蛇神様の由来
俺とレイは今日も図書館へと足を運んだが、思えばレイの事件についてではなく別件で向かうのは初めてだった。
今日も見事な快晴で、図書館に着いた時にはしっかりと汗をかいていたが、クーラーでゆっくり涼むことなく俺はすぐさま資料を探し始めた。
順序としてはまず怨霊神社と呼ばれる神社の制式名称を調べ、その神社で過去どのように蛇神様が奉られていたのかを知ることから手を着けるつもりだ。蛇神様について調べに来たが、ピンポイントで調べるよりその周囲から始めることでより詳しく背景を知ることができる。そのことをレイの事件の調査をする中で俺は見出だした。それに、永生達には蛇神様についてある程度は教えてもらえたが、怨霊神社については詳しく聞いていなかったこともあり、奉っていた神社を先に調べることが妥当ではないかと判断した。
パソコンで調べようと思ったが、今日はすでに四台すべての席を埋められていた。しばらく空きそうもないので、俺は郷土コーナーへと足を運ぶ。
もう何回も通っていることもあり案内板を見ずとも、どこにどのジャンルの本や資料が置いてあるのかほぼ頭に入っていた。迷うことなく郷土コーナーへ辿り着き、怨霊神社周辺の数冊の資料を持ち出し空いている机に腰を下ろした。
「んじゃ、始めるか」
俺は資料のページを捲っていった。
数時間が経過し、俺はようやく最後の資料を閉じて調査を終えた。おかげで怨霊神社及び蛇神様についてより詳しく知ることが出来た。
「なるほどね」
腕を組み、資料をじっと見つめた。
「
調べた結果、怨霊神社の制式名称は白之蛇神社と言うようだ。その名の通り蛇神様のための神社である。元々はただの石が積み立てられていたようだが、村を守ってくださる蛇神様にそんな粗末な所に留まらせる訳にはいかないと、村人総勢で神社を建てたという。そして、緑の目に白い鱗をまとい、その姿から取って『白之蛇神社』と名を付けたそうだ。
相澤達が言っていたように、白之蛇神社に蛇神様を奉っていたのだが、順序的には村の後から作られたようだ。言い伝えによると以下のように資料には記されていた。
******************
大昔、長田軍と武井軍という両軍の武士達の争いがあったのだが、長田軍の武将が戦いに敗れ多くの部下たちは武井軍に降伏した。しかし、一部の部下は降伏した場合処刑されることを恐れ、命欲しさにその場から逃げ出した。
なんとか逃げ切れた一部の部下達は家に戻ることも出来ず、別の地で新しく生活をしようと意見が一致。武士を辞め、農民として新たな人生を送ろうとした。
いつ敵軍や知り合いに見つかるやもしれないと考えた末、彼らは遠く離れた山を切り拓き自分達の住居を作る計画を立てた。幸いなのか逃げ出した者の多くは器用で、すぐに住居と小さな畑を作り上げ、難なく生活出来るようになった。
ある日、畑へ作業をしに山道を歩いていた四人組がいたのだが、突然上から落石が降り注いだ。三人は軽傷で済んだのだが、その内の一人が足を折る重傷を負ってしまった。出血も酷く、すぐに手当てをしないと命に関わるほどである。しかし、三人組はそういった道具は持ち合わせておらず、村に戻ろうともしたが村の誰一人医の心得を持つ者はいない。傷を負った男は激痛から酷く苦しみ喚き、三人はそれをただ眺めていることしか出来なかった。
すると茂みからガサガサと音がし、三人はそちらの方を振り向いた。しばらく眺めていると茂みから一匹の白蛇が姿を現した。蛇を目にした三人は驚き、追い払おうと手に持っていた農具を振り回した。しかし、白蛇は動じることなく逆に威嚇をしだした。
蛇にしてはあまりに迫力のある威嚇で三人は後ずさってしまった。それを確認した白蛇はウネウネと身体をくねらせ、怪我を負った男に近付いた。白蛇は男の様子を眺め、怪我を負った足で目を止めた。そして次の瞬間その足に噛みついた。
それを見た三人は仲間はもう助からないと思ったようだ。しかし、三人の目に驚くべき光景が入った。
噛みつかれた仲間の足の怪我がみるみる治癒されていったのだ。青く腫れ上がり、裂けて溢れ出ていた血が止まり、傷口も塞ぎ始め、数分後には完治していた。
傷を負い先程まで痛みから騒いでいた男が、急に痛みが無くなり「あれ?」という表情をしたのち、自分の足が完治していることに気付いた。傍らには白蛇がこちらを優しそうな目で見つめており、自分の傷を治したのはこの白蛇だと察した。男は白蛇に礼を言うと白蛇は茂みの中に戻っていった。
四人の男達は住居に戻り、残りの仲間にも白蛇の出来事を話した。しかし、誰も信じてくれず結局は流されてしまった。
月日は流れ、白蛇の件を忘れかけていたとき、ある災難が男達に降り掛かった。自分達の畑が先日の暴風雨ですべてめちゃくちゃになってしまったのだ。もうすぐ収穫できる時期であり、楽しみにしていた分ショックは大きかった。
男達は荒れ果てた畑を目の前に途方に暮れていたら、ふと視界の右側に白いものが入ってきた。それは一匹の白蛇だった。白蛇は畑を一瞥し、中に入って這い始めた。すると白蛇が通った後に次々と作物が元通り、いや前よりも数や大きさが増えている作物が実り出したのだ。男達はその光景を唖然と見つめ、自分達の命を守ってくれたと言っても過言ではない恩恵に全員が白蛇に地に伏せ頭を下げた。そして白蛇はまた茂みに姿を消していった。
それからも度々災難が降り掛かっては白蛇が姿を現し男達を救い続けていったという。彼らは白蛇を神様と崇め、蛇神様と呼ぶようになった。そして、男達の元には他所から来た者が徐々に増え、いつしか村とまでになる大きな集落になったのだ。
これもすべて蛇神様のおかげであると思った村人は、蛇神様にお礼を伝えようと居所を探し始めたのだが、見つけた場所は石が積み立てられただけの墓石のような場所であった。それを見た村人は--。
******************
「神社を建てた、と」
神社を建てた経緯はこんなとこのようだ。そして、相澤達の言っていたようにその村は過疎化し、お参りする者がいなくなり怨霊神社と呼ばれ、蛇神様は怨霊になった。
「これ読むと、なんか怨霊になっても仕方ないと感じるな~」
これだけの恩恵を村人に与え続けていたのだ。過疎化したとはいえ、お参りし感謝されなくなってしまったら怒りを募らせても当然な気がしてきた。
白之蛇神社の歴史と蛇神様についてはだいたい分かった。しかし、俺は他の事への意識
が強かった。
「でも、もっと驚きなのは......」
「あれ? 森繁さん?」
後ろから声を掛けられ、振り向くとそこには唐澤の姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます