこの場所は知らないと思う。

それより、いったい何があったんですか?」


「どうして、お前もあそこに居たんだ? いや、おかげで助かったわけだけど。偶然じゃないだろ?」


 ゆかりの表情が少し硬くなる。


「実は私、生徒指導室で稲森先生と西垣先生の話をたまたま聞いちゃったんです。

ごめんなさい。初めは盗み聞きするつもりなんてなかったんですけど」


 聞こえてきた話の内容が気になったという話か。


無理もないと言えば、無理もないと思う。

「そうか…」


「でも、先生。どうして西垣先生が浮気してるなんてわかったんですか?」


「分かってなんかいなかったよ」


苦笑しながら言う。


「ええ!?」


 ゆかりが驚く。


「浮気を疑ったのは田崎さんと会っているときの西垣の顔を見たからだよ。

西垣は子供のように笑っていたんだ。まるで、大切なおもちゃを与えられたような子供の顔。

 それを見て、なんとなくピンと来た。きっと、この2人には何か関係があると思った。それが、西垣の片思いなのか、それとも、浮気になっているのかは分からなかったけど」


 ゆかりはゆっくりと横に座って、私の話を聞いていた。


「それで、次の日に田崎さんの家を訪ねてみたんだ。家は綺麗に片づいていたよ。

部屋のあちこちには自分がいけた花が何個も飾ってあった。でも、その部屋に、特にアレンジも何もしていない、正直言ってあまり趣味の良くない花が無造作に飾ってあった。

おかしいなと思ったんだ。田崎さんみたいに物を作る人たちが、あんな花を無造作に飾っているなんて。

自分の空間に、自分の好きじゃないものをおいておく事なんてできるんだろうか? しかも、まさに自分がやっている花なのに。

 そこで、考えた。あの花は西垣が田崎さんにプレゼントしたんじゃないかって。

好きな相手の贈り物だから、そのまま飾ることを良しとしていたんじゃないかって。

 だから、聞いたんだ。田崎さんは西垣と付き合ってるのかって。

でも、さすがは女性だね。まったく表情を変えずにさらっと流されたよ」


 苦笑して、肩をすくめる。あの時の田崎さんは無表情になることも、動揺することもなく、驚いた表情を作っていた。


「それじゃあ、そこでもまだ、浮気してるなんて確証はなかったんだ?」


ゆかりが不思議そうに聞いてくる。


「そうだね。だから、田崎さんが話してくれないなら、西垣に話してもらおうと思ったわけだ。田崎さんとは一度一緒に仕事をしているし、話をしている感じでは愛人としての自分の立場を良しとしている人ではないと考えたんだよ。

 だって、彼女は決して表には見せないが自分に自信とプライドを持っている人だったからね。

2番手で甘んじる人ではない。だから、田崎さんの家から出るときに私は、浮気に関してかなりの確信を持ってると匂わせた。

 そうすれば、田崎さんは必ず西垣に連絡を入れると思ったんだ」


「浮気を疑ってる人が居るからばれないように近づくなって言ったんだ」


 ゆかりが、ひらめいたといった感じで言う。私はそれに苦笑を返した。


「逆だよ。浮気を疑っている人が居るから、今の内にその疑いを解いておいてって言ったんだよきっと。

一応、こう弁解すればいいんだよ、みたいな話はしていたと思う。

田崎さんは頭のいい人で、西垣の性格をよく知っていた。だから、自分の考えた言い訳が見破られたってかまわないと思っていた。

西垣はアドリブがきくような性格じゃなかったから、私に何か言われればあっと言う間にしどろもどろになるだろうって田崎さんは思っていたと思う」


「それじゃあ、結局浮気はばれちゃうじゃないですか」


「田崎さんはきっと、ばれてもかまわないと思っていたんじゃないか。

西垣の奴は浮気をする事はできてもきっと家族を捨てるなんて事はできなかったんだ。

きっと田崎さんにも離婚するとか何とか言って、はぐらかしていたんだろう。

だから、田崎さんは浮気がばれて、家族が崩壊してしまってもかまわなかった。

そこから、西垣を自分のところに引き戻す自信があったんじゃないかな」


 公園の前の道を子供たちが走り抜けていく音が聞こえた。


「案の定、西垣は少し、揺さぶっただけですぐに動揺したよ。

私は、別に何も決定的なことを言ってないのに自分からぼろを出していった。

結局、私の本当に知りたかったことは何も知らなかったみたいだけどな」


 空を何となく見上げる。殴られた足とわき腹、それに肩が痛む。


ゆかりは感心したように私の方を見ていた。


「先生、なんか探偵みたいですね」


「テレビの見すぎだよ」


私とゆかりは2人で笑いあった。


「…なぁ、ゆかり。私からも1つ質問してもいいか?」


ひとしきり笑った後、私は言った。


「何ですか? 先生。何でも聞いてください」









ゆかりの動きが止まる。


「何言ってるんですか先生?」


「聞こえなかったか? 言い直そうか? しずるさんを跳ねたのはお前なんだろ?」


 ゆかりは私の方を凝視していた。


「私がしずるさんを跳ねた? なんでそんな事言うんですか?」


「おかしいと思ったんだ。あの日、広沢医科大病院で隆春の見舞いに来ていた時、お前は見舞いにくるのは初めてだって言ってた」


「それがどうしたって言うんですか? 確かにあの日、初めてあの病院に行ったんですよ。それが何だって言うんですか。お見舞いに来ていなかったクラスメイトなんて他にもいっぱい居るじゃないですか?」


「確かにその通りだな。でも、問題はそこじゃない。あの日、しずるさんのお見舞いにあの後行ったんだろう?

 私はあの時、言ったはずだ。案内してやろうか? って。でもお前はそれを大丈夫だと断った」


「それがどうしたんですか?」


 ゆかりは困惑した表情を浮かべている。


「道に迷わなかったか? あの病院は入り組んでいて複雑な建物なんだ。私も通い始めた頃はよく道に迷って困ったんだ」


「それは、初めて来たから、道に迷いやすいって事も分からなかったんですよ」


「うん。確かにそうだな。だから私もあまり気にしていなかった。

でも、ふと思ったんだよ。案内を断ったのは道に迷いやすいのを知らなかったんじゃなくて、もう何回も見舞いに来てるんじゃないかって、そう思ったんだ」


「私は、あの日、初めて隆春君のお見舞いに行ったんです」


「ああ、分かってるよ。私が言っているのはしずるさんの方。

でも、何でしずるさんのお見舞いに何回も来てるんだ? そこまで、仲のいい関係だったのか? そうとも思えない。

でも、しずるさんの旦那はゆかりが見舞いに来ている事なんて一言も言ってなかった。

もしかしたら、来ていることを知らないのかと思ったんだ。

なぜ? 私は同じ学校の先生だって名乗ったんだ。

ゆかりの話が出たっておかしくないだろう?

もしかして、見舞いに来ているのを知らないんじゃないか? なぜ? なぜお前はこっそり見舞いに来てるんだ?

もしかして、しずるさんの様子を見に来てるんじゃないか? 目が覚めてないかどうか?

目覚められたら困るから。自分が犯人だとばれてしまう」


「先生!! いい加減にしてください!」


 ゆかりがベンチから立ち上がって私の頬を平手で打った。


「悪い。言い過ぎた。ひとつ聞かせてくれ。ゆかりはしずるさんの見舞いに行ったのはあの日が初めてだったのか?」


 ゆかりは、黙ったまま私をにらみつけていた。


「いえ、何度か様子をうかがいに行ってました。

でも、それは容態が気になったからです。

旦那さんとは面識がなかったのでなるべく、旦那さんが居ないときを見計らってお見舞いに行ってました。

 しょうがないでしょう。だって、私、あの事故目撃してたんです。容態が気になったって仕方がないじゃないですか」


「あの事故を見てた?」


「いえ、正確には、道で倒れているしずるさんを見たんです。私、あの日、放課後友達とカラオケに行く約束をしてて、それで、1回家に帰ってからいこうと思ったんです。

友達に先に行ってもらって、私は家に帰りました。

家から出て、商店街の方にいこうとしたら突然、ブレーキ音がしたんです。

私、驚いてそっちに様子を見に行ったんです。

そうしたら、道路にしずるさんが倒れていて。

地面は血で真っ赤になってて、その血で真っ赤に染まったウサギのぬいぐるみが落ちてて、周りには誰もいなくて、ものすごく怖かったんです。

私、怖くて。思わずそこから逃げ出しちゃったんです。

救急車を呼ばなきゃいけなかったのに。…私、逃げちゃった」


 ゆかりはその場に崩れ落ちるように膝をついた。


私は痛む体を無理矢理動かして、肩に手を置く。


「そうか。大変だったな。でも、もう良いんだ。良いんだよ。もうやめよう。…嘘をつくのは」


 はっと、ゆかりがこちらを振り向いた。私はそれを無表情で見つめ返す


「先生! 信じてください!」


「信じてるさ。ゆかりが逃げたっていうのは本当の事だと思う。

でも、それは、自分が事故を起こした相手の姿を見て怖くなったんだろう?」


「先生!!」


 ゆかりは大粒の涙を流しながら私にすがりついてきた。


「…ウサギ」


 私がぽつりとつぶやいた。ゆかりは涙を拭きながらその言葉に反応する。


「ウサギがどうかしたんですか?」


「ゆかりは血塗れになったウサギのぬいぐるみを見たんだよな」


「ええ。そうです。しずるさんの頭から血が出て、その血がぬいぐるみに」


「それ、いつ見たんだ?」


「しずるさんが倒れてるのを見たときです。決まってるじゃないですか」


「そのウサギ、事故現場には残ってなかったんだ。どこで見つかったんと思う?」


「…どこ? あっ!?」


 ゆかりが何かに気がついたように口元に手を当てる。




「あのウサギ、彩香ちゃんが持ってたんだよ。

体を燃やされながらも体に抱えてしっかりと守ってた。

あの事故の目撃者はいないって思ってた? 実はいるんだよ。

彩香ちゃん。あの子は、あの事件の一部始終を見てた。

救急車を呼んだのもあの子だ。そして、あの子はウサギのぬいぐるみを持って現場から離れたんだ。

ウサギのぬいぐるみは事故があった直後から彩香ちゃんが救急車を呼んで現場を離れるまでの短い間だけしか現場になかったんだ。

ゆかりは、いつそのぬいぐるみを見たのかな? さっき言ったよな。周りには誰もいなかったって。

彩香ちゃんは事故を目撃してからすぐにぬいぐるみを拾ってるはずだ。

それなのに、ゆかりはその彩香ちゃんも見ていないって言うのか?」


 ゆかりの顔が徐々に青ざめていく。


「血まみれのウサギのぬいぐるみを見れたのは事故の直後だけなんだよ。

それを見てるお前は、事故を起こした張本人としか考えられないんだ。

お前の家にはたしか、遠藤明弘が使っていた原動付き自転車があったよな。

あれ、どうした? まだ家にあるのか?」


「あれは、故障したから知り合いに引き取ってもらいました」


 弱々しく答えるが、声が震えていた。


「その、知り合いって誰なんだ?」


 ゆかりは答えられない。


「あの日、カラオケに遅れたのは。事故を起こしたからなんだろ? しずるさんは死んだ訳じゃない。今からでも、自首するのは遅くないと思うぞ」


 ゆかりはがっくりと肩を落として。ぽつりぽつりと話しはじめた。


「先生。私、少し前から原付に乗ってたんです。免許は学校に内緒でこっそり取りました。時折、兄の原付を借りて使っていたんです。

 あの日は、本当は家に帰ったらすぐに出かけるつもりだったんです。

でも、洗濯物をしまったり、少し部屋の片づけをしていたら、思ったよりも時間がかかってしまって、このままだと、友達との約束に遅れてしまうと思ったんです。

原付を使うときはいつも兄に言っておくんですが、この日、兄はまだ学校にいて、少し借りるぐらいなら良いかと思って連絡せずに原付に乗ってカラオケに行ったんです。

 急いで運転すると駄目ですね。早く行こう。早く行こうとばかり思ってた私は、大通りに出ずに路地を通って近道をしようとしたんです。

 路地を結構な勢いで走っていたと思います。

自分の家の近くですし、いつも歩いている道なので気が緩んでいたのかもしれません。

路地を曲がった目の前に突然、人影が現れました。


いえ、私が人影の居るところに飛び出したと言った方が正解かもしれません。

気がついたときにはブレーキをかけても遅かったです。背筋が凍ったかと思った次の瞬間には衝撃が襲ってきました。

 私は、原付から投げ出されて地面に転がりました。落ちた場所がたまたま柔らかい砂地の上だったので私は大した怪我をしていませんでした。

 とっさに辺りを見回しました。すると、目の前に女の人が倒れていました。頭から血を流して。私はすぐに声をかけました。でも、返事は返ってきません。

 おそるおそる、顔をのぞき込んでみました。私は本当にびっくりしたんです。だって、それは時折、彩香ちゃんと遊びに行く家のしずるさんだったんですよ。

 知り合いを跳ねてしまって、頭からは血が流れ出ていて、本当に怖くて、怖くて。私は原付を持って家に逃げ帰りました。

しずるさんはその時、私には死んでいるようにしか見えなかったんです。だから、私には逃げるしかできなかった。

 しばらく、家で震えていました。すぐに誰か事故を見ていた人が私を責めにくるんじゃないか。しずるさんが私を恨んで追いかけてくるんじゃないか。そんな想像までしていました。

 もしからしたら、まだ生きているのかもしれない。そう思うと希望が沸いてきました。

でも、同時にしずるさんが目を覚ましたら、きっと私の事を言うだろうと思ったんです。

 事故を起こした瞬間、しずるさんと目が合った気がするんです。だから、いっそ死んでくれた方が良かったかもなんて事も考えました」


そこで、ゆかりは言葉を切ってうつむいた。


「遠藤明弘はその事故を知ったんだな。自分の原付で事故を起こしたんだ、気づかないわけがない」


 ゆかりは小さく頷いた。


「家で震えていた後、その震えた手で兄に電話したんです。電話で言えたのは、人を跳ねた。それだけだったんです。

 兄はすぐに帰ってきてくれました。私は泣きながら事の次第を話しました。話したと思います。自分でもはっきり覚えていないんです。

 すべてを聞いた兄は一言大丈夫だと言いました。それから原付の場所を私に聞きました。表に止めてある呟くと兄は外に飛び出していきました。

 それからずいぶん時間が経っていたと思います。いや、本当はそんなに時間は経っていなかったのかもしれません。

まだ日は沈んでいませんでしたから。

 兄は帰ってくると私を抱きしめながら大丈夫だと言い聞かせるように何度も何度も呟きました。

 私が落ち着きを取り戻した頃、兄は私を立たせて言いました。

 早く、友達の所に行きなさい。今日は待ち合わせをしているんだろう?

 私はそんなことまで話していたみたいでした。すぐに服を用意してくれて、送り出してくれました。


警察に行かなければいけないと言う気持ちは沸いてきませんでした。

 そう考える暇もないように兄は私を送り出してくれたのかもしれません。


私も、あの事故現場を思い出すと、怖くて警察に行く勇気はありませんでした。

 その後、友達と合流して遊びました。カラオケは間に合に合わなかったけど、夕食を取って、馬鹿なおしゃべりをして、本当に楽しかった。事故のことなんか忘れてしまっていたんです。

 家に帰ると兄が料理を作って待っていてくれました。

料理なんてできないくせに、下手なコンソメスープがありました。ほとんど味なんてしなかったのに、妙に美味しかったのを覚えています。」


 ゆかりの声は時折、大きく震えたりしたかと思うと突然、無機質なノイズの用に何の感情もないように淡々としゃべったりしていた。


「それから、しばらくは普段通りの生活を送っていました。

人に大けがを負わせた私が何事もなかったかのように生活をしているなんて、先生は私の神経を疑いますか?

でも、私にはそうする事ができなかったんですよ。

 私には忘れる事しかできなかった。あれは夢だったんだと思うことしかできなかったんですよ。

 そう思っていても、私はいつも怯えていたんです。

誰かが突然、私にあの事故を見ていたんだと言ってくるんじゃないか。

ずっと怯えていました。

あの事故を知っているのは私と兄しかいない、そう思ってもやっぱり誰かが私のことを捕まえにくるんじゃないか、そう思いました」


「そして、一週間後に遠藤明弘は死んだ」


 私はゆかりの声を遮るように言った。


「……」


 ゆかりはそう言うと黙ったまま固まってしまう。


「どれだけ、大丈夫だと言い聞かせても不安が取れなかった。その理由は実は自分でも分かっていたんじゃないのか?」


「どう言うことですか?」


「確かに、あの事故を見たのは誰もいなかったのかもしれない。

正確に言えば彩香ちゃんが見ていたのだけれど、彩香ちゃんは火事で亡くなってしまったしな」


 その言葉にゆかりの表情が曇る。

「だから、あの事故の犯人を知っているのは自分と兄だけ。そう思っていたんだろう? でも、逆に言えばだ」


 私はそこで、わざと一呼吸あける。


そして、ゆっくりとゆかりを正面から見据えた。


「自分以外に犯人を知っている人物がいると言うことだ。遠藤明弘と言う人物がな。

もしかして、明弘が自分のことを裏切るかもしれない。誰かに事故のことを話してしまうかもしれない。

いくら証拠隠滅を手伝ったとはいえ、結局、事故を起こしたのはお前自身だ。

気が変わって警察に駆け込んでしまうかもしれない。

 自分から、事故を隠そうとしたくせに。

 そう言う思いがどうしても抜けなかった。だから、だからどうやっても不安が無くなることは無かった。

 そして、一週間が過ぎた頃、お前と遠藤明弘との間で何かがあった。実際に遠藤明弘が警察に言おうとしたのかもしれない。

それとも、別の何かで揉めたのかもしれない。それは、分からないが、遠藤明弘はお前にとって敵となる行動を取った。だから、遠藤明弘を自殺に見せかけて殺したのか?」


「ふざけないで!!!」


 ゆかりが大声で叫んだ。



「私が、私がそんな事で兄を殺す? 馬鹿にするのもいい加減にしてください!

兄は、私にとってたったひとりの家族なんですよ?

とても大事な人だったんです。とても、とても大切な人なんです。

それを、たったそんなことで私が兄を殺すわけがないじゃないですか!

 そんな事で兄を殺すぐらいなら、私はすぐにでも警察に出頭していますよ!!!」


 その顔は目が血走っていて、顔の筋肉という筋肉が盛り上がって蠢いているような表情だった


「じゃあ、なぜ遠藤明弘は死んだんだ?」


 私は努めて冷静な声で言った。


「実際、事故の犯人は私にばれるまで、誰にも分かっていなかったんだろう?

それとも、明弘にはその事故以外に死ぬ理由があったとでも言うのか?」


「ありました」


 急にゆかりの顔が無表情になり、声から熱が消えた。


その様子に背筋がぞっと寒くなった。


「そうですね。先生。私は確かに兄に裏切られたと思いました。

いえ、兄は確かに事故のことは警察には話していなかったと思います。

それを確認するすべがありませんから、もしかしたら、話していたのかもしれませんけど。

今日まで、私が捕まっていないことを考えると、やっぱり話していなかったんじゃないかと思います。

 だから、私が裏切られたと思ったのはそんな事じゃないんですよ。

 先生は、私たち兄妹に両親がいないことは知っていますよね?

私たちが小さかった頃に病気で死んでしまいましたから。

 それから、私たち二人はいつも支えあって生きてきました。兄はあまり賢い方ではなかったと思います。

勉強はできましたけど、人間関係って言うんでしょうか、人との付き合い方があまりうまい方ではなかったと思います。

 兄は、素直すぎたんだと思います。

人に対して裏表を作れるような人ではありませんでしたし、人を騙すどころか、嘘も苦手でしたし、人を使うことだってとても苦手でした。

 だから、その辺りは私の担当でした。

私たちの味方になってくれそうな大人にはそれと気づかれないように、媚びを売りましたし、なるべく人と摩擦を起こさないように生活を送れるように動いてきました。

 人の嫌がることを率先してやるようにしていました。

でも、決して目立つことはしないようにしてきました。

目立つことは人との摩擦の原因になることを知っていましたから。

 なるべく、目立たず陰から人を支えるのが大切なんです。

先生には分かりにくいかもしれませんね。

先生はいつも正しいですから。先生は自分の思ったとおりの人生を歩いてきたんだと思います。

それは良いことですよ。私は本当にうらやましいと思います。

 でも、私たちにはそれは許されなかったんです。

私たちはわがままを言えば、周りの人に迷惑をかけましたし、私たちの面倒を見てくれていた人たちに嫌な思いをさせたくなかったんですよ。

 そんな風に、気を使ってきた私には兄の性格は救いでした。すぐ人に騙されたり、使われたりするのはイライラすることはよくありましたけど、それでも、やっぱり、兄は私にとって救いでした。

 私たちは約束しました、いつまでも、二人で生きようって。いつまでもいつまでも二人でいようって。

兄は私にとってとても大事な人でした。

兄の為なら何でもできる気がしました。二人で、一緒にずっと暮らしていけると思いました。

 ある日、兄に恋人ができました。私はその人があまり好きではありませんでした。いつも、無邪気で、天真爛漫を装っていて。

 なぜ装っていると思ったかですか? そうですね、私も女ですから、分かるんですよ。たしかにあの人は元々、無邪気な人だったんだと思います。でも、兄と接しているときの無邪気さは、兄に対する、アピールだったんだと思います。

 間違ってはいないと思いますし、当然だと思います。あの頃は私もまだ、若かったですから、先生は今でもまだ若いと言うかもしれませんね。

 今思えば、あの人は私に似ていたんだと思います。だから、私はあの人を好きになれませんでした。

 それから、兄とその人の間に何があったかは私には分かりません。でも、数年したころ、兄とその人は別れました。

 私はほっとしたんです。これで、兄は私の所に帰ってくるって。

実際、兄はまた私に優しくなりました。優しくすることであの人の事を忘れようとしていたのかもしれません。

 それでも、私はかまいませんでした。兄が私のもとに帰ってきてくれたのですから。

 それからは平和な日々でした。あの日が来るまでは」


「お前が事故を起こした、あの日か」


 ゆかりは私の言葉に首を横に振った。


「先生、言ったじゃないですか。あの事故で兄に裏切られたことなんて全くないんですよ。問題なのは、あの火事の方です」


「火事だと?」


 私の心がざわざわと波だつ。ここで、あの火事の話が出てくるのは予想外だったのだ。


「いえ、正確に言うと、あの火事で亡くなった、彩香ちゃんです。先生は彩香ちゃんは誰の子供か知っていますか?」


「それは、洋子の子供だろう?」


 そんなこと知らないわけだろうと私は少し憤慨した。

しかし、私の言葉を聞いてもゆかりは何も答えずただ私の方を見つめていた。

その目は焦点があってないようでもあったし、たえず私の瞳を見つめ続けているようにも見えた。


 その瞳は、彩香が洋子の子供だと言う事実以外にまだ何かがあるようなそんな目をしていた。


嫌な想像が頭に浮かぶ。そんな事は無いと思いながらもそれを口に出して確認しないと気が済まなかった。







「まさか…彩香は、遠藤明弘の、遠藤明弘先生の子供だとでも言うのか!?」


 私は思わす叫んでいた。ゆかりはその質問には答えなかった。


無言が肯定だと言わんばかりだった。


年齢的にはあり得ない話ではなかった。


遠藤明弘は確か、洋子と同じ年齢ぐらいだったはずだ。


彩香ちゃんの年齢を考えると洋子が18歳の時の子供のはずだ。あり得ないことではない。


「でも、洋子にはずっと片思いの相手がいたはずだ!」


「さすがは親友と言うところですね、先生。私は当時、そんなことにはまったく気がついていませんでした。兄もそうだったと思います。

 兄は純粋に洋子さんが自分を好いてくれていると信じていました。

兄は本当に洋子さんの話をするときは楽しそうに話してくれたんですよ。

洋子は本当に無邪気に笑うんだ。洋子は本当に優しいんだよ。

彼女がいるとその場の空気が明るくなるんだ。

 本当に、楽しそうでした。幸せそうでした。だから、私も洋子さんを受け入れよう。

偉そうですね。自分でもそう思います。

洋子さんのことは好きになれなかったけど、二人の事を認めようと少し思っていたんです。

 でも、二人は別れてしまった。何が原因かは私も知りません。

でも、兄が別れを告げられたらしいということはわかりました。

兄が一週間ほど泣き続けているときに時折、その様なことを呟いていましたから。

 あれから、もう8年も経ったんですね。

時間っていうのは残酷です。

正直に言うと、私は洋子さんを見ても、兄と付き合っていた人だとは気がつきませんでした。それほど、洋子さんの印象は変わっていたのかもしれません。

兄も洋子さんの存在に気がついていませんでした。

洋子さんも意識して兄を避けていたのかもしれませんね。そこは私には分かりません。

 だから、私は彩香ちゃんが兄の子供なんて知りませんでした。

もし知っていたら、仲良くなんてできませんでしたから。

 私がその事実を知ったのは洋子さんが亡くなってからです。許せなかった。

兄が誰と付き合おうとそれは受け入れることができます。でも、子供は駄目。

 兄と私は世界にたった二人の血の繋がった兄妹なんです。

兄の血を濃く継いだ子供だけは許せなかった。

二人で生きようと言ってくれた兄の裏切りだと思ったんです。

 私より兄との血の絆が強い存在は存在してはいけないんです。


先生もそう思いませんか?


 しかも兄は彩香ちゃんが自分の子供だと気がついてしまった。

そして、兄は彩香ちゃんを一生、思い続けていくって言ったんです。

自分で殺したくせに。生きている私より死んだ彩香ちゃんを取ったんですよ兄は。

 だから、私は兄を殺しました。血の繋がりよりも強い

絆。

兄を殺して、兄を殺したという秘密を兄と共有する。

それをする事で、私たち兄弟はずっとずっと一緒にいられるんです。

誰にも切ることのできない強い絆を作れたんですよ。


あれ、先生顔色が悪いですね。どうかしたんですか?」


吐き気がこみあがってきていた。


こいつは頭がおかしい。


…でも、私はまだゆかりに聞かなければならない。




「誰に、そそのかされたんだ?」


私の質問に不審な顔を向ける。


「何のことですか?」


「ただ殺すだけなら、ただ感情に押し流されて殺したなら、あんな体育館の準備室で自殺のように殺す必要なんて全くないんだよ。

しかも、翌朝西垣先生が見回りにきて、すぐに発見されるようにする必要性がまったくない。

 ゆかり、お前は誰に指示されて、明弘を殺したんだ?」


「私は、私の意志で兄を殺したんです!!」


 ゆかりは気が狂ったように叫ぶ。


「嘘をつくな。貴様は、誰かにそそのかされて、兄を殺したんだ。

自分の意志ではなく、自分の意志だと信じ込まされて。

貴様は第三者に兄との絆とやらを仕組まれて行動していた。そこにお前の意志などない。

 貴様はそう言う人間なんだ。何が、自分は人付き合いが下手な兄の代わりに人に媚びを売って生きてきただ。

貴様は世間から逃げていただけじゃないか。

遠藤明弘は逃げずにどんな大人や、世間にもまっすぐに向かっていったんじゃないのか?

貴様はその時何をしていた? 正面からぶつかっていく兄を馬鹿にして、自分はうまく立ち回っていると自分を誤魔化していただけじゃないか。

 私が正しいだと? ああ、正しいとも。

私は自分に正直に生きているからな。少なくとも貴様よりは間違いなく正しい。

 洋子が貴様に、似ているだと? おこがましいにもほどがある。

貴様にそう見えたという事は、貴様自身がそうなのだ。他人の顔色を伺って、相手に合わせて、自分という鏡に相手を写して貴様はそれを真似していたに過ぎない。

 所詮、貴様は誰かが周りにいないと自分を保てないのだ。表現できないのだ。

貴様の中に貴様は何ひとつない。貴様は周りにいる人間のかけらの寄せ集めだ。

 だから、貴様の中で重要だという、その絆とやらも、他人に何かをされないと行動できない。

自分ですべて決めただと? 嘘をつけ。誰かに指示はされなかったかもしれない。

しかし、本当に遠藤明弘を殺す事が強い絆を作るといった事を考えたのは本当に貴様なのか? 私にはとてもそうは見えない。貴様にそんな器はない。

 貴様は他人に影響されて、この世にたった一人しかいない兄を無惨に残虐に自分の意志も意味もなく殺した最低の人間だ」


 そこまで、一息で言ってゆかりを見据える。


ゆかりはしばらく黙っていたかと思うとふらふらと歩きだした。


「おい」


 引き留めようと立ち上がった瞬間、肩と脇の痛みが走り、思わずどすんと尻餅をつく。


 その音が引き金だったかのようにゆかりは駆けだした。私は、ゆかりを追いかけるために気力を振り絞って走り出した。

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